K197.地球温暖化観測用の高精度通風筒、準備試験


著者:近藤純正
長期にわたり気温を正確に観測する高精度通風筒についての試作・試験である。 現在使われている代表的な通風筒を改造し、基準の高精度通風筒と比較し放射 影響誤差を調べた。

気象庁の04Bアメダス通風筒(TV-150:小笠原計器製作所、現ANEOS社製)と 近藤式精密通風気温計(プリード社製)の2種類について部分的に改造し、 風速1~2m/sのとき晴天日中の放射影響誤差を0.05℃以内にすることができた。 アメダス用は保守点検作業が容易であるが高価で重いのに比べ、近藤式は安価 で軽量である。(完成:2020年5月5日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2020年4月27日:素案の作成
2020年5月4日:基準器の誤差「0.02℃~0.03℃」を「約0.1℃以下」に訂正
2020年5月5日:ミスプリントなど細部を訂正

    目次
        197.1 はじめに    
        197.2 近藤式精密通風筒の工夫点
        197.3  通風筒の改造と試験
            その1 地球環境センタ-の現通風筒の部分的改造
            その2 長期観測用の近藤式精密通風筒
            その3 気象庁アメダス通風筒の改造型
        まとめ
        文献           


謝辞
ANEOS株式会社から気象庁のアメダス通風筒をお借りして、試験することができた。

197.1 はじめに

気温観測に必要な精度
気温観測では温度センサに及ぼす放射影響を防ぐために百葉箱が使われてきた。 しかし、晴天日中の微風時に百葉箱内は1℃ほど高温になることから1970年半ば以後は強制 通風筒が使われるようになった。気象庁その他で使われている強制通風筒では、 晴天日中の放射影響誤差が0.15~0.5℃程度である( 「K90.通風筒(ノースワン社製)に及ぼす放射影響」の表90.1; 「K99.通風筒の放射影響(気象庁95型、農環研09S型)」「K100.気温観測用の次世代通風筒」を参照)。

自然通風式シェルターはファンモータがないため電源が不要で一般に使われる ことが多いが、放射影響誤差は1℃前後、最大5℃を超えることもある (「K98.自然通風式シェルターに及ぼす放射影響誤差」)。

天気予報など通常の暮らしでは気温の観測精度(許容誤差)は0.5℃でよいが、 産業活動ではこれよりも高精度が必要な場合がある。米作では、夏3ヶ月間の平均 気温が平年に比べて1℃以上の低温年はコメ収量が大凶作となり、経済に大きな 影響がでる。

20世紀における地球温暖化量は100年につき0.7℃程度である(近藤,2012; 「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」)。 また、最高気温や最低気温の新記録が観測されたとき、0.1℃の違いが世間では 話題になる。これらのことから、気候変動や極値の根拠となる気温の観測精度は 少なくとも0.1℃、これよりも高精度であることが望ましい。

本論の目的
放射の影響による気温の観測誤差「放射影響誤差」が0.1℃以内となる長期観測用 の高精度通風筒の製品化を目指し、まず、手製の試作品について試験する。

通風筒の選定
精度が高い、価格が安価、重量が軽い、保守点検が容易、の4項目によってどの 機種を選ぶかが決まる。本論では、現在使われている代表的な通風筒として (a)気象庁で使われているアメダス通風筒(小笠原計器製作所製:現ANEOS社製)と (b)近藤式精密通風筒(プリード社製)について比較する。

前者(a)は後者(b)に比べて2倍以上高価で重いが保守点検が容易である。保守点検 が容易であることは重要であり、観測現場で分解掃除するとき、ビスなど落として 行方不明になることがないような作りになっている。欠点は、排気が下向き構造 になっていることである。この種の通風筒では、一般に、微風時に排気が再び 吸気口から吸引され循環し気温が0.2~0.4℃ほど高温に観測されることがある。 その例は「K90.通風筒(ノースワン社製)に及ぼす放射影響」 の図90.4に示されている。なお、本論では、循環流を防ぐ作りに改造する。

後者(b)は安価なことと構造が簡単で軽く高精度であり、数時間の移動観測から 10年程度の短期的な研究用にも適している(図197.1)。後者の欠点は降雪時に 生じ、排気の循環防止円板(ひさし)に雪が付着し排気を邪魔することがある。 なお、本論では、降雪時に排気が付着した雪に邪魔されないよう縦形通風筒 (「K126.高精度通風式気温計の市販化」)と横形 通風筒(「K146.高精度気温観測用の横形通風筒」) を合併させた45度の傾斜形通風筒に改造する。

短時間観測
図197.1 移動観測など短時間観測時に用いる近藤式精密通風筒の設置例。 縦形通風筒を斜めに取り付けて重心が三脚の中心軸上になるようにしてある (「K126.高精度通風式気温計の市販化」 の図126.4に同じ、ただしこの写真は未完成品であり通風筒の外筒の表面は白色 塗装されていない)。


本論では、前記(a)および(b)の改造によって、両機種とも放射影響誤差が 0.05℃程度またはそれ以下になる。したがって、高精度の長期観測用としての 通風筒は、

○価格が安価
○重量が軽い
○保守点検が容易

の3項目のどれに重点を置くか、選定者の好みや考え方によって選ばれることになる。


197.2 近藤式精密通風筒の工夫点

本論では、近藤式精密通風筒で考慮されている工夫にしたがって通風筒を改造 するので、その工夫点を復習しておこう。

通風筒各部の呼び名
温度センサに及ぼす放射影響を防ぐために2重または3重の通風筒が用いられる。 直射光が直接当たる外側の円筒を「外筒」、センサにもっとも近い内側の 円筒を「内筒」と呼ぶ。3重構造の場合、外筒と内筒の中間に置く円筒を 「中間筒」とする。外筒、中間筒、内筒は通風筒の先端の約半分を占め 「吸気部」と呼ぶ。ファンモータまでを「接続部」、ファンモータ から排気口までを「排気部」とする。

温度センサ受感部に直接当たる地面反射量と地面からの熱放射量(長波放射量) を微少にするために、内筒の奥にセンサ受感部を置けば、受感部から地面が見える 立体角は小さくなる。この場合、立体角を小さくするために吸気口先端から受感部 までの距離を大きくし過ぎると、日中は気温に比べてやや高温となっている内筒 の内壁面上に形成されるやや高温の内部境界層の内部に受感部が入ることになる。 それゆえ、センサ先端の受感部が内部境界層内に入らぬよう適当な距離にしなけ ればならない。通常、受感部の位置は内筒先端から距離0.1m~0.15mの奥が適当 な距離となる。

センサに及ぼす放射の直接的影響を防ぐことのほかに、吸気口の外壁・内壁面 で発生する加熱(日中)または冷却(夜間)された空気が内筒内へ吸引されにくい 構造にしなければならない。

近藤式精密気温計の通風筒では、次の点が工夫されている。
(工夫1)温度センサに及ぼす放射の直接的影響を軽減するため、吸気部は2重の 塩ビ管で作る。
(工夫2)内筒と外筒の先端をずらして、吸気口で発生する加熱空気の内筒への 流入を軽減する。
(工夫3)吸気部先端を流線形とし、吸気口で発生する乱流を軽減する。
(工夫4)通風筒内部の構造を単純化し、吸気から排気までの流れをなめらかにする。
(工夫5)排気が吸気口の方向に向かぬようにして、微風時の排気循環流を防止する。
(工夫6) 吸気速度は5m/s以下とし、降雨時の微水滴を吸引しないようにする。

これら各工夫の詳細は次の通りである。
(工夫1)放射の直接的影響を軽減するために、吸気部は2重または3重の断熱材 の円筒を用いる。円筒の材質が熱伝導の悪い例えば塩ビ管の場合は、円筒の外壁 と内壁の温度差が大きく断熱効果が増しセンサに及ぼす放射影響は小さくなる。 ただし、気象庁が使用している通風筒のように、点検・分解掃除を容易にする ために外筒の外壁のみステンレスとしてもよい。その場合は3重構造が望ましい。

なお、近藤(1982)のp73~p76に示されているように、吸気部の円筒材として 熱伝導のよい金属を用いる場合、放射影響誤差を0.1℃以下にするには、2重円筒 では不十分で3重・4重にしなければならない。 例えば、晴天の正午前後で風速 1 m/s程度の条件を想定すれば、外筒の温度は 気温より10℃程度高温になる。その壁面からの熱放射(長波放射)で中間筒の 温度は数℃高温になる。中間筒の壁面からの熱放射で内筒の温度は概略 1℃の高温になる。その熱放射でセンサの温度も高温になる (正確な計算は、地面反射や通風筒の反射率などの条件を与えてp.73~p.76の 式に従って行う)。

外筒の外壁面は白色塗装する、ただし、ステンレスなど金属の場合は塗装しなくて もよい。外筒と内筒は先端部の約20mm範囲のみ白色塗装し、その奥の内壁面 はセンサに当たる散乱光を防ぐために黒に近い色であることが望ましい。

(工夫2)吸気部先端における加熱空気の内筒への流入を防ぐために、内筒の 先端は外筒の先端より適当な距離だけ奥にずらした位置に固定する。

通風筒内空気流模式図
図197.2 縦形通風筒の吸気部における空気流、日中の模式図。太陽の側にある 外筒外壁面には直射光が当たり高温(赤色の面)に、反対側の外筒外壁面には 散乱光が当たりやや高温(黄色の面)に、外筒先端部の内壁面と内筒先端部の 内壁面には地面反射光と地面からの熱放射が当たりやや高温(黄色の面)になる。


図197.2は通風筒の吸気部における晴天日中の空気流の模式図である。 外気が吸引されるとき、吸気口先端付近の通風筒外壁・内壁で加熱された空気は 内筒の外側と内側へ吸引される。吸気口付近の流れは乱流的であり、内筒の先端 と外筒の先端の距離が大き過ぎると、混合された加熱空気が内筒に入り気温が 高めに観測される。また、内筒先端と外筒先端が揃っていれば、内筒先端の 内壁面を加熱する地面反射量と地面からの熱放射量がより多くなり日中の気温は、 より高く観測される。これら両誤差の最小化のために、内筒先端が外筒先端から 適当な距離だけ奥になるようにする。

例えば外筒の外径が76mmで内筒の外径32mm(内径25.8mm)の塩ビ管の場合、 最適な距離は約20mmである。

(工夫3)吸気部先端を流線形にすれば、吸気流の乱流の度合いが小さくなり、 吸気口付近で加熱された空気の内筒への流入割合が小さくなる。流線形の吸気口 を付けるか、製作費節減のために、塩ビ管先端の内壁を斜めに削った半流線形に する。

(工夫4)外筒と内筒に挟まれた空間は障害物の少ない簡単な構造とし、 この空間の通風速度を弱くしない。そうすれば、通風筒内に入った加熱空気は 素早く通過し排気され、観測誤差が小さくなる。

例えば、気象庁で使用している95型や04Bアメダス通風筒(TV-150:小笠原計器 製作所、現ANEOS社製)は構造が複雑なために吸気口付近で加熱された空気が 外筒・内筒間で滞留しやすく素早く排気部に流れ出ていかない。そのため、 放射影響の誤差が大きくなる。

(工夫5)微風時の排気循環流を防止する構造にする。例えば縦形(鉛直形) 通風筒の排気が下向きになる構造の場合、微風時には排気は再び吸気口から 吸引されてファンモータによって加熱された空気の循環流ができて、気温が 高めに観測される。

(工夫6)放射影響の誤差を小さくする目的で、ファンモータの吸気速度を 大きくし過ぎると、降雨時に降水粒子に含まれる微水滴が吸引されてセンサ が湿球となり、気温が0.2~0.6℃ほど低めに観測されることがあるので、 吸気速度は5m/s以下とする(「K100.気温観測用の次世代 通風筒」の節100.3の(9)を参照)。

備考:気象庁で使用している通風筒(95型や04Bアメダス型)は、 いずれも、地面反射光が直接センサ受感部に当たるのを防ぐために、内筒の 吸気口の先端に遮蔽板が取り付けられている。しかし、温度センサの受感部 は内筒の奥深くにあるため、受感部から地面が見える立体角は微少で遮蔽板の 遮光効果は無視できるほどに微少である(「K100.気温 観測用の次世代通風筒」の節100.3の(7)を参照)。さらに、この遮蔽板 と内筒先端に付けられた空気流を収斂させる漏斗構造体は、地面反射光と 加熱地面からの熱放射を受けて加熱される。そのため、吸気口付近で生成 される加熱空気量が増加し内筒内部へ吸引される。この影響と、遮蔽板による 遮光効果を比較すれば、遮光効果は小さい。したがって、遮蔽板と漏斗構造体は ナシとすれば、精度が上がる。


197.3 通風筒の改造と試験

現在使われている代表的な通風筒を手製で改造し、「基準の高精度通風筒」と 比較し放射影響誤差を調べる。「基準の高精度通風筒」とは、近藤式精密通風 気温計(縦形:プリード社製)の原型となる手製の基準通風筒である (2重通風筒、KONDO-15S型、ただしガイド無し、ファンモータはDC12V、0.26A) (「K100.気温観測用の次世代通風筒」の図100.5 ~100.10)。「基準の高精度通風筒」の放射影響誤差は約0.01℃以下である (「K198.近藤式高精度通風筒の放射影響誤差」)。

なお、基準の高精度通風筒は他の通風筒の放射影響誤差を調べるためのもので、 通常の研究用観測に用いるときは、電力節約のために例えばDC12V、0.08A (約1ワット)のファンモータに取り替える。

試験に用いる温度センサと記録計
試験に用いる温度センサは4線式Pt100(受感部の直径は2.3mm)、記録計は 分解能・精度0.01℃の高精度温度ロガー「プレシィK320」(立山科学製) を用いる。温度センサは検定済みであり、さらに高精度の比較検定により 相互の相対的誤差は0.003℃である(「K145.高精度気温 観測用の計器・Ptセンサの検定」の145.3節の(4)校正付き高精度Pt温度計 による方法)。

代表的な通風筒として、気象庁の04Bアメダス通風筒(TV-150:小笠原計器製作所、 現ANEOS社製)と近藤式精密通風気温計(プリード社製)の2種類について部分的 に手製改造し、晴天日中の放射影響誤差を0.05℃程度またはそれ以下にする。 これは後掲の「その2」と「その3」で説明する。

手製改造によって誤差が0.05℃程度またはそれ以下になれば、メーカに改造品 の製作を依頼する。製品が完成すれば、その後の試験によって誤差が目的の 値になっているかを確認することになる。

試験地における風速の条件
通風筒の放射影響誤差は筆者の住宅の庭で行う。通風筒は地上に立てた単管 パイプに取り付け、吸気口の地上高度は1.9mである。今回は直接観測していないが、 以前に超音波風速計で測った地上2mの風速は暴風時でなければ、日中は ほとんどの場合1~2m/s、夜間は1m/s以下特に微風時は0.1~0.2m/sである。

試験の期間
試験は2020年3月9日~4月26日に行った。

気温の記録の時間間隔
気温の記録の時間間隔は1分ごととし、図では15分間の移動平均値を示す。

放射影響誤差の定義
放射影響誤差の定義は次式による。

相対誤差=(試験用の通風筒による気温)-(基準の高精度通風筒による気温)  ・・・式(197.1)

放射影響誤差=相対誤差 +(0.01℃) ・・・・・・・・式(197.2)

ただし、(0.01℃)は「基準の高精度通風筒」の放射影響誤差である。

理論によれば、放射影響誤差は有効放射量に概略比例し、晴天日の正午前後に最大 になる。本論では、おもに晴天日の正午前後の10時~14時に注目して解析する。

調べる誤差の項目
放射影響誤差のほかに、降雨時に起きる微水滴の通風筒内への吸引と、 微風時に生じる排気の再循環流による誤差にも注目する。


地球環境センターで現在用いている通風筒
国立環境研究所の地球環境センター地上ステーションモリタリングでは、 1990年代半ばから地上高32~55mの観測塔で二酸化炭素濃度を中心とした気象 観測を行っている。これらの観測所で使用している気温観測用の約30個の通風筒 は高精度ではない。

気温の鉛直分布の観測などが主な目的であり、センサは気温センサではなく、 温湿度センサである。通常、気温センサ(4線式Pt100センサ)は細くて長い SUS保護管に入れられていて、液体の検定糟内で高精度校正を行うことができる のに対し、温湿度センサは高精度校正が難しい。そのため、誤差0.1℃以内 (目標0.05℃)の高精度観測には適していない。温湿度センサのカタログに よれば、高精度品の場合でも、温度の精度は±0.2℃、相対湿度の精度は ±1~2%である。通常は、これを簡易検定して用いるが高精度検定は容易でない。

これらの事情により、一度に30台の通風筒を高精度型に交換することは予算の 面から望ましくない。筆者の提案として、通風筒はファンモータの寿命時に 数台ずつを部分的に改良する。通風筒の放射影響誤差は多少あってもよく、 求めるのは相対湿度ではなく、出力の温度示度と相対湿度示度から水蒸気量 を求める。

これとは別に、地球温暖化の気温観測用の高精度通風筒は各観測所に1台ずつ 設置することを提案したい。

参考:気象庁の特別地域気象観測所(気象台、旧測候所)では、気温は 気温センサから、湿度(水蒸気量)は温湿度センサから求めている。

次に示す「その1」は、地球環境センター地上ステーションモニタリングに おいて現在使われている通風筒の試験と部分的改造の案であり、「その2」と 「その3」は長期観測に用いる高精度通風筒についての試験である。


その1 地球環境センターの現通風筒の部分的改造
地球環境センターで現在使われているPVC-2通風筒(横形:プリード社製)は、 2重のステンレス円筒の吸気部に温湿度センサ(Vaisala社製)があり、 ファンモータはAC100V、7/6ワット(IKURA FAN: 広澤計器製作所)、排気部は 90度折り曲げ接手(塩ビ管)が使われている。この横形の通風筒は、吸気口が 斜め下向きになるように観測塔に取り付けられている。

予備試験によれば、基準の高精度通風筒に比べて、晴天日中の放射影響誤差は 0.5~0.6℃である。誤差が大きい原因は、①2重構造の吸気部がステンレスで 作られており、②「外筒」の吸気口が流線型になっておらず、③「内筒」の 先端が外筒の先端から50mmも奥になり過ぎているからである。

安価に行える改造
○外径76mmの塩ビ管(VP65)の先端をガスコンロで熱して流線形とし、 先端の15mmを切り取って吸気口を手製する。この吸気口をステンレス外筒 の先端に取り付ける(工夫3)。なお、これは準備試験用であり、製品では 流線形の吸気口はアルミ製となる。

○ステンレスの内筒を断熱性のある塩ビ管(外径32mm厚さ3.1mm青黒色 のVP25:寒冷地用、耐衝撃性)に交換する。流線形となった外筒の最先端から 内筒先端までの距離を20mmとする(工夫2)。

この改造によって、晴天日中の放射影響誤差は約半分の0.3~0.4℃になった。 今後、製品について最終試験する。

参考:塩ビ管の強度
水道用に使われている塩ビ管は、工事中に受ける強い衝撃に弱いと言われている。 特に寒冷地においてである。そこで、水道用に用いられている通常の塩ビ管 (灰色管)と耐衝撃性の塩ビ管(濃い黒青色管)を-18℃~-20℃の冷凍庫に 入れ低温にしたまま、24時間後および1ヶ月余の後に、木槌および金槌で叩いて みたところ、筆者の力では割ることができなかった。水道用の塩ビ管は安価 で工作しやすいので、気温観測用の通風筒に用いることを勧めたい。なお、 最近では寒冷地用の耐候性ポリエチレン管(プラントハイパーBK:積水化学) もあるが、寸法の規格が塩ビ管と少しだけ異なることに注意すること。


その2 長期観測用の近藤式精密通風筒
近藤式精密通風筒の縦形(垂直形)は循環流防止円板があり、積雪時に排気が 不十分になることがある。一方、横形(水平形)は地上高度2m以下の気温の 鉛直分布を測る場合、吸気口を主風向の方向に向けて利用する目的に作られた ものであり、排気は後方下向きで積雪は排気を邪魔しない構造である。

これら縦形と横形を合わせた形の通風筒を長期の精密観測用とする。すなわち、 縦形の吸気部を横形の接続部~排気部に繋ぎ、吸気口が45度の下向きとなる 傾斜形とする。

図197.3は傾斜形(右)と基準の高精度通風筒(左)の比較試験中の写真である。 ただし、傾斜形は予備試験のためのもので、取り付け金具などは別の形を使って いる。

傾斜計通風筒試験
図197.3 傾斜形通風筒(右)と基準の高精度通風筒(左)の比較試験中の写真。 2つの通風筒の吸気口間の距離は0.3mである。なお、右の傾斜形は予備試験の ための試作品であり、最終的な製品と異なる。


図197.4(上)は傾斜形通風筒と基準の高精度通風筒で記録された気温差 (式197.1で示す相対誤差)の時間変化である。気温差(相対誤差)に見える 細かな時間変動は、2つの通風筒の吸気口の位置が離れているために生じたもの である。大気は風速・温度の異なる大小さまざまな空気塊から成り、2つの 通風筒が離れていれば各瞬間の温度に差が生じる。それゆえ、ここでは数時間 平均の温度差を放射影響の相対誤差とする。

傾斜計通風筒相対誤差
図197.4 近藤式精密気温計の長期観測用通風筒「傾斜形」の試験。1分間隔の 記録による基準の高精度通風筒との比較。横軸に月日が記入された位置の時刻は 当日の0時である。上図は放射影響を示す相対誤差、下図は気温の時間変化である。 毎日の16時ころにデータが途切れているのは、パソコンへのデータ吸い 上げ・データ解析の作業によるものである。


放射影響誤差に含まれるデータ数不足による誤差の目安Δは、σを各瞬間の 気温差の標準偏差、Nをデータ数とすれば次式によって表される (近藤、2000,式1.26)。

  Δ=σ/N1/2 ・・・・・・・・(197.3)

放射影響誤差は風速と放射量に依存する。本論では晴天日中10~14時の4時間 平均の気温差を放射影響の相対誤差としている。気温の記録は1分間隔であり 4時間のデータ数 N=240(N1/2=15.5)となる。表179.1に示すように σ=0.03℃、したがって上式から誤差の目安Δは0.002℃となる。

試験回数は6回であり、各回の放射影響の相対誤差は-0.009℃~+0.010℃の間に 分布し各回の違いはΔ=0.002℃よりも大きい。その理由として、各回における 風向風速や日射量などの違いによるが、主な要因は、2つの通風筒の吸気口 の位置が0.3m離れており平均化時間の4時間は短いことによる。

したがって、6回の平均値0.002℃を放射影響の相対誤差と見なす。すなわち、 傾斜形の試作品は「基準の高精度通風筒」の放射影響誤差と概略同じ (0.01℃)の高精度である。今後、メーカによる 製品について高精度であることを確認したい。

表197.1 傾斜型の晴天日中10~14時平均の放射影響の相対誤差と、 各瞬間の気温差の標準偏差σ。
傾斜計相対誤差の表


備考:2点間の距離と気温差の関係
本節の試験では、0.01℃桁の細かな誤差を調べる目的で、基準の高精度通風筒 と傾斜形通風筒の吸気口間の距離を短く0.3mとした。

以前に行った0.1℃の桁の誤差を調べたときは、基準の通風筒2つを4m離し その中間に調べようとする通風筒がくるようにした。 「K89.通風筒に及ぼす放射影響―農研用」の図89.6に示したように、 吸気口間の距離が4mのときの晴天日中の気温差は±0.5℃の範囲で変動している。 各瞬間の気温差の時間変動を調べると、10時~14時の標準偏差はσ=0.27℃であり、 本節の変動幅σ=0.03℃より1桁も大きい。この比較から「距離が大きくなる ほど各瞬間の気温差が大きくなる」という大気乱流の性質が理解されよう。

以上のことから、放射影響誤差が0.2~0.5℃の通常の通風筒と違って、 精度が1桁よい高精度通風筒の放射影響誤差を調べるときは、2つの通風筒の 吸気口間の距離は短くし、さらに長い時間をかけて、ほぼ同じ条件が続く、 例えば晴天日中4時間の気温差の平均値を1サンプルとする。数日分のサンプル の平均値を晴天正午前後(日射量の多いとき)の放射影響の相対誤差としな ければならない。


その3 気象庁アメダス通風筒の改造型
ANEOS社から、気象庁の04Bアメダス通風筒(TV-150:小笠原計器製作所、 現ANEOS社製)を借りて放射影響誤差を調べた。通風筒のファンモータはAC100V、 7/6ワットである。

この通風筒の吸気部はステンレス円筒の3重構造であり、内筒の吸気口の前方に 遮蔽板があり、そして内筒への吸気流が漏斗構造体で収斂されてセンサに向かう。 ファンモータを通過した気流は向きを反転し下向きに排気される構造である。 さらに外筒・内筒間の空間が複雑構造であるため、空気は素早く排気されにくい。

こうした構造のため、晴天日中の放射影響の相対誤差は0.10℃~0.15℃、 微風時の循環流による昇温は0.2~0.3℃程度である。

図197.5は基準の高精度通風筒との比較試験の結果である。気温は時間間隔1分ごと に記録し15分間の移動平均値を示してある。

図中の大きな赤楕円の範囲は微風時であり、排気が再び吸気口から吸引されて 循環流となり高めの気温が観測される。4月3日7時25分~32分に0.19℃~0.21℃ の誤差が示されている。この図は15分間の移動平均値であり、元の1分間隔 のデータを調べると0.29℃~0.30℃の誤差が4分間にわたり連続している。

アメダス通風筒相対誤差
図197.5 気象庁の04Bアメダス通風筒の試験。1分間隔の記録による基準の高精度通風筒 との比較。横軸に月日が記入された位置の時刻は当日の0時である。上図は放射 影響の相対誤差、下図は気温の時間変化である。毎日の16時ころにデータが 途切れているのは、パソコンへのデータ吸い上げ・データ解析の作業による ものである。


上記の誤差を防ぐために、外筒先端に塩ビ製の流線形吸気口を付け(工夫3)、 ステンレス内筒と中間筒を断熱性の塩ビパイプに取り替え(工夫1)、外筒・内筒 間の空間を単純な構造とし(工夫4)、さらに排気口の下に外径200mmの 循環流防止円板(工夫5)を取り付けた。

アメダス通風筒分解写真
図197.6 アメダス通風筒(原型)の分解写真。
写真の上:接続部と排気部、右方の4角ボックスは電源とセンサの接続端子箱。 気温センサは左の円筒内へ取り付ける構造になっている。
写真の下:吸気部を分解した部品。2つの車輪状部品に内筒と中間筒を固定し、 外筒の内壁に固定する。右端の列は下から順に遮蔽板、漏斗、内筒、吸気部 固定具である。


アメダス改良型分解写真
図197.7 アメダス通風筒の改造型の分解写真。
写真の上:原型に循環流防止円板を追加(完成品と異なり、試験のための改造)
写真の下:左は外筒下端に塩ビ製の流線形吸気口を付けた、中央は中間筒 (吸気口は白色塗装)、右は内筒(吸気口の内壁面は白色塗装)


アメダス試験中写真
図197.8 アメダス改良型(右)と基準の高精度通風筒(左)の比較試験中の写真。 2つの通風筒の吸気口間の距離は0.6mである。


アメダス並列型試験中写真
図197.9 アメダス改良型に温湿度センサ用の吸気部を並列した通風筒の写真(右) と基準の高精度通風筒(左)の比較試験中の写真。
右写真のアメダス改良型では気温センサの吸気部と温湿度センサの吸気部の 隙間は30mm、温湿度センサの吸気口のレベルは気温センサの吸気口よりも 30mm高い。なお、気温センサ用の通風筒のファンモータは7/6ワット、 温湿度センサ用の通風筒のファンモータは1.44ワットである。なお、 これは予備試験のための試作品であり、吸気部から上方の構造は最終的 な製品と異なる。


アメダス改良型の試験における2つの通風筒間の気温差の標準偏差σ=0.05℃ である。式(197.3)から、放射影響の相対誤差に含まれるデータ数N=240 の不足による評価誤差の目安はΔ=0.003℃となる。表197.2に示すように、 試験回数は3~4回であり、各回の放射影響の相対誤差の違いは0.003℃よりも 大きい。その理由は、表197.1について述べたと同様に、2つの通風筒の吸気口 の位置が離れていることで生じる4時間平均気温の違いによるものと 考えられる。つまり、微少気温を見るには平均化時間が4時間では足りない。 そのため、試験回数3~4回の平均値(0.039℃、0.056℃)を放射影響の 相対誤差と見なす。

表197.2 アメダス改良型の通風筒における晴天日中10~14時平均の放射影響 の相対誤差。左表は気温センサ通風筒の場合、右表は気温センサの吸気部と 温湿度センサの吸気部を並列にした場合。
アメダス改良型の相対誤差の表


まとめ

長期にわたって気温を正確に観測する高精度通風筒の製品化の準備として、 気象庁の04Bアメダス通風筒(TV-150:小笠原計器製作所、現ANEOS社製)と 近藤式精密通風気温計(プリード社製)の2種類について部分的に改造し、 風速1~2m/sのとき晴天日中の放射影響誤差を0.05℃程度、またはそれ以下 にすることができた。前者は保守点検作業が容易であるが高価で重いのに比べ、 後者は安価で軽量である。

(1)近藤式精密通風筒の縦形と横形を合併した傾斜形の試作品について、 晴天日中10~14時の放射影響誤差を0.01℃程度とすることができた。 この傾斜形を製品化し、地球温暖化など高精度の長期観測用として用いたい。

(2)04Bアメダス通風筒は微風時に排気が吸気口から再び吸い上げられる構造 で気温が昼夜ともに高めに観測される。それゆえ、排気口の構造を改良する。 製品化では、外筒外壁材のみ現在と同じステンレスとし、外筒内壁材は塩ビ管 を用いる。その塩ビ管の吸気口先端の内壁面は斜めに削って半流線形とする。

アメダス通風筒の原型では、吸気口の先端に遮蔽板と漏斗構造があり、 それらで加熱された空気が内筒へ吸引される。さらに内筒と外筒間の通風が 素早く行われない。これらの構造を簡単化し、内筒と中間筒は塩ビ管で作る。 これらの改良を行えば、放射影響誤差は0.05℃程度にできる見込みである。

(3)一般のアメダスにおいて湿度の観測を行う場合、温湿度センサを 気温センサ用の通風筒内へ入れると構造が複雑になり気温センサの放射影響誤差 が大きくなる(例:気象庁の95型の通風筒)。それゆえ、温湿度センサは独立 した通風筒へ入れるか、あるいは吸気部のみ気温センサの吸気部と並べ、 1つのファンモータで通風する構造とする。温湿度センサの吸気部は多少の 放射影響誤差があってもよく、その場合は相対湿度ではなく、温湿度センサ の気温示度と湿度示度を用いて水蒸気量を求めるようにする。

本論は、高精度通風筒の製品化に先立って行った手製の試作品についての 試験である。今後、メーカによる製品について試験し、誤差を確認したい。

文献

近藤純正、1982:大気境界層の科学.東京堂出版、pp.219.

近藤純正、2000;地表面に近い大気の科学―理解と応用.東京大学出版会、pp.324.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、224号、 25-56.



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