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1999年10月
『ローマ人の物語 8 危機と克服』
塩野七生、新潮社

8巻目にして、五賢帝時代にたどりついた。ふうーっ、って読者の方がため息をつきたくなる気の長さである。これはライフワークというよりも死ぬまでに終わるのか? という気がする。

で、例によって粘液質の文章で指導者の資質が分析される。この人はやっぱりカエサルしかいないようで、だからこのシリーズもカエサルをめぐる2巻が圧倒的に面白い。まあ、国が大変なときにどう処するか、みたいな「プレジデント」誌的な読み方をする人も多いのだろうが、日本の指導者層の底の浅さを露呈するようなもんだよなあ、管理職の歴史好きってのは。

ふと思ったのだが、なんか梅原猛に似ていないか? 小説的だが小説ではなく、しかし勉強量と仮説構築力と人間的想像力(とくに性悪説的な)でまさろうとする姿勢と、強烈な自信において。塩野七生は専門家からは異端とされ(あるいは無視され)ているということはないのだろうか。梅原猛は学界ではほとんど四面楚歌だったけれども。

ちなみに「ローマ人の物語」のガイドブック(書名が長い。『塩野七生『ローマ人の物語』の旅 コンプリート・ガイドブック』)も刊行された。ほとんどは新潮社の編集者が書いたのだと思うが(クレジットがない)、下手な著者よりもずっと気が利いている。このシリーズでの地図や図版への気配りを見てみれば、一級の本づくりがどういうことかが、よくわかる。

『森を抜ける道』
コリン・デクスター、大庭忠男=訳、ハヤカワ文庫

北欧の美人女子大生の失踪、と聞いたらやっぱり色恋関連を考えますわなあ。「フリーセックス」が死語になったとしても。今度は「スウェーデンの乙女」という詩の謎解きである。新聞紙上で読者が(いつものモースの代わりに)いろんな説を披露してくれるわけで、いかにも衒学的にして暗号っぽく、なかなか楽しい。また、モース警部にも春がやってきそうな気配。なんか、支離滅裂な感想だが、もともとデクスターのモース警部シリーズには解説は不要なんである。

あとはオースティンを読み、いつもの「指環」の代わりにブルックナーの8番を聞き、ソールズベリーの大聖堂に思いを馳せよう。


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(C) Copyright by Takashi Kaneyama 1999