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Talking about WINE by T.Yone, the fake-chef

偽シェフヨネのワイン漫談


第6回「生産地」|第7回「葡萄のできばえ」| 第8回「何年物がいいか」| 第9回「料理も食べよう」
第10回「レストランでのふるまい」


偽シェフヨネのワイン漫談 第6回「生産地」

さて3本目です。もはやワイン通になったあなたの取るべき道は、赤なら赤の違った種類を買い求めるということですね。この場合の悪魔のささやきは、「国が違うと味ってちがうのだろうか」とか「イタリアはスペインよりおいしいのだろうか」ということです。スノッブ街道まっしぐら。

正しく言うと「葡萄畑ごとに味がちがう」のです。世界にいくつ葡萄畑があるか知りませんが、一生のあいだに全部飲むことが不可能なくらいの数だということがなんとなくわかります。しかし安心してください。すべての畑がビン詰めワインを売っているわけではありませんから。

と、ヨタをとばしていないで重要な事実を述べます。「シャトーなんとか」とか「ボジョレー」とかいうワインの名前はすべて「生産地」をあらわしています。さきほど「葡萄畑ごと」と言いましたが、あながちヨタでもないのです。

スノッブ街道をひた走るためには、膨大な「生産地」の名前を覚えなければなりません。降りるなら今のうちです。

「生産地」と「ワインの値段」は相関関係にあります。より狭い生産地のほうが値段が高いのです。たとえば、フランス>ボルドー>マルゴー>シャトーマルゴーという順で生産地が狭く特定されていき(注3)、それに伴ってワインの値段は飛躍的に上昇していきます。

でも「生産地」を暗記するのはもう少し後にしましょうね。

(C)T.YONE 1997

(注3)より詳しく言うと、フランス(国)>ボルドー(地方)>メドック(地区)>マルゴー(村)>シャトーマルゴー(生産者)となります。なお、この段階ごとに原産地呼称統制(AOC=Appelation Originale Controlee)の網がかかっています。もっとこんがらかることを言えば、ブルゴーニュでは本当に畑ごとにブランドが違います。また、ブルゴーニュでは同じブランドでも栽培する人が複数いて、元詰め業者も複数いる場合がほとんどです。すなわち、元詰め業者によってラベルも値段も味も違います。有名なシャンベルタンでも、いくつもの種類が流通していることになります。ちなみにボルドーのシャトーでは基本的にはひとつのシャトーが一括して栽培・醸造・元詰めしているので、 たとえばシャトー・ラフィット・ロトシルトというラベルは1種類しかありません。

annotation by Takashi Kaneyama 1998


偽シェフヨネのワイン漫談 第7回「葡萄のできばえ」

3本目の味はどうでしたか? 不幸にして似たような味だった場合は複雑な心境でしょうね。1本目と2本目の味の差に比べてぐ〜んと差が小さいはずです。

ワインの味の差というのは非常に微妙だということがそろそろわかってきましたね?

さて味の差は「生産地の差」です。「生産地」にこだわる理由がここにあります。これはワインの作り方を見てみれば理解できます。ワインの作り方は非常に簡単です。収穫した葡萄をつぶして果汁にします。それを酵母(注4)と樽につめて置いておくと自分で発酵します。ころあいを見計らってビン詰めします。これだけです。日本酒のような複雑な工程はありません。つまり、そのとおり「葡萄の味そのものがワインに反映される」のです。

葡萄について言い出すとこれまたキリがありません。品種(注5)なんかは興味があったらどこかで覚えてください。重要なのは同じ品種でも栽培条件が異なるとワインにしたときに味が違うということです。まず日当たり、葡萄畑の向きで左右されます。水はけと土壌、生育に適した湿度が求められます。そして葡萄の木自体の手入れです。したがって極端な場合は「数メートル向こうから始まるとなりの畑のワインのほうが数段優れている」ということにもなります。

だから葡萄の出所表示はワインを構成する要素で最も重要なものとなっているのです。

                       (C)T.YONE1997

(注4)もともとのことを言えば、この酵母は葡萄の果皮についているものです。また、日本酒と違ってデンプンを糖化する過程がありません(ブドウ糖と言うぐらいですから)。つまり、理論的には葡萄をつぶして適温のまま放っておけば発酵するのです。

(注5)品種名がワインの名前になっているものは「ヴァラエタル・ワイン」といいます。「シャルドネ」「カベルネ・ソーヴィニョン」とか。アメリカやチリに多いですよね。産地を覚えるよりも品種名を覚える方が手っ取り早い(はるかに少ないし)という向きは、どうぞ。

annotation by Takashi Kaneyama 1998


偽シェフヨネのワイン漫談 第8回「何年物がいいか」

葡萄の出所が大切なのは栽培条件だと言いました。賢明な読者はここで「年によって気候が違うではないか」と思われるはずです。夏が涼しかったり、雨が多かったりと毎年気候は違います。これが「××年物がいい」と言われる原因です。またまたややこしいことが出てきました。自分の国の過去の気候でさえ覚えていないのに、よその国の葡萄の生育状況を過去何年にもわたって覚えなければならないのです。

これがよく話題にのぼる「ヴィンテージ」(注6)です。えらぶった人が「やっぱりあそこのシャトーのものは1983年物に限る」などというあれです。確かに理屈としてはそうなのです。でもイヤですね。ただしぼくだってちゃんと覚えていないし、おおかたの人も同様でしょう。加えて失礼をかえりみず言うと、「1本1,000円〜1,500円のワインでは年度の差なんぞない」のです。今までに買ったワインのラベルに表示してある年度を見てください。表示のないものもあるでしょうが、たいていは1992年から1996年でしょう。このクラスでは「古い物は熟成がすすんで少し重く新しい物は若くてピリピリ感がある」という古い/新しいの差くらいしか出ません。

しかし理屈の上ではワインの評価は「空間(=生産地)」と「時間(=ヴィンテージ)」の巨大なマトリックスから成り立っているということが理解できたでしょう。いやがらずに前向きの姿勢を持っていてくださいね。

                       (C)T.YONE1997

(注6)余計な話ですが、シャンパンやシェリーではヴィンテージの概念が異なります。シャンパンは、各メーカーが独自のノウハウによって各地(もちろん、シャンパーニュ地方限定ですが)の各年度の原酒を調合して、ほとんど均一の品質のものをつくりあげます。ジャック・ヒギンズの小説でマーティン・ファロンがいつも「クルーグ。ノン・ヴィンテージで」と頼むのは、この一貫した味にこだわっているわけです。シャンパンは、ノン・ヴィンテージが本来です。しかし、時折、素晴らしい年にはその年の原酒だけで特別のシャンパンをつくることがあります。これが、シャンパンのヴィンテージものです。ですから、毎年あるわけではなく、しかも高価です(もちろん、メーカーによってポリシーが違う)。ただし、これは私見ですが、ヴィンテージのシャンパンは個性的ではあっても、必ずしも高品質とは限らないケースがあるようです。むやみにヴィンテージだから、とあがめたてまつるのは時には危険ということです。

なお、シェリーはソレラ・システムといって樽を3〜4層重ねて、上から新しいワインを補充していくという不思議な製法のため、必然的につねにミックスされています。こう説明しながら、実際にどうなっているのかはよく理解できておりません。いつか、醸造現場を見てみたいものですが。

annotation by Takashi Kaneyama 1998


偽シェフヨネのワイン漫談 第9回「料理も食べよう」

この連載は身勝手なワイン講座ですが、そろそろ「料理」に触れる頃ですね。

何しろワインを飲む際の「諸注意」は同時多発的にたくさんあって一度には書ききれないため料理についての話がこんなに遅くなってしまいました。あなたは1本目2本目はどうやって飲んでましたか?

純粋にワインだけを味わっても別によいのですが、通常ワインは料理をおいしく食べるための引き立て役です。したがって「料理のジャマをしない」ことが前提で、本来は「生産地」や「ヴィンテージ」でチョイスするわけではないのです。ただし結果としてそれらの知識があったほうがチョイスが容易だし「食事を自分自身でデザインする」ことができるのです。

さて、本日の食材は「チキン」です。言うまでもなく料理はクリエイティブな行為なのでどのような調理方法も味付けも可能です。ここで問題はどういう肉をどういう味付けで仕上げた場合、どんなワインが合うかということです。骨付き手羽をトマトソースで煮込んだら軽い赤、ホワイトソースで煮込んだら辛口の白、モモをニンニクとオリーブオイルで焼いたら重めの赤、唐揚げは中くらいの白、ササミの冷製はドレッシングで決まるが赤でも白でも軽めを、中華風甘酢あんかけは合うワインなし、といったぐあいに決まってきます。記憶している料理のレシピと味にワインの記憶をぶつけるのです。これを耐えられないほど煩雑と思うか、こたえられないほどのスリルと思うか、あなたはどっちですか?

                       (C)T.YONE1997


偽シェフヨネのワイン漫談 第10回「レストランでのふるまい」

「肉は赤、魚は白」とよく言われます。基本的にはその通りです。やってみて「まずい」と感じたら次からはやらなければよいのです。また、レストランではソムリエにまかせましょう。よほど特定のものを飲むのが目的でない限りはアドバイスに従ったほうが無難です。料理のジャマはしませんし、選んでもらうこと自体は全然恥ずかしいことではありません。

ついでにレストランのことに少し触れておきます。席につくとすかさずワインリストを持ってきて「何になさいますか」と聞いてくる店がありますが「とりあえずビール」というオーダーと同じノリをしてはいけません。通常はコースのメニューにあわせてワインをオーダーします。ソムリエをつかまえて「この料理には何があうか」ときくわけです(注7)

オーダーしたら「これでござりますな」とラベルを確認させられ、栓を抜いてほんの少しグラスに注いでくれます。「ン?」ととまどわずに、おもむろにグラスをとりあげ香りをチェックし口に含んで味わいをチェックします。「!」と感じたら「OKです」とちゃんと答えてあげてください。これはかなり儀式っぽくなってしまっていますが(省略する店もあります)本来は長い年月保存された有名年度のワインが変質していないかを客がチェックするための手続きなのです。「?」と感じたら別のボトルを要求します(注8)。ワインはコルク栓を抜くまで変質しているかどうかがわからないのでこういう手続きが必要なのです。

まあ、新しい年度のものは心配しなくてもOKです。

                       (C)T.YONE1997

(注7)たとえば「料理はこういうコースで、2人で2本、最初はすっきりした白で、2本目は軽い赤、2本で5,000円ぐらいでお願いします」と言えばソムリエはその店のリストのなかで最善をつくしてくれます。ポイントは予算ですね。初めてのデートだからその場で金額を言いたくない、という場合なら、電話予約のときに予算を伝えておくとスムーズです。

(注8)これは、現代日本ではあくまでも99.9%セレモニーなので、つづけざまに3本も交換させた、とか自慢しないでください。間違いなくあなたは嫌われます。

annotation by Takashi Kaneyama 1998


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annotation by Takashi Kaneyama 1998