Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1999年9月

「鉄道員(ぽっぽや)
降旗康男監督、 高倉健、大竹しのぶ、小林稔持、広末涼子、吉岡秀隆、安藤政信、志村けん
★★★

壮年のためのおとぎ話。しかも、泣かせるための仕掛けは見事。映画としてのこころざしには大きな疑問があるが。要するに、日本の高度成長を支えた男たちへの顕彰と哀悼か。浅田次郎の原作(未読)にはもっと深いテーマがあるのかもしれないが。

悪い映画じゃない。蒸気機関車から鉄道ひとすじの頑固者が娘を亡くし、妻を亡くして定年を迎えるその年の正月の話だけでちゃんと持たせるのだから。役者も美術も撮影も時代考証も手だれが揃って見事だし。私なんか冒頭のなんでもないシーンで、すでに涙ぐんでいたし(実は小学生の頃は鉄道ファンで蒸気機関車を追っかけていた)。

しかしだな、映画としては「こうすればこうなる」ってわかっていることを忠実にやっただけで新しい発見が何もない。それが高倉健をはじめ、うまい人がちゃんと仕事しているだけに惜しい。しかも描くテーマがまた「人情世話物」の域を出ない。なんかレーシングドライバーが公道を安全運転しているようなもので、それは正しいことなのだが、わざわざ人に見せるものでもないだろうって気がするぞ。

なお、私はヒロスエのファンでもなんでもありません。ドコモのポケベルのCFのヒロスエは大好きだが。どうして女性にウケがよくないんでしょうね。優等生ぶりっこに見られるのかしらん?

「スター・ウォーズ エピソード1
ファントム・メナス」
ジョージ・ルーカス監督、リーアム・ニーソン、ユアン・マクレガー、ナタリー・ポートマン、ジェイク・ロイド、イアン・マクダーミド、ペルニラ・アウグスト、オリバー・フォード・デイビス
★★★

スター・ウォーズって評価に苦しむ。だいたい、私は30年前の「スター・ウォーズ」公開時点では「ゼッタイに観ないぞ」派だったのだ。なんか、ただのスペース・オペラの焼き直しのくせに、特撮(当時はあんまりSFXとは言わなかった)がスゴイってだけで評判になるのが気に入らなかったのだ。でも、本心は競馬でいつも一番人気を買わないのと同じひねくれ者の心理でしかなかった、と今は思う。だって「E.T.」も意地を張って観なかったもん。

だがやっぱり、映画館のでかいスクリーンであの宇宙船の表面やら空中戦やらを観るとココロが踊る。いちおうSFファン(かなりイビツだが)だし。で、QuickTime4の予告編を苦労してダウンロードして楽しんでいたのだ。これは完全におとぎ話なので、そう割り切っておかないとリアリティやらSFの本質やらの議論に巻き込まれちゃいます。だいたい、"Long long ago, "で始まるんですから。

さて、本編はしかし、楽しめるシーンはたくさんあるが、そのシーンを作るためにストーリーをつなぎ合わせた感じで、全然まとまりがない。思わせぶりな人物は思わせぶりなままで「次回につづく」という感じだし。まあ、これがいいしえのパルプ・マガジンのノリと言えないこともない。今までの作品のなかのいいとこ取りというか、なんとか整合性をつけたというか。う〜む。

ただ、予告編を静止画像で見て思ったが、絵の作り込みはスゴスギ。ため息が出るくらい見事。都市風景も水の中もジャバ・ザ・ハットもレースも宇宙船もアンドロイドも。いやはや、CGにしろ実写にしろものすごい時間とお金ともちろん優秀な人の手がかかっていて、やっぱり成功するっていいことかもしれない。

「エリザベス」
シェカール・カプール監督、ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ、クリストファー・エクルストン、ジョセフ・ファインズ、リチャード・アッテンボロー、ファニー・アルダン、キャシー・バーク、エリック・カントナ
★★★★

インド人の監督に自国の歴史劇を任せる英断が立派。しかも主演のケイト・ブランシェットはオーストラリア人だし。そして仕上がりがまたよい。単純な図式化でも謎めいた難解でもなく、極東に住んでイングランド史に無知な者でも十分に心を動かされる。

主役のエリザベスにおける「女」と「統治者」の振幅。権謀術数のなかで生き、死ぬ男たち。演技陣と衣装は特筆に値する。それにしてもジェフリー・ラッシュはなんてうまいんだろう。ちなみにフランスのデ・フォア伯爵は「あの」カントナ、いつもユニフォームの襟を立てていた元フランス代表、マンチェスター・ユナイテッドの元大黒柱が、驚くことに台詞があるどころか、主要な登場人物のひとりとして英語とフランス語で演じている。

それはともかく、演出の仕掛けもうまいし、画面のつくりも緻密だし、テーマは明快だし、なかなか結構なお手前。

「エントラップメント」
ジョン・アミエル監督、ショーン・コネリー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ビング・レイムス、ウィル・パットン、モーリー・チェイキン、ケビン・マクナリー、テリー・オニール
★★★★

非常によく出来たエンタテインメント。なんといっても洗練された泥棒の手口が見事。冒頭からして迫力十分。文句をつけようと思えば難があるのかもしれないが、粗探しをする気にさせないところが演出の冴え。そして赤外線の網をくぐり抜けるためのゼタ=ジョーンズの動きは、サスペンスもさることながら、そのセクシーな肢体が素晴らしい。

それとストーリーのトゥイストが洒落ている。主演のふたりが恋に落ちるのは一目瞭然として、いったい誰が誰を罠にかけているのか、そして最後に誰が勝つのか、ひねりにひねりながらも全然難解じゃないところは娯楽作品の王道。ついでに言えば、スコットランドの風景とクアラルンプールの情緒の描写も旅行欲をそそる。クライマックスではハイテクに加えてベテランの(壮年と言ってもいい)知恵と経験が縦横に生きてくるあたりも2000年問題への皮肉に見える。

しかも、殺人や残酷シーンやセックス描写が皆無。人間性を失った異常人格者とかひたすら人間が死んで行くとか弱者への嘲笑的ギャグとかがないのが心地よい。名画でも傑作でもないけど、こういう楽しめる映画が最近少ないので、あえて高い評価に。時には頭をカラにしてみたいあなたに、オススメ。


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1999