Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 2000年9月

「風の丘を越えて―西便制(ソピョンジェ)―」

林權澤(イム・グォンテク)監督、ユアン=金明坤、ソンファ=呉貞ヘ(オジョンヘ)、トンホ=金圭哲(キムギュチョル)

(1993韓国映画)

★★★★★

「シュリ」以前、韓国映画の動員記録を持っていた名作。内容では、いまだにナンバーワンだろう。

パンソリの本質が「恨(ハン)」である、とはよく言われるが、これほどまでに壮絶であるとは。これは虐げられた旅芸人の物語でもあり、戦後韓国の変貌の記録でもあり、もちろんパンソリの究極を追い求める映画なのである。

とにかく、親子がアリランを歌いながら道を下っていくシーンと、最後に姉と弟が歌い、演じるシーンは白眉、というか言葉をはるかにこえている。もう久しぶりに涙腺が空になるくらい、気持ちよく泣いた。

いろいろな解釈ができるだろうし、それぞれが当たっていると思うが、原初的な、いわばプリミティブな感動を与える力という意味では空前絶後。

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「顔」

阪本順治監督、藤山直美、豊川悦司、國村隼、大楠道代、牧瀬里穂、佐藤浩市、岸部一徳、中村勘九郎、内田春菊、早乙女愛

★★★★

美人で好かれてわがままできれいなもん着て、いい男もいる妹。ブスで暗くてメロドラマ見て泣いて、繕い物するしか能のない姉。母が死んだ葬儀の日、蓄積された憎悪(あるいは嫉妬)からか、姉は妹を殺して逃亡する。

何はともあれ、これは藤山直美という役者から発想された映画なのだろうし、それは見事に成功している。

「許してもらわんでええ。」

この殺人犯は、汚れなく清らかではないし、無垢でもないし、悲しくもけなげ、でもない。ただ、持て余した自分のはけ口を求めて、逃げて逃げつづけるのだ。

「自分を見つけた」なんてことが、実際にあるかどうかはともかく、この映画では彼女はつねに逃げる。現実から逃げ、殺しては逃げ、逃げてつくりだした新たな生活からさらに逃げ、憧れの男からも逃げ。

そして、出会う人々がまた、「いい人」というのがほぼひとりもいない。みんないけずか無能か悪いこと考えてるか、とにかく「一癖ある」どころか、「渡る世間は悪人ばかり」。そうして、悪人だらけだからこそ、時折表れる「素の人間らしさ」が輝くのだ。

何にもできなかった女が強姦されてはじめて性を覚え、自転車を覚え、泳ぎを覚えていく。そして、それを活用して彼女は逃げて行く。

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Text by (C) Takashi Kaneyama 2000-2001