◆ 寿命はバランスだ ◆



日本人の寿命はまた伸びましたね(女性 83.82歳、男性 77.19歳、1997年)。
世界一、人類史上最高の長生きヒト種族。

in 「死ぬようにできている」 :
: 遺伝的な病気、というものがいろいろありますが、
: 進化的に、遺伝病は排除することができません。蓄積する一方です。
蓄積する一方、というのは良く考えるとそうでもありません。
「適度に」とか「平衡状態でつりあう」という表現が正しい。 (こういう事を考える時は常に反論も考えないと、偏ってしまうので注意。)

早死にする遺伝子を取り込む例を挙げましたが、ほっとくとそれが どんどん重なってどこまでも寿命が縮んで行くかというと、そうではない。
子供を産めないくらい若いうちに死んでしまうと、その「若死に遺伝子」は 子に続かないので排除されてしまう。それに、長生きした方が子供をたくさん 産めるだろうから、若死に遺伝子を持たない者の繁殖率が上がって 広がって行く。
つまり、両方の傾向がいろいろあって、長い時間の後、 平衡しているということ。

→ 寿命を伸ばす方向の要因 ← 寿命を縮める方向の要因 これは、コンピュータシミュレーションを作っても面白いかもしれない。 いろいろパラメータをいじると、どの要因が最も影響するかとか わかるかも。
とはいっても、人間の現実世界はシミュレーションできるほど単純では ないだろうが。



★「いつまでも生きたい」という欲望に基づいた医療技術の発展

長生き(医療)は老化の遺伝子(プログラム)との戦いである。

上に示したように、「遺伝子」は繁殖年令後、短命化する方向に引っ張り、 「意志」は長生きする方向に引っ張ります。意志に基づく医療技術は短期に 大きく発展しているので、世界の人口は増え、寿命は伸び続けています。 バランスは、変わってしまいました。

生物の長い進化の歴史上では「次世代の遺伝子の変異」によって生存率を上げる、 というやり方でずーっとやってました。
しかし人間は、環境への順応力が身につき、免疫力が身につき、 環境を操作する力(服、家、エアコン)を持ち、医療技術を蓄積し、 さらに「文化、思想」という脳ソフトウェアを入れ替えることによって、 あっという間に価値観まで変えられるようになりました。

それによって、人間は「生まれ変わらないでも」自分を変えて、 生き延びることができるようになったのです。 つまり、人間は「結婚」も「出産」も「死」も必要が無くなったとも言えます。 長生きできるだけでなく、遺伝子操作によって、次の世代をより良く設計・製作 する能力さえ開発しつつあります。

残っている敵は、過去の遺物として根深く組み込まれている、遺伝子の 老化プログラムです。その打倒に向けて、現代遺伝子学は全力で進みつつ あります(ヒューマン・ゲノムプロジェクトなど)。



いつか、遺伝子は人間の思いのままになり、老化の影から逃れられるの でしょうか? そして幸せになれるでしょうか?

それは技術的には可能に思えますが、新たな大きな葛藤が現れるだろう、 と僕は予想します。簡単な例では、「不死になると、子供は要らなくなる。 でも子供は喜びだ。」といったようなことです。
悲しみも、喜びも、遺伝子のプログラムにもとづいています。それは両方あって バランスするように作り上げられて来ました。表裏一体なのです。
人間が「死ぬのは嫌だから」という感情で、老化のプログラムだけを 遺伝子から削除したとしても、それと関連して同時に「幸せのプログラム」にも 影響を与えてしまうことになるでしょう。
つまり、「そんなにうまく、思い通りにはいかないだろうな」というのが 僕の予想です。
1998/06/21


《 2001/08/03 新聞記事 》
最長寿国ニッポン、男 77.64 歳、女 84.62 歳

厚生労働省の2000 年の簡易生命表で、
男 77.64 歳、アイスランドの 77.5 歳(1998)を抜きトップ、 前年比 +0.54 歳
女 84.62 歳、スイスの 82.5 歳(1998)を抜きトップ、 前年比 +0.63 歳

Link → 厚生労働省 HP

1997/10/04 T.Minewaki
2001/10/09 last modified T.Minewaki

そんなに増えてどうするの?
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なぜ赤ん坊は泣くのか?
生命のよもやま話
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