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1997年10月
『新宿鮫6 氷舞』
大沢在昌、光文社カッパ・ノベルス

『新宿鮫』の衝撃的デビューから、もう8年がすぎました。大沢在昌が描くヒーローはいつもアウトローで、街も六本木などのおしゃれなところでしたが、『新宿鮫』では一転して体制内の刑事を主人公にし、新宿という猥雑な街を舞台に、一本筋の通ったハードボイルド・ストーリーを作り上げました。キャリアであるにもかかわらず、警察部内の確執から昇進の道を閉ざされ、所轄の防犯課(現在は生活安全課と改称)の一匹狼として生きる男、鮫島が、事件のただなかに飛び込んでいく。忘れてならないのは課長の桃井、鑑識の薮ら彼をささえるバイプレーヤーたち、そして恋人のロックシンガー、晶(しょう)。そして何よりも彼を衝き動かす高い使命感。

今度は前作『炎蛹』で取り逃がした窃盗犯グループのリーダー仙田がいきなり登場してきます。悪役でありながら魅力的な人物造形がうまい大沢作品のなかでも、仙田は印象的です。ホテル住まいのアメリカ人殺害事件に異例の介入ををしてきた公安外事1課。鮫島と同期ながら宿敵の香田警視正も憎々しげに登場します。謎を追う鮫島の前に立ちふさがる公安の壁。

キャリアの優等生香田が意外な一面を見せます。一方、晶と鮫島の間には危機が訪れる。銃撃を受けながらも追跡の手はゆるめない。核心に迫るにつれ、事件は政界にもかかわる様相を呈してくる。孤高のヒーローは卑しき街を誇り高く歩いていきます。セリフの端々に本物の男が垣間みえます。

感動のラストに向けて、サスペンスは加速する。新宿鮫シリーズでも白眉の作品です。ついに日本のハードボイルドもここまできた、との感慨を深くしました。この本を読み始めて徹夜して会社に向かう電車のなかまで読みふけりました。


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