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1998年2月
『ディファレント・ウォー』(上・下)
クレイグ・トーマス、小林宏明=訳、小学館文庫

『ファイアフォックス』で衝撃的に日本のミステリーファンにデビューしたクレイグ・トーマスの、その主人公だったミッチェル・ガントがまたまた登場。最近はもう一方のヒーロー、パトリック・ハイド系が多かったので久々の感。そして、引退しているケネス・オーブリーも出てきます。しかし、知らない人にはなんのこっちゃ? だろうなあ。このへんは解説で井家上隆幸が上手にまとめてくれています。というか、本作の解説に入る前に4ページ弱を費やして過去の作品群を紹介していて、入門にはちょうどいい。巻末には作品リストもついていて便利(完全ではないが)。ただし、彼は、「ひさびさの<正統硬派冒険小説>」と持ち上げてはいるんだけど、あんまり気に入っていないような気がする。だって、作品自体についてより、前置きの方が長いんだもん。

さて、ガントを主人公にした『ファイアフォックス』も『ファイアフォックス・ダウン』も『ウィンターホーク』もサスペンスに満ち、孤高のヒーローを描いて素晴らしい出来だっただけに、期待がふくらむ。今回は冷戦が終わった世界を背景に、舞台を国際経済に移して冒険小説に挑む。しかし、これはどうも成功したとは言いがたい。悪の側にどうもリアリティが感じられない。人物造型は巧みなのだが、会社の業績を維持するために、ライバル会社の飛行機を墜落させるという設定にどうも問題がある。そして、ストーリーが容易に先が読める。これは、謀略が単純すぎるせいかもしれない。上下2巻にしては、どうも薄味。

それでも、ガントが追跡し、対決していく過程は読ませる。戦う人間たちの陰影が描き分けられ、人間関係は錯綜していかにもトーマス節。たった1人で「正義」を信じて突き進むガントの姿は実に古風な冒険小説の血が流れている。

それにしてもカバーデザインがダサイ。何年前のセンスだ?


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