Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 2000年5月

「スティル・クレイジー」

ブライアン・ギブソン監督、スティーブン・レイ、ビリー・コノリー、ジミー・ネイル、ティモシー・スポール、ビル・ナイ、ジュリエット・オーブリー、ヘレナ・ベルクストローム

★★★☆

往年の栄華を誇ったロックバンドがなぜか復活する。すでに中年の域をこえ、腰は痛み、仲間割れし・・。ストーリーはかなり予想しやすい路線をたどる。ツアーバスでの対立と喧嘩なんて定番もあるし。ちなみにバンドは架空。とんがったロックからポップ路線に堕落して人気落ち、という構図なのでとくにどのバンドがモデルということではないだろう。

注目はドラッグやらなにやらで精神を病んだメンバーの存在。彼が奇跡的に返り咲くなんてことはあるのか・・。まあ、最近の英国映画らしく、非常にリアリスティックかつ救いのあるかたちで終わるのだが。

映画としては並み以下。しかし、ロックに賭けていっしょにステージに立ってきた仲間の絆というものが音楽となって空間を埋めるさまには感動する。他人は知らないが、私は。ある一瞬、たしかに通じ合った気がするのだ、同じリズムのうねりのなかで。

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「サマー・オブ・サム」

スパイク・リー監督、ジョン・レグイザモ、エイドリアン・ブロディ、ミラ・ソルビーノ、ジェニファー・エスポジート

★★★★

一貫してアフリカン・アメリカンをめぐる問題をテーマにしてきたスパイク・リーがなぜかイタリア人コミュニティーを舞台にした。つまり、「差別は白人同士でもあるんだぞ」ってことだ。

英国帰りのパンク野郎が、地元に帰ってイジメに会う。バンドのためのアルバイトで男娼をやり、町のアイドルを彼女にし、髪はツンツン、服には画鋲や釘、ってのが反感を買ったのだ。

ある意味、あまりに典型的で笑ってしまう。彼の母は男と住んでいるので息子をガレージに追いやるし、マフィアはレストランで会合するし。

「サム」は実際にニューヨークで発生した連続殺人で、記録的猛暑のなか住民を恐怖に陥れた有名な事件。その記録映像を背景に、次第にエスカレートしていく差別・反感をていねいに描いて、最後は犯人がもう逮捕されているのに「あのパンク野郎だ!」ってんで襲撃してしまうわけだ。

途中、スパイク・リー自身がレポーター役で出演して場内爆笑。インタビューされたおばちゃんは「白人同士で殺し合うなんてねえ、・・・・」と話が止まらなかったりするし。最後も悲惨と言うよりは冷笑で終わる。こんな愚かな部分が人間にはあるのだ。

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「アメリカン・ビューティ」

サム・メンデス監督、ケビン・スペイシー、アネット・ベニング、ソーラ・バーチ、ミーナ・スバーリ

★★★★

この映画のキッチュさ、現実感が薄っぺらなのはもちろん確信犯である。書き割りのようなアメリカ中産階級の生活に訪れた転機。

設定で、夫(ケビン・スペイシー)が広告代理店勤務、妻(アネット・ベニング)が不動産業になっているのは、明らかに「夢を売る虚業」を指し示す記号である。妻が売り家をセールスして不調に終わるシークェンスには典型的にそれが現れている。そして、人間らしい実感を取り戻すのが、チアガールの少女への夢想だったりするわけだ。このふたりがお互いに乖離していると同時に、それぞれの内部も乖離しているのだ。

失業者として共感をもったのは、70年代ロックを大音量で鳴らしてドライブするあたり。「社畜の人生」から「自由な無産者」へ。しかし、冒頭で彼の死は予告されている。いったい、なぜ彼は死ぬのか? いくつかの暗示とは別に、意外な形で死が訪れるわけだが、その死に顔は微笑している。

あらゆるほのめかしが逆転していき、虚像がはがれていって最後に訪れる平安。「虚飾の人生」から「現実ありのまま」へ、そうとも言えるわけだが決してハッピーエンドではない。

こういう非常にシニカルな映画が受け入れられたとすれば、それは観る側の成熟とも言えよう。

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Text by (C) Takashi Kaneyama 2000-2001