K118.北の丸露場における夜間の気温鉛直分布


著者:近藤純正
東京の北の丸公園内に設置されている北の丸露場は高さ2mの盛土である。 そのため、他の森林公園における気温と比較する場合、特に安定成層となる晴天夜間は やや高温に観測されることが予想される。
これを観測から確かめたところ、夜間に0.2℃~0.3℃程度高い気温が示された。この数値 は盛土上の観測であることを考慮すれば、は説明できることがわかった。 (完成:2015年12月4日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2015年12月2日:素案の作成
2015年12月3日:細部に加筆・修正
2015年12月4日:字句を修正、完成


  目次
      118.1 はしがき
      118.2 観測方法
      118.3 観測結果
   118.4 まとめ


観測協力機関
環境省自然環境局皇居外苑管理事務所北の丸分室


118.1 はしがき

東京白金台の森林公園「自然教育園」において、これまでに観測してきた 晴天夜間の気温を北の丸露場における気温と比較すると、北の丸露場がやや高めであり、 僅かではあるが気になるところである。

高めの原因として、北の丸露場は高さ2mの盛土であり、(1)気温観測用の 吸気口の露場面からの高さ1.5mで観測される夜間の気温は林床上1.5mよりも高い レベルの気温であること、(2)露場面上にできる夜間の冷気は四方に流れ去ること、 の2つが考えられる。

盛土が悪いということではなくて、他の森林の林床上の高度1.5mにおける気温と 比較する際の注意点である。

気温の違いについては、具体的に次の通りである。

(例1)冬期の例
自然教育園の開空間(旧管理棟跡)において、2014年12月18日~2015年 2月10日の快晴夜間21日間に行なった気温鉛直分布の高度1.5mの気温と北の丸露場の 気温を比較すると、北の丸露場の気温は約1℃の高めである (「K101.森林公園内の気温-北の丸公園と自然教育園」 の図101.12を参照)。

このときの対数目盛上の高度5mと0.2mの気温差は約2.5℃であった。気温の鉛直 勾配上での違いの目安となる比は1/2.5=0.4である。

(例2)夏~秋の例
自然教育園の林内で行なった2015年6月15日~10月13日の快晴夜間21日間(6月15日-7月 15日の7日間、7月21日-8月6日の10日間、9月22日-10月13日の4日間)の高度1.5mの 気温と北の丸露場の気温を比較すると、北の丸露場の気温はそれぞれ約0.3℃、0.4℃、 0.1℃(平均=0.27℃)の高めであった (「K117. 自然教育園の林内気温、6月~10月」) の図117.9を参照)。

このときの対数目盛上の高度5mと0.2mの気温差はそれぞれ約0.6℃、0.7℃、0.1℃ (平均=0.47℃)である。気温の鉛直勾配上での違いの目安となる比は、0.27/0.47 =0.57である。

本シリーズ研究では、気温観測の精度±0.1℃より高精度の範囲内で議論しており、 0.1℃以上の差がある場合は観測によって確かめておかねばならない。

本章では北の丸露場脇で快晴夜間の気温を観測し、気になる上記のことを確かめる ことにした。


118.2 観測方法

図118.1は北の丸露場の写真である。東京都心部の地上観測点が大手町露場から北の丸 露場に移転される前の2011年7月に撮影したものであり、また露場の盛土斜面や露場下の 広場の芝地は未完成であるが、現在は綺麗な芝地となっている。

東京の新露場全景
図118.1 北の丸露場、露場の南南東方向から北北西方向を撮影(2011年7月22日)
「写真の記録」の 「93.東京の新露場」の図93.2に同じ)。
写真中央のやや左よりの黒い 箱は「現在の気象」のデジタル表示盤、 土盛りして2mほど高くなったところが露場。観測を行なった2015年現在、露場の 盛土斜面や露場下の広場には手入れされた芝生が生えている。気温鉛直分布観測用 の気温計は表示盤の右方の手前の位置に設置した。


気温計を設置した場所のレベルは露場面から2.1m低い。この地点で、高度0.2mと 1.5mの気温を観測した。高度0.2mの気温観測用通風筒は水平に、高度1.5mの通風筒 は斜めに取り付け吸気口が地表面上1.5mになるように設置した。

気温計
気温観測では高精度の強制通風式気温計を用いた。この気温計の総合的誤差(通風筒に 及ぼす放射影響を含む)は0.03℃程度である (「K92. 省電力 通風筒」「K100. 気温観測用の次世代通風筒」)。

センサーは白金抵抗体のPt1000オーム、受感部の直径は2.3mmを用いている。 気温のサンプリングは20秒間隔である。気温観測用の通風筒のファンモータの電源は 12ボルト、0.06アンペアであり、単三乾電池を用いた。

観測の日時
快晴夜が期待された2015年11月30日の夕方から翌朝12月1日9時まで観測した。

30日の夕方は雲があり、16~18時の雲量は5~7であったが、19時以後は快晴となった。 気温鉛直分布に及ぼす雲の影響がほとんど無視できると判断した21時から翌朝 6時までの9時間の観測値を採用することにする。

解析に用いる観測データ
北の丸露場、盛土露場面上1.5mの気温:気象庁のルーチン資料(10分間隔)
露場下の芝地上の気温:地表面上1.5mと0.2m(20秒間隔)
(20秒間隔は日中の新宿御苑、明治神宮、代々木公園、北の丸公園における観測と同じ)

北の丸公園科学技術館屋上の風速、地上高度35m:気象庁のルーチン資料(10分間隔)

露場の気温は高度3.6mの値とみなして解析する。
20秒間隔で記録した高度1.5mと0.2mの気温は前後5分間移動平均値(10分間移動平均 値)をグラフ上では表示する。

118.3 観測結果

図118.2は気温(上図)と風速(下図)の時間変化である。観測高度35mの風速は、 特に安定成層となる夜間の露場付近の低高度の風速を代表するものではないが、 おおよその傾向を示していると見なしてよいだろう。早朝の露場付近では、ときおり 1~2m/sの風速を感じた。

気温と風速の時間変化
図118.2 気温(上)と35m高度の風速(下)の時間変化。


図118.2(上)によれば、各高度の気温は気温差がほぼ一定の状態で時間変化をしていることが わかる。露場気温を基準にすると気温差は21時~6時の9時間平均値で0.15℃(露場と 1.5m高度の気温差)、0.82℃(露場と0.2m高度の気温差)である。

3時間ごとの平均気温を表118.1に示した。


表118.1 平均気温(℃)の表
露場面上1.5mのルーチン観測値は夜間の通風筒に及ぼす放射影響の誤差は未補正
 
 時 刻 高度0.2m気温 高度1.5m気温   露場気温  気温差(露場-高度1.5m)
 21-24        7.42℃        8.11℃         8.27℃    0.16℃
  0- 3        5.93          6.54           6.70     0.16
   3- 6        5.67          6.39           6.51     0.12

   平均        6.34          7.01           7.16     0.15



図118.3は21時~6時の9時間平均気温の鉛直分布である。高さは対数目盛で表してある。 破線は下層気温のいわゆる「対数分布」である。仮に理想的な平坦地であれば、実際の気温 鉛直分布は高度の高い範囲で破線より右に曲がった、いわゆる「安定成層時の気温分布」と なるが、この4m以下の範囲では「対数分布」となっている。

気温と風速の時間変化
図118.3 北の丸露場とその下の芝地面上における夜間の気温鉛直分布。 露場面高度1.5mのルーチン観測値は盛土を考慮して高度3.6mにプロットしてあり、 通風筒に及ぼす放射影響の誤差(晴天夜間は0.05~0.1℃程度低めに観測される) は補正していない。


図118.3では、露場面高度1.5mのルーチン観測値は盛土を考慮して高度3.6mに プロットしてあり、通風筒に及ぼす放射影響の誤差(晴天夜間は0.05~0.1℃程度低め に観測される)は補正していない。放射影響の誤差は 「K84.観測露場内の気温分布―熊谷」の図84.4を参照のこと。

自然教育園の開空間(旧管理棟跡)における快晴夜間の気温も (「K101.森林公園内の気温-北の丸公園と自然教育園」 の図101.2)、対数分布となっている。

晴天夜間の安定成層時の、いわゆる「対数分布」が観測される理由の 一つに次の問題がある。
通風筒吸気口の外筒の内径=70mm、内筒の内径=24mmであり、地表面近傍 0.2mでは 0.1m~0.3m範囲の気温を平均化した空気を吸気していることが考えられる。

すなわち、0.5m以下のごく低層の気温は安定成層時でも「対数分布」で 近似されるので、吸引される平均化高度0.2mの気温は真高度0.2mの気温より低温と なる。つまり、0.2m高度のプロットは、それより低い高度の実気温を示している。

この問題は別にして、露場で観測されるルーチン気温は盛土によって林床面上の高度1.5mよりも 高い高度の気温を観測していることが観測によって確かめることができた。

露場のルーチン気温(7.16℃)と高度1.5mの気温(7.01℃)の気温差=0.15℃である。 この気温差について、対数目盛上の高度5mと0.2mの気温差は約0.95℃であり、 「はしがき」で述べた自然教育園におけるのと同様な比較をしてみると、気温の鉛直 勾配上での違いの目安となる比は0.15/0.95=0.16となる。0.16は自然教育園で得た比 (0.40と0.57)に比べて小さい。

この比=0.16が小さいのは、わずか一夜の観測であることのほかに、気温場が北の丸 露場と自然教育園で異なることが考えられる。すなわち、自然教育園は北の丸公園 に比べて、より自然に近い密な森林であり、林床上の気温が全般的に低めになって いることが大きな原因と思われる。

植生密度の高い森林ほど、林床に届く日射量が少なく、疎な森林に比べて昼夜ともに 低温であることはこれまでの報告で示してきた。日中については、
「K111.北の丸公園の日中の気温分布(2)」
「K114.明治神宮・代々木公園の日中の気温水平分布(3)」、
「K115.新宿御苑の気温水平分布(2)」
に示されている。

夜間については、自然教育園の20m観測塔の近くでは、昼夜ともに林床面上の気温は 林外気温よりも低温である (「K117.自然教育園の林内気温、6月~10月」)。

118.4 まとめ

北の丸露場は高さ2mの盛土になっており、他の森林公園における高度1.5mの気温と 比較する場合、特に安定成層となる晴天夜間はやや高温に観測されることが予想された。 これを観測から確かめたところ、盛土の高さを考慮すれば、夜間のやや高温ぎみの 気温は説明できることがわかった。

ルーチン観測用の通風筒に及ぼす放射影響の誤差(晴天夜間は0.05~0.1℃程度低め) を考慮すれば、露場面上1.5mの気温は林床面上1.5mの気温よりも0.2~0.3℃ほど 高めである。


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