■ 孔雀の恋の衝動


疑問

孔雀の雄だけが美しく派手なのはなぜでしょう?
孔雀に審美眼があるとも思えない。
あんなに特異で大きな羽根にエネルギーを使うのは無駄だろう。

MINEW の考える答え(孔雀の主観的見解)

現代の、雄の孔雀になったつもりになってみましょう。

物心つくころにはもう、気がつくと自分は雄の孔雀でした。 成長に従い、(なぜだか知らないけど)飾り羽根はぐんぐん伸び、 鮮やかな色を帯びてきます。
ある日、雌の孔雀を見かけます。なんだか体がウズウズするぞ。 もうじっとしてられない。やっほー! たまらず駆け出し、 雌の前で踊ります。こんな風に踊るのは初めてだ。 教わったわけでもないのに、体は勝手に動く。尾羽根を大きく広げて、 わさわさ、わさわさ、と雌の目の前で踊りを繰り返します。
別の雄達もどこからか近付いてきて、同じように雌を取り囲んで 羽根を広げています。 負けるもんか。わさわさ。これでもか、これでもかぁ。ばさばさ。

雄の孔雀は何も考えていません。何も予測していません。 自分の中でその瞬間に湧き起こって来る衝動に従っているだけです。 なぜ美しいのか、なぜ踊るのか、彼は何も知りません。 踊りたいから踊るのさ。「美しい」という概念さえも彼にはないでしょう。 彼にとって、美しい羽根にはなんの意味もありません。

現代の、雌の孔雀になったつもりになってみましょう。

物心つくころにはもう、気がつくと自分は雌の孔雀でした。 ある日、目の前に雄の孔雀が現れて、わさわさと羽根を広げて 行く手をふさぎます。何かしらこの模様。見ていると妙な気分だわ。 体がウズウズする。でも、なぜだかまだ行っちゃいけない気がする。 後ろを振り向いて歩き出すと、別の雄が近付いてきてまた同じく 羽根を広げてわさわさと踊り始める。
またこの模様。何だかさっきよりも大きく包まれるみたいで、 クラクラしちゃう。あ、近付いてきた。ばさばさ、ばさばさっ。 あぁもうたまらない、やっほー! ついて行っちゃえ。

雌の孔雀は何も考えていません。何も予測していません。 自分の中でその瞬間に湧き起こって来る衝動に従っているだけです。 彼女は雄の羽根と踊りを「見て」いますが、その中の「何」が、 彼女をやっほー状態に導くのか、知ってはいません。
模様の数を数えてはいないし、 羽根の長さを測ってもいないのです。 ある雄には「いまいちぃ」と感じ、ある雄には「行っちゃえ」と 感じさせるもの、それは彼女の深いところにあって、 彼女はそのルールを知りません。 が、そこから湧き起こる衝動に動かされているだけなのです。 惹かれるからついて行くだけよ。
彼女に「美しい」という概念はないでしょう。 彼女にとって、美しい羽根にはなんの意味もありません。


というわけで、孔雀は意味を知りません。なぜ美しい? という問いを 理解できません。
雄は、羽根を広げて踊りたいから踊るだけです。
雌は、踊りを見せられてより強く惹かれる雄について行くだけです。
体の奥底の衝動が、もうそういう風にできている。 それ以上の意味を、彼らは知りません。


* 参考文献
 ・「孔雀の雄はなぜ美しい?」長谷川真理子
 ・「性選択と利他行動」 ヘレナ・クローニン


1995/02/02 T.Minewaki
2000/02/27 last modified T.Minewaki

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