日活がつくった映画で、妻に逃げられた男とソープ嬢の物語で、それにチンピラの義弟が絡むオハナシ、と来たらそれなりのイメージがあるのだな、歴史とは恐ろしいもので。しかし、原作が花村萬月で、監督が望月六郎とくれば、凡庸なものではないはずだ。
やはり、タダモノではない。奥田が演じる情けないサラリーマンの腑抜けた勁さ、北村の優しさと無邪気な暴力性の同居、吉本の淫乱としたたかと可愛さ、どれもどこかにいそうで、でもやっぱりどこにもいない個性を放っている。「性と暴力を通じた聖性の顕現」とまでは到底いかないが、なにげない描写、セリフ、画面から匂い立つ空気には、たしかに人間の奥底から立ち上るどうしようもない何かが映っている。
なお、吉本多香美の濡れ場はかなりゾクゾクもので、さらに北村一輝の暴力シーンとあいまって、この映画の骨格(注意、色とか飾りとか表面ではない)を形作っている。このへん、へんにアーティストぶらずに素直に撮っているが、中身は濃い。
これだけ褒めておいてなんだが、たいていの人はがっかりして帰ると思う。それは、この映画のストライクゾーンが相当狭いからだ。「日本の映画なんて」とバカにしきっている映画好きが、いったいどんな落とし穴にはまっているかを試すリトマス試験紙になるかもしれない。
そしてラスト「あたしはただのバカ女だよー。ただのヤリマンだよおお」と泣き叫ぶ吉本多香美のセリフで泣いてしまう人を、私は無条件に信じる。逆に、「ただのポルノじゃないか」と一蹴するようなヤツとは一緒に酒を飲みたくない。
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