昔、就職したての頃、創刊予定の写真雑誌のパンフをもって母校に行ったことがある。旧知の中年女性の事務職員は突然怒りだして
「あなた、こんないかがわしい会社に入っちゃったの!」
と放り出したそこにはヌード写真が大きくレイアウトされていた。
「アホか?」
このヌードは全然扇情的なものではなく、造形的に黒人女性の胸と赤いスリップを対照させた優れたものだった。だから、表紙候補でもあり、写真誌(え〜、「フォーカス」路線ではなく、「写楽」「CAPA」のクオリティが高いヴァージョンと思ってください)の質の高さを例示する写真として選ばれていたのだ。だいたい、他にも報道写真、自然写真、ポートレートもたくさんあるのだから。よくいるんだよね、ヌードに過剰反応するヒステリックな人(たいていは年配の堅物)が。自分の感性で判断できないアホが、さ。
で、この本はそういう意味では「扇情的」「エロ」のアダルトビデオの世界の本なのである。しかし、いかがわしい本でもなければ、正面切ったドキュメンタリーでもない。エロ雑誌用のインタビューを集めたものだが、だからといって切って捨てられない素晴らしいカケラをいくつも持っている。まず、大手の新聞や雑誌が称するインチキな「ジャーナリスティックな視点」とは無縁なのがよい。ここには等身大の女の子がいて、自分の体験や考えを素直に語ってくれている。出生、育ちを悲しいドラマに仕立てることも、おどろおどろしい暴露話にすることもない。しかしまた、ナマの話を素材としてうまく料理する包丁さばきもまた見事である。
「みんな、ほら、ご馳走だよ!」と言って教会の福祉に頼る仲間に振る舞う話は泣ける。義父に毎日犯され、母の元では義父の弟に犯された少女もいる。恋人と暮らすアパートから補導されて保護施設に引き取られて、毎晩バイクのクラクションを聞いて「彼が来てくれている」と涙する子、もいる。
訳知り顔の「識者」なんかよりも、現代日本の実像、本質をこれだけストレートに語ってくれる彼女たちは、やはり「観音さま」か「天使」か、もしかしたら「悪魔」なのかもしれない。
いかがわしい世界にも粋な男が生息することもまた、この本は教えてくれる。そこは人が「墜ちていく」世界ではない。「生きている」世界だ。
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