Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1999年11月

「スパイシー・ラブ・スープ」
チャン・ヤン監督、リュイ・リーピン、プー・ソンシン、 クオ・タオ、シュイ・ファン
★★★

中国産オムニバス映画。結婚を目前に控えたカップルが、未来の妻の親に会ったり、指輪を選んだり、写真を撮ったりするエピソードを接着剤にしてさまざまな挿話が語られていく。

録音マニアの少年、テレビで再婚相手を募集しておいて麻雀で性格判断しようとする初老の元看護婦、カメラマンと再会したのにのっぺらぼうの団地で部屋がわからなくなる女、などなど。

いろいろな年代の恋模様、と一括してしまえばすむのだけれど、実は現代中国の都市生活の描写がいちばん興味深い。

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「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」
トーマス・ヤーン監督、ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ、モーリッツ・ブライプトロイ、フープ・シュターベル、レオナルド・ランジンク、ラルフ・ヘアフォート
★★★★

「♪ノ、ノ、ノッキノン・ヘヴンズ・ドー・・・」

ボブ・ディランの曲ではあるが、エリック・クラプトンのカバーで覚えている人が多いんじゃないだろうか。あのレゲエ・アレンジで。映画の発想は単純で、もうすぐ死ぬということだけ共通で他はすべて対照的な2人の男が、「海を見よう!」と盗んだ車で病院を飛び出すというものだ。

「海を見ないと天国に行けないぜ」。

で、盗んだ車のトランクにはギャングの大金があって、ふたりはギャングや警察に追われ追われて・・・。というお話。スラップスティックなコメディに死を前にした哀感というかペーソスを漂わせて物語はハチャメチャに展開していく。

ドイツ製エンタテインメントのひとつの到達点。私は好みです。馬鹿馬鹿しく、単純で、可愛い男たち。白い(あれ? ピンクだっけ?)キャデラックを老いた母親にプレゼントするとか、一度にふたりの女とナニするとか、「金があったらやってみたい」リストの中身がアホらしくって泣ける。

果たしてふたりは海を見たのか? 天国に行ったのか? 

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「皆月」
望月六郎監督、奥田瑛二、北村一輝、吉本多香美、柳ユーレイ、斉藤暁、篠原さとし、荻野目慶子
★★★★

日活がつくった映画で、妻に逃げられた男とソープ嬢の物語で、それにチンピラの義弟が絡むオハナシ、と来たらそれなりのイメージがあるのだな、歴史とは恐ろしいもので。しかし、原作が花村萬月で、監督が望月六郎とくれば、凡庸なものではないはずだ。

やはり、タダモノではない。奥田が演じる情けないサラリーマンの腑抜けた勁さ、北村の優しさと無邪気な暴力性の同居、吉本の淫乱としたたかと可愛さ、どれもどこかにいそうで、でもやっぱりどこにもいない個性を放っている。「性と暴力を通じた聖性の顕現」とまでは到底いかないが、なにげない描写、セリフ、画面から匂い立つ空気には、たしかに人間の奥底から立ち上るどうしようもない何かが映っている。

なお、吉本多香美の濡れ場はかなりゾクゾクもので、さらに北村一輝の暴力シーンとあいまって、この映画の骨格(注意、色とか飾りとか表面ではない)を形作っている。このへん、へんにアーティストぶらずに素直に撮っているが、中身は濃い。

これだけ褒めておいてなんだが、たいていの人はがっかりして帰ると思う。それは、この映画のストライクゾーンが相当狭いからだ。「日本の映画なんて」とバカにしきっている映画好きが、いったいどんな落とし穴にはまっているかを試すリトマス試験紙になるかもしれない。

そしてラスト「あたしはただのバカ女だよー。ただのヤリマンだよおお」と泣き叫ぶ吉本多香美のセリフで泣いてしまう人を、私は無条件に信じる。逆に、「ただのポルノじゃないか」と一蹴するようなヤツとは一緒に酒を飲みたくない。

「リトル・ヴォイス」
マーク・ハーマン監督、ジェイン・ホロックス、ユアン・マクレガー、ブレンダ・ブレシン、マイケル・ケイン、ジム・ブロードベント、アネット・バッドランド、フィリップ・ジャクスン
★★☆

これは、舞台で観る方が数倍、いや数十倍面白いと思う。映画としては、ハーマン監督がのってない、ブレンダ・ブレシンにあの程度の役ではもったいない、テーマの奥行きがない、とまったくの期待はずれ。

とにかく、ジェイン・ホロックスの歌、これに尽きる。素晴らしい。実に素晴らしいが、映画よりも舞台のライブでこそ生きるはずだ。主人公の心の動きをかつての名曲でつづる脚本も粋(なにしろ、火事の場面で「お熱いのがお好き」を歌う)なんだけどなあ。主人公と鳥を重ねるイメージ連鎖も舞台ならともかく、映画ではミエミエ過ぎる。賭けてもいいが、父親の幻影が現れるシーンは舞台の演出そのままだろう。よくあるでしょう、スライドとかで映すヤツ。

というわけで、でもサントラCD買いたいな。

「シックス・センス」
M.ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス、ハーレイ・ジョエル・オスメント、トニ・コレット、オリビア・ウィリアムス、トレバー・モーガン、ドニー・ウォルバーグ、M.ナイト・シャマラン
★★★☆

原題は"Sixth Sense"(「第六感」)。冒頭に「秘密をしゃべらないでくれ」というブルース・ウィリス名のコメントがある。どんな大層な秘密かと思ったら、たしかにこの仕掛けは凄い。これは、絶対に知らずに観るべきだ。感動の深さが全然違う。

まあ、幽霊が見えてしまう少年と、かつて同じような症状を訴えた子どもを救えなかった傷を持つ児童精神科医のお話。怖いといえば怖いが、ただのスリラーではない。ありていに言うと、ワタシはかつて「ヒッチャー」でこりているので、映像と音響で怖がらせる映画は苦手なんである。そういうヒトでもちゃんと両目を開けて観られるということで判断してほしい。この映画はスリラーの衣をまとった愛の映画なのだから。

この悩める聡明な少年がうまい。ブルース・ウィリスはどうもミスマッチのような気がするが、実はうまいということに最後に気がつく。何よりも脚本と演出がうまい。途中ですでに唸っていたが、ラストに秘密が明かされて、冒頭からの映画の場面をを振り返ると、「参りました!」とひれ伏すくらいにうまい。

しかも最後に家族の愛の回復というカタルシスを持ってこられるので、いやあ泣けること。あざとい感じまでするが、これは親子でもカップルでも、見に行って損はない。ふたりの愛は深まるでしょう、きっと。おいらには関係ないが。

しかしだな、うまいし泣けるがそれ以上のものはない。ま、そういう映画として楽しむものなのである。



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Text by (C) Takashi Kaneyama 1999-2001