Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 2000年4月

「ヒマラヤ杉に降る雪」

スコット・ヒックス監督、イーサン・ホーク、工藤夕貴、ジェームズ・クロムウェル、サム・シェパード、マックス・フォン・シドー

★★★☆

第二次大戦後まもないオレゴンの島。殺人事件で逮捕された日系人を巡って、人種偏見に揺れる町、幼いころの恋の思い出が蘇る。

イーサン・ホークと工藤夕貴という、いかにも寒色系の組み合わせの上に舞台が雪深い港町。いきおい、画面は青白い。戦争で財産没収・強制収容という目にあった日系人。日本軍と戦って傷つき、命を落としたアングロサクソン系。かつては仲良く遊んだ子どもたち。差別意識を隠そうともしない人々。

いま書こうとして気づいたが、「アメリカ人」という表現でステレオタイプに想起されるWASPの連中というのは、native americanでもないし、単に「より早く着いた移民」であって「戦争をしかけて領土と支配権を奪い取った」だけなんだよね? それでいて奴隷を使い、あとから来た移民を肌の色やしゃべる言葉で差別するなんてのはおかしいよなあ。まだ建国200年ちょっとのくせに。私の母校(高校ね)が上杉鷹山によって「再興」されたころ、ようやく「建国」なんだから。威張るなよそんなに。

さて、映画の話に戻ろう。イーサン・ホークはかつて工藤夕貴に恋したが、戦争で日本軍と戦って腕を1本失った青年。父の新聞社を継いでいるのだが、やがて事件の真相を明かす証拠を見つける。それを隠せば、工藤夕貴の夫は殺人犯となり、自分の恋が成就するかもしれない。もしも証拠を出せば、被告は無実となり、しかも自分は「日系人の味方」という汚名を着ることになる。かつて、彼の父は人種差別を拒絶したことで苦境を招いたのだ。

この葛藤は、ストーリー上は重要なファクターだが、映画としては実は重要なテーマではない。差別も恋愛もたぶん、中心となるテーマではない。じゃあ何なんだ? と聞かれても、それを言葉で表現できないから監督は映画にしているのである。一言で言えれば言ってしまえばいいのだ。

あらゆる映画についての言説は同様の問題をはらんでいるが、いい映画というものはエンタテインメントの要件を満たしながら、より深い思索の射程を提供してくれるものである。一般論はいいとして、とにかくまあ、なんかもっと深そうなんだけどよくわからない、という地点で留まってしまうのは私の理解が浅いのか、映画の描き方の問題なのか。

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「グリーンマイル」

フランク・ダラボン監督、トム・ハンクス、デヴィッド・モース、ボニー・ハント、マイケル・クラーク・ダンカン、ジェームズ・クロムウェル、マイケル・ジェター、グラハム・グリーン

★★★☆

この監督は「ショーシャンクの空に」につづいて監獄映画を作った。しかもどちらともほぼ囚人と看守しか出てこない話で、どちらもスティーヴン・キング原作なのだが、まったくテーマもテイストも異なる。

原作の「グリーンマイル」は全4巻なのに、わざわざブランクをあけて発売する方式で物議を醸したものだが、さすがに映画はそんなことはない。当たり前か。

さて、主題はスーパーナチュラルつまり超自然なので、いかにリアリティとシンパシーを感じさせるかが焦点。そして、その役割はマイケル・クラーク・ダンカンの「優しい巨人」の存在感が圧倒的に果たしている。ねずみにしろ、偉いコネ持ちのサド看守にしろ、トム・ハンクス演じる主人公(というよりも狂言回し)も含めて、ていねいな演出はすべてこの「巨人の不思議な力」のために奉仕しているといっても過言ではない。

死刑を巡る人間模様を描きながら、実はテーマは「人を救うとは何か?」ということなのではないだろうか。人を裁く、人を許す、人を罰する、人を救う。そのなかでもおそらく、人間がなすべきことではないのだろう、裁くとか罰するとかいうことは。

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「遠い空の向こうに」

ジョー・ジョンストン監督、ジェイク・ギレンホール、クリス・クーパー、ローラ・ダーン、クリス・オーウェン、ウィリアム・リー・スコット、チャド・リンドバーグ、ナタリー・キャナディ

★★★☆

原題は"Rocket Boys"。ソ連の人工衛星に憧れて、ロケットを自作する高校生の話だ。なにしろ部屋に貼るポスターはフォン・ブラウン博士なのだ。

炭坑町での父と子の葛藤と和解、という古い構図に、「ロケットおたく」という理系のテーマを絡めて感動的に仕上げた・・と書いてしまえば終わるのだが。

しかし、個人的にはスポーツとかダンスとか音楽とか政治とかはサクセスストーリーによくなるのに、理科系の話はなかなかないのでとっても好感をもったのだった。とくに、山火事がロケットのせいではないことを軌道計算から推定し、その結果ロケットを発見して自ら無実を証明するくだりは大変よろしい。私は理屈というか道理がキチンと通るのが大好きなのだ。

ちなみに私は子どもの頃、鉛筆のキャップに花火からほぐした火薬を入れてロケットを作ってたことがある。地面に埋めて導火線から点火するのだ。今から思えば、あのときもっと凝って軌道計算なんかしてれば今頃は宇宙飛行士だったかもしれない。

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「ストレイト・ストーリー」

デイヴィッド・リンチ監督、リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン

★★★★

「曲者」リンチが文字通りの直球を投げ込んできた。老人がたどる道も真直ぐなら、監督の演出も真直ぐ。ある意味でロード・ムービーの極致。

普通は長い道のりの果てに主人公達が何かを学び、何かを失い、成長したり変貌したり、喧嘩したり和解したりするわけだが、このロードムービーでは主人公はもう変わりようがない老人である。むしろ、途上で出会う人々に何かを残しながら旅をつづけていくところに味わいがある。

途中、バーで戦争の話を老人同士でするところがある。かつて、戦友を誤って狙撃してしまった男。ここを、すべてふたりの老人の会話だけでシーンを構成し、それで納得させてしまう演出は自信のあらわれかと思う。そして、それを成立させているのはファーンズワースの顔に刻まれた歴史だろう。佳品。

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「シュリ」

カン・ジェギュ監督、ハン・ソッキュ、キム・ユンジン、チェ・ミンシク、ソン・ガンホ、パク・ヨンウ、パク・ウンスク

★★☆

韓国がハリウッドに「勝った」(韓国内の動員数では)エンタテインメント・アクション巨篇。面白いといえば面白いが、杜撰といえば杜撰。しかし、この映画のキーというか圧倒的な迫力は、北と南に分断された半島の「いま」、その苛酷な現実に拠っている。

冒頭の北朝鮮の猛訓練(実際に人を刺し殺し、銃を分解・組み立てて早い方が相手=仲間を撃つ)の非情さ、北のエージェントが叫ぶ「親が子の肉を喰らう」さまは、すべて実話に基づいている。映画を作っている方も観る方も、このストーリーも映像も絵空事とは思えない/思っていない。

この映画をぬるいアクション、甘ったるいラブストーリーと断罪することは易しいが、この映画に熱狂し、涙した韓国の人々の気持ちを思えば、私は簡単には「つまらない」と言えない。そういう気持ちこそ「甘い」と言われれば、たしかにそうなのだが。

この映画は、ハッピーエンドでもなんでもなく、未来に希望を持たせる話にもなっていない。ただ、「北」の非情なエージェントにも人間らしい気持ちが通っていることを示唆するだけだ。そのことが、「救い」にはなっているのだが・・。

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Text by (C) Takashi Kaneyama 2000-2001