◆ 砂漠の惑星 / スタニスワフ・レム ◆

Book Image 書 名:砂漠の惑星
著 者:スタニスワフ・レム
訳 者:飯田 規和
発行所:早川書房 ハヤカワ文庫 SF
定 価:420 円(税込)
1977年12月15日 発行
1989年6月30日 9刷
原作 1964
ISBN4-15-010273-2 C0197 P420E

消息を断った宇宙船コンドル号を探し求めて 琴座・レギス第3惑星に降り立った調査船「無敵号」。 そこは砂漠が広がり、生物の姿の見えない土地であったが、 やがて発見されるコンドル号では謎の混乱とともに乗員は死に絶えていた。 何が彼らを襲ったのか…

という展開は「エイリアン」を挙げるまでもなく、ありがちで、 どんな異形のモンスターが現れて激しい攻防が展開されるのかと思いきや、 そんな表面的なにぎやかホラーへの期待を裏切り、物語は読者をより深くへと 運んでゆく。さすがレム、ひと味もふた味も違う。

物語の中盤までは、敵の正体が不明瞭ですいすいと読み進んで行けるのだが、 「6 ラウダの仮説」の章に至って、面白さは激増する。 それは僕にとって面白いということなのだが、「進化論」が重要な要素として 登場するのだ。

僕は自分の空想話として 「宇宙人は友達か?」 「異質な生命体」 という よもやま話 を書いたが、この小説はそれに近い発想が 組み込まれている!(喜ぶ MINEW ちょっと自慢)
無敵号の生物学者ラウダによる仮説によれば、彼らを襲ってくるのは、 琴座ゼータ星第6惑星にいた星人が作り上げた「自動機械が進化したもの」だ、 という。 500 万年前、星人の派遣した探索機のうち自動機械だけがこの星に残り、 地上の生物と戦い絶滅させ、自動機械自身の複製の繰り返しが続くうちに 機械種間での変異と淘汰が起こり、勝ち残ったものが それ だというのだ。

無生物(少なくとも我々には似ていないもの)にも進化は起こりうる。 その道筋は有機生命体が進化するさまとは 全く違ったものであるだろう。できあがったものは理解を超えたものと なるだろう。
そのことを想像したレム、すごいとしかいいようがない。 1960 年代といえば、ダーウィン進化論は提示されていたにしても、 まだまだ一般には正しく解釈されてはいなかった時代である。

圧倒的な力を持つ、それ とはコミュニケーションをとることができない。 「思考」というものがあるかどうかさえわからない。動作原理も不明。 こうなると、焦点は人間心理的なものになる。戦うことに何の意味があるのか? 隊員を殺されたからといって、復讐心や征服欲を満たすために、 勝ち目のない戦いを仕掛けて何になる?
この小説のもうひとつのすばらしい面は、人間の精神ドラマである ということ。
戦うことは問題ではない。でも、逃げることはできない。なぜなら、 生存の可能性のある隊員を見殺しにして飛び立つわけにはいかないのだ。 理解不能の敵をどうにかしてかわし、行方不明者を救出に向かわねばならない。 苦しい選択を迫られる隊長。そして捨て身の捜索の結末は…

またしてもレムの想像力にしてやられた1作であった。

Thanks to K.S.


2000/01/11 T.Minewaki
2001/02/17 last modified T.Minewaki

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