Bon Voyage! HOMEMOVIE REPORT > 2000年2月

「シビル・アクション」

Steven Zaillian監督、ジョン・トラヴォルタ、ロバート・デュヴァル、ウィリアム・H.メーシー、キャシー・ベイツ

★★★☆

俗に「ハゲタカ」と言われる、賠償専門の弁護士。サクセスを絵に描いたような男にトラヴォルタ。こいつが、良心というか社会的使命に目覚めて企業を追い詰めて行く。

あんまり評判にならなかったが、なかなか面白い。まあ、社会派と銘打つとそれなりの匂いが鼻につくものだが、この最後の持って行き方は興味深い。うん、実に考えさせる。

とにかく、どっかテキトーなところで手を打てばいいものを、結局事務所が破産するまでしつこくやって何も得られずに野に下るのだ。ここには、社会派ドラマの仮面をかぶった、人間の奥底を見る目が感じられる。

ちなみに、ロバート・デュヴァルはこの映画でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。

もうひとつ、蛇足。「geology」を「地質学」でなく「地理学」と訳すミスあり。他にも字幕にケアレスミス多し。下訳のミスの見過ごしおよび一般的知恵の欠如。水質の証拠の話で地理学はないでしょう。

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「クッキー・フォーチュン」

ロバート・アルトマン監督、グレン・クローズ、リヴ・タイラー、チャールズ・S.ダットン、クリス・オドネル、パトリシア・ニール

★★★☆

アメリカでナマズを食うと言ったらルイジアナ州の湿地帯あたりか。まあ、田舎町の話だ。

自殺した婆さんを、殺人事件に仕立てたいけすかないオバタリアンが辿る悲惨な末路、と言うことになるのかな? それにしても笑える。逮捕した警察も犯人(に仕立てられた男)を犯人と思っていないし、リヴ・タイラーは差し入れをもって拘置所で豪勢なパーティをするし。私はこの場面が異様に好きで、このピクニック・セットというのか、差し入れのための皿やらアイスティー・ピッチャーをどこで買えるのかが気になってしかたなかった(後日、デザインはかなり違うがフランス製の中型ピッチャーを買った)。

なによりすごいのは、虚飾、傲慢、ひとりよがり、といったインテリぶった悪徳を体現するグレン・クローズ(が演じている役であるオバタリアンのこと、もちろん)への隠されない悪意である。川で仲良く釣りをする平和な光景とは対照的に、この中年女にはまったく救いがない。

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「ファイト・クラブ」

デビッド・フィンチャー監督、ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、ヘレナ・ボナム・カーター

★★★☆

この監督は観客を騙すのが好きらしいが、度を超すと「狡い」「わかるわけないじゃん」って反感を買うのである。で、やっぱり最後にびっくりのドンデン返しを用意しているのだが、私はやっぱり好きになれない。推理小説で言えば、最後に初めてみる証拠が出てきて意外な犯人がわかる、みたいな。

いや、監督の狙いはわかるのだ。伏線も理解したつもりだ。現代の都会をおおいに皮肉り、なおかつ孤独な男の内面をうまく切り取って大きな物語にしたと思う。しかしどうしても、その大風呂敷に見合った緻密さには欠けると思う。

と言いながら、実は圧倒されるような思いで映画館をあとにしたのだった。見ているあいだ、ずっと感じる微妙なズレというかほぞがうまく合わない感じが、最後になってズドーンと納得する。そういう展開になるはずの映像はすごい。すごいのだが、いまいちズレが大きくてカタルシスにまで至らなかったのだ。

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「ビューティフル・ピープル」

ジャスミン・ディズダー監督、ファルーク・プルティ、ダード・イェハン、ロザリンド・アイルズ、ジュリアン・ファース、チャールズ・ケイ、シャーロット・コールマン、エドワード・ジュイスバリー

★★★★☆

うまいわけでもきれいなわけでもないが、「傑作」と言いたくなるパワーがある。笑えて、泣けて、考えさせる。もしも私がどこかで上映会を企画するなら、まずこの作品を選ぶ。いい映画かどうかはともかく、「みんなに見てもらいたい」という切実さがある。

ボスニア・ヘルツェゴビアの悲劇を、英国を舞台にしてコミカルにいくつものエピソードでつないでいくわけだが、その手法が当事者にとっては生々しい記憶を客観化するのに役立っているように思う。

突然喧嘩をはじめる、かつての隣人同士。兵士に強姦されて妊娠した妻の中絶を拙い英語で頼む男。医師と結婚することになった元兵士の告白。ヘロインでらりったフーリガンが、紛争地域に降下する羽目になり、足を切断する手術の麻酔にヘロインを使って英雄扱いされたりする。

病める英国のスケッチと、深い傷を負った人々が交錯していくつもの物語を生み出していく。その視線の先にあるのは未来であり、ポジティヴな意志である。「現実に根ざしながらも希望にみちたおとぎ話」でしかないかもしれないが、それでもなおかつ希望を信じることでしか今を生きられない人々もいるのだ。

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「いちげんさん」

森本功監督、エドワード・アタートン、鈴木保奈美、中田喜子、蟹江敬三、渡辺哲

★★

京都市や寺社がはじめて積極協力した映画、ということで見てみた。決して鈴木保奈美の全裸シーンが見たかったからではない。誤解しないように。

原作は「ガイジン」が書いた私小説風の小説。で、日本というか京都が「いつまでたっても私を受け入れてくれない」という泣き言の繰り返しなのである。それはそうだ、日本人だって京都はよそ者扱いなのだし。そのへんのカルチャー・ギャップについては日本の文化風土に多くの問題はあると思うが、だからといって、もっと深い考察とか思索なしにただ悲しまれてもとまどうだけだ。

ただし、私はもともと恋愛がどうのこうので感動するたちではないので、盲目の美女との恋愛エピソードについてはノーコメント。そのへんはある種のパラレルなアナロジーを計算したのかもしれないが、いかんせん不消化。映像はキレイだけど。で、結局別れるんかい。日本を出て行くんかい。意気地なし! と怒鳴りたくなった。いや、これはきっと少数意見でしょう。

ちなみに、ロケ協力した同志社大学はエライと思う。こんな印象の悪い役割なのに。

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「ジーンズ/世界は2人のために」

シャンカル監督、アイシュワリヤ・ライ、プライシャーント

★★☆

ブームのインド映画から「世界中でロケ」というウリでやって来た。まあ、たしかに世界の名所で見事な群舞を繰り広げてくれるのだが、目が釘付けになるのはミスなんとかという主演女優である。

で、ストーリーは例によってどうということはない。楽しい映画ではある。

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「雨あがる」

小泉堯史監督、寺尾聰、宮崎美子、仲代達矢、三船史郎、吉岡秀隆、檀ふみ、井川比佐志

★★★☆

黒澤明の遺稿を黒澤組の面々が映画化。と、聞いた時は一抹の危惧があったのだが、できあがって見ればさわやかな佳作。よくも悪くも近代ヒューマニズムの枠内でしか考えられない倫理観が黒澤明の特性なのだが、だからこうした古い人情ものでは違和感が少ない。

特筆すべきは俳優、スタッフの「いい仕事」で、寺尾聰は言わずもがな、宮崎美子の落ち着いた演技には驚いた。ちなみに寺尾聰の居合いの場面は特撮も早回しでもなくて素のまま。このへんのさじ加減というか意地のはり方も心地よい。

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「ジャンヌ・ダルク」

リュック・ベッソン監督、ミラ・ジョヴォヴィッチ、ジョン・マルコヴィッチ、フェイ・ダナウェイ、ダスティン・ホフマン、パスカル・グレゴリー、ヴァンサン・カッセル、チェッキー・カリョ、リチャード・ライディングス、デズモンド・ハリントン

★★★

なんで全部英語かと言えば、アメリカ資本だからなのだが、そうするとジャンヌ・ダルクがJoan of Arcだったりする。フランスが米国に植民地化されてるみたいで気持ち悪いのであった。そういう違和感を抱えたままで観たせいか、なんかヘン。

それはともかく、ミラ・ジョヴォヴィッチの懸命の演技にもかかわらず、というかそのせいで、このヒトの台詞回し以前の声の悪さが際立つ。とにかく声が全然通らないのだ。それなのに戦場で檄を飛ばして兵士を鼓舞するわけだから、見ていて気の毒。ま、三船敏郎も悪声だったが、あのころは録音技術も再生環境も劣悪だったし。

にもかかわらず、ベッソン監督の意図は明瞭で「人間・ジャンヌ」の弱さと強さを浮き彫りにするために、わざとミラ・ジョヴォヴィッチの素人くさい所作を利用しているように見える。ハリウッド大作に雇われてもただのスペクタクルに終わらせないあたりは、意地もあるのかもしれない。

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「御法度」

大島渚 監督、ビートたけし、松田龍平、武田真治、浅野忠信、崔洋一

★★★

新撰組ホモ物語を大島渚が撮るとこうなる、ということか。撮影途中でもし監督が倒れても大丈夫なように、キャストにふたりも豪腕監督がいるところがミソ。

それにしても映像の切れ味はさすが。ワダエミの衣装デザインも決まっているし、ライティングその他の構成がまるで舞台でかかっている芝居のような幻想性を漂わせている。

ちなみにラストでビートたけしが刀を一閃させるところは司馬遼太郎の原作そのままである。

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「海の上のピアニスト」

ジュゼッペ・トルナトーレ監督、ティム・ロス、プルート・テイラー・ヴィンス、メラニー・ティエリー、クラレンス・ウィリアムズ三世、ビル・ナン、ピーター・ヴォーン、ナイオール・オブライアン

★★

この映画でジュゼッペ・トルナトーレの監督としての限界がはっきりわかる。つまり、論理的でも理性的でもなく感性でだけ勝負しているので、形而上学的な話をロマンティックにしか解釈できないのだ。思えば、「ニューシネマ・パラダイス」での、過去への憧憬の鮮やかさと現在の情けなさの対比は監督の資質そのものであろう。

で、なにが気に入らないかって、この主人公のピアニストが船を降りない(降りられない)のは、「怖い」からで、それも全然納得できない怖さだからだ。ただの憶病者ではないか。こんな莫迦者は、殴ってでもひきずってでも船から出さんかい。

それもこれも、原作というかストーリーの読み間違いでしかない。しかも、ジャズ勃興期の独学天才ピアニスト、という設定にしては、ただ指の動きが速いから勝った、みたいにしか聞こえない/見えないのだが? つまり、魂のこもってない演奏を無理矢理カメラワークと演技で盛り上げているだけ。

と、酷評したくなるのは、やはり随所にただものではない映像と美学があるからで、こういう難しい話でさえなければ、けなされることもなかろう。美しい過去への郷愁、耽美だけ撮っていればいい監督であることは確か。

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Text by (C) Takashi Kaneyama 2000-2001