Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 1999年6月

「RONIN」
ジョン・フランケンハイマー監督、ロバート・デ・ニーロ、ジャン・レノ、ナターシャ・マケルホーン、ステラン・スカルスゲールド、ショーン・ビーン、スキップ・サダス、ジョナサン・プライス
★★☆

どうでもいいが、あのカタリナ・ビットがロシアのスケート選手役です。決して悪役ではないです。意地悪でもありません。というより、そんなにはっきりした個性・役柄が与えられているわけではないので。思えば、彼女も政治に翻弄され、東ドイツの広告塔とかスパイとか特権階級とか、無茶苦茶言われてましたが、画面で見る限りは元気そうです。演技力は皆無ですが。

それはさておき。映画は冷戦が終わってリストラされた諜報組織のエージェントたちが「ローニン(浪人です。なぜか字幕もカタカナだったが)」となって、金のために集まって謎の仕事を請け負う話。で、予想通り、裏切りと策略とワナ、奪取するカバンの中身は知らされない、派手なカーチェイスと銃撃戦、という展開。あんまり褒めるようなもんじゃあないが、なぜか私、この映画をけなせません。どうも、懐かしいギャング/スパイ映画の雰囲気がたまんない。

思うに、冒頭のパリの裏町の長い階段をデ・ニーロが下りてくるあたりがクラシックなんですね。しかもそぼ降る雨。裏口に銃を隠して・・・。ほいでもって、仕事の発注者は女(ナターシャ・マケルホーン)。こういうキツメの美形が暗い顔をしてマシンガンを撃ちまくるところ、なんかしびれますねえ。そして評判のカーチェイス。すごいというか、無茶苦茶というか。パリとかニースの市街をぶっ飛ばして、時には逆進しちゃう。銃撃戦にいたっては、無関係の市民が巻き込まれて撃たれていく。アルルの円形闘技場では観光客がバタバタ倒れる。いったい、どこが筋金入りのプロなんだ?

さて、結局は竜頭蛇尾というか、謎が謎のまま。ナターシャとデ・ニーロはキスするだけ。ジャン・レノは渋い役柄にしたかったんだろうが台詞が上滑り。これは役者のせいというより、ホンも演出も性格付けが不足しているから。しかし、最大の欠点は、ここには男の誇りとか絆とかいった古い規範がなく、かといって現代的な悪の肖像もないところ。要するに、エモーションを何も巻き起こさないので、ただのクラシックなアクション映画に終わっている。どうせなら古いモラルに殉じるとか、女に狂うとか、古典的な筋を絡ませてもよかった。あるいは老名優(イアン・マッケランとか)に悪の巨魁をやってもらうとか。

「恋に落ちたシェイクスピア」
ジョン・マッデン監督、グウィネス・パルトロウ、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、コリン・ファース、ベン・アフレック、ジュディ・デンチ、トム・ウィルキンソン[脚本]トム・ストッパード、マーク・ノーマン
★★★☆

1.製作、脚本、衣装、美術、音楽、芸達者な役者などなどがよってたかってハリウッド正統のスターにしたい(と業界が思っている)グウィネス・パルトロウを盛り立てたという側面がひとつ。

2. シェイクスピアの謎の生涯の一場面をその作品の名台詞をちりばめて恋の物語に仕立て上げた巧みな脚本の素晴らしい完成度の高さがひとつ。

3. それに、16-17世紀のイングランドの風俗を活写しつつ、多少のリアリティは犠牲にしてもわかりやすく華麗な絵巻物を展開して楽しませてくれた功績がひとつ。

4. 脇役の実力俳優にもいい台詞と見せ所をきちんと当てはめる気の配りようがひとつ。

5. そしてナニよりインディペンデント系ではもっともエンタテインメントというかメジャーに近い売れ筋路線を狙うMIRAMAXがもらった勲章という側面がひとつ。

まず、パルトロウについて。男装、劇中劇とプライベートが交錯する場面転換、乳房もあらわなベッドシーン、そしてシェイクスピア劇をしっかり演じる度胸、まるで賞をを取らせるために仕組まれたような、いかにも演技力を証明するための構成なのですね。私、どうしても皮肉な見方をしてしまいますが、この映画に限っていえば賞に値する演技です、間違いなく。でも、その先の余韻に欠ける。そして、いかにも「うまい」とうならせる感じに演出家の影を見てしまうのです。これからの成長を期待します。別にブラピをふろうがベンとつきあおうが、芸のこやしにしてください。

脚本はすごいです。これをきちんと味わうためには、シェイクスピアを原語または対訳本で読んでおく必要があります。ま、そんなことしなくとも笑えますが。欧米の演劇ファンにとってはたまらないギャグ満載で、一種の身内受けではあるけれども審査員には間違いなく受けに受けたでしょう。字幕は戸田奈津子さんなので、シェイクスピア作品の台詞およびそのパロディはそれっぽく訳してはあります。あの短いなかで大したもんです。ところで、ネズミ密告少年のウェブスターって、あの辞書を作ったウェブスターのことなんですかね? 知っている方はご一報を。

衣装、美術、音楽は「エリザベス」(未見)の重厚に比して軽みのある華やかさ。音楽でいえばヘンデル。ただ、使われていたのはヴィヴァルディがけっこうあったような気がする(未確認)。

脇ではアカデミー助演女優賞のジュディ・デンチがおいしいところをかっさらってます。他にもジェフリー・ラッシュ、ベン・アフレックなどなど、はっきり言ってジョセフ・ファインズを完全に食っています。このへんのプロデューサーと脚本のタッグもすごい。もちろん、MIRAMAXもすごい。

「ロミオとジュリエット」の初演場面をクライマックスに持ってきて、実にうまくオチに持っていきます。「十二夜」は研究者にとって謎の多い作品ですが、なかなか含みのあるラストで登場させます。ただし、ここだけ突然おとぎ話になっているあたり、どんなもんなのか。

頻出する"It's a mystery".って台詞は、芝居に関わったことのある人間なら頬のゆるむ台詞ですなあ。実際、なんとかなるもんなあ。

「ライフ・イズ・ビューティフル」
ロベルト・ベニーニ監督、ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ジョルジオ・カンタリーニ、ジュスティーノ・ドゥラーノ、セルジョ・ブ ストリック、マリザ・パレデス、ホルスト・ブッフホルツ
★★★★

本来は(というか、意図は)軽いコメディであって、肩に力が入った頭でっかちの戦争批判/差別反対作品ではない。また、お金をかけた大作でも豪華キャストでもない。しかし、だからこそ素晴らしい出来に仕上がっている。「コメディ」という言葉が、「喜劇」というジャンルを指すだけでなく、原初的には「演劇」あるいは人間が演じるすべての仮構を指すことを考えれば、この主人公グイドの人生はコメディそのものであり、コメディの勝利とも言える。

カタイことはやめて、タイトルバックの挨拶がわりのありがちなギャグに大笑いできれば、あなたはもうグイドの虜だ。前半の求愛ドラマの無茶苦茶な、しかし一途なギャグの野放図な明るさが、なんとも言えずよい。使い古されたはずの典型的コントなのに。

後半の収容所でも、この明るさは変わらない。マイクを無断で「借りて」、妻に子どもの無事を知らせるシーンは泣けます。そんな危険を犯して、言うことは「ゆうべは君の夢を見て眠れなかったよ」なんだもん。予告編よりも数倍泣けます(当たり前か)。そして、ラストシーン。「ぼくたち、勝ったよ!」というのは子どもと母とでは意味が違う、典型的なシチュエーションギャグなんだけど、この場合は大泣きに泣いてしまいます。

ロベルト・ベニーニがもともとテンションが高い人だというのはアカデミー賞の授賞式でわかっていたのだが、実は本当に繊細な演技ができる人なのであった。で、主人公グイドにとっての人生の意味を、こんな形で提示できるのは真のコメディアンです。パチパチパチ。それにしても、イタリア人の女好きはこうやって正当化されるんだろうなあ。

"Buon giorno! Principessa!"(こんなスペルだったっけ?)


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Text by (C) Takashi Kaneyama 1999