南アルプス

塩見岳*

Wawak山歩会は2008年7月、南アルプス(赤石山脈)中央に鎮座する塩見岳(3,052メートル)に挑戦した。赤石山脈の奥深いところにあるためアプローチが長い。古稀を迎えたメンバーの体力を考慮し、余裕のある登山計画を策定した。

年間計画では7月は鳥海山と月山の予定であったが、東北地方の梅雨明けは1週間遅れると判断し、急遽南アルプスの塩見岳に変更したのである。この判断は正解で晴天にめぐまれた。

第1日目、7月22日(火)

朝9:00開成町駅集合。マーさんの車で出発。塩見岳の登山口は美しい村連合の一つ大鹿村にある。そして大鹿村は中央構造線の破砕帯が侵食されてできた直線谷にあるのだ。折角のチャンスだからと諏訪ICから杖突峠を越えて中央構造線に沿う杖突街道を南下した。2006年に訪れたことのある高遠城に立ち寄って戦国時代に思いを馳せた。更に中央構造線がつくった谷につけられた秋葉街道を通って分杭峠を越え、大鹿村まで南下した。 途中、鹿塩川が削った中央構造線の北川露頭に立ち寄った。

中央構造線

北川の露頭の構造面に直接接している岩石は、伊那山脈側(内帯)の淡褐色の岩石はジュラ紀の付加複合体が白亜紀に高温低圧型変成を受けた領家変成帯である。南アルプス側(外帯)の灰色の岩石は白亜紀に低温高圧型変成を受けた三波川変成帯である。

地質境界となる灰色の未固結の断層ガウジ帯(粘土帯)を切って、東から西へのし上げる逆断層がみられ、それらの逆断層を切る垂直に近い最新の断層が、ガウジ帯の中にみられる。

中央構造線の北川露頭  14:34

ここで内帯と外帯の異なる岩石を採取した。登山中はこの大断層が作った直線谷の特異な景観を眼下におさめ、日本列島の成因を納得した登山でもあった。

幹事のクリさんは登山の前泊は鹿塩(かしお)温泉の旅館山塩館を選んだ。この温泉の前を流れる塩川を遡れば、塩見岳の登山口である塩川小屋がある。塩川の名は塩分濃度が高い泉がでるためで、塩見岳の名前もここから取られているようだ。

我々は出来るだけ車で高度を稼ぐために豊口山登山口から登ることにした。豊口山登山口から標高差1,170m登って三伏(さんぷく)峠小屋泊、翌日標高差470m登るもので合計標高差1,640m登るというロートルコースである。これでも途中下りが337mあるため、2日かけて1,977mという年相応のものであった。それでも苦しく、結構キツイものであった。

塩見岳登山ルート 緑色

本日の 宿、山塩館(Hotel Serial No.421)に荷物を置いて車で鳥倉林道を鳥倉林道駐車場まで予備調査をした。駐車場から豊口山登山口までは林道を歩かねばならないことを再認識。

第2日目、7月23日(水)

豊口山登山口より6:15登山開始。 豊口山登山口付近は石灰岩のようである。 カラマツ林は鹿の食害防止にプラスチックテープを幹に巻いてある。豊口山間のコルに7:16着。

登山口から三伏峠手前の水場のある仏像構造線まではジュラ紀付加体である。仏像構造線の断層破砕帯から水が湧き、水場になっている。

登山口から三伏峠までの途中、ヤマオダマキ、ミヤママンネングサ?、センジュガンピ、ゴゼンタチバナなどを見る。

ヤマオダマキ

キリンソウ

センジュガンピ

ゴゼンタチバナ

三伏峠小屋(2,560m)11:32着。(Hotel Serial No.422) 三伏峠は日本一高い峠だ。往古の昔には大井川西俣をつめて峠に達し、鹿塩に下ったという。夕食までお花畑を経由して烏帽子岳(2,726m)の中腹まで散策。お花畑はかての峠道の大井川西俣をつめて行くと到達するところにある。ここから見る塩見岳は恐ろしげな姿をしていてはたして登れるのかという恐怖心が沸いてくる。

お花畑で、ミヤマタンポポ、カラマツソウ他をみる。

タカネコウリンカ

ミヤマタンポポ

カラマツソウ

ハクサンチドリ

ミヤマキンポウゲ

帽子岳の西面は崩落地帯で登山道はその縁を登ることになる。

お花畑から塩見岳を望む 12:33

2,000ccの水を担ぎ上げ、1,000cc消費した。500ccの飲料水を300円で購入。三伏峠小屋玄関でdocomo movaの携帯メールが使えた。

第3日目、7月24日(木)

4:30朝食。三伏峠に下り、三伏山(2,582m)を過ぎる。三伏山は強い西風がお花畑のコルから吹き付けるためと砂岩のためか樹木がそだたない。おかげで眺望はすこぶる良好である。中央アルプス(木曽山脈)が伊那谷の向こうに横たわっている。

しばらく下って本谷山(2,658m)に登る。木曽山脈はより近くなった。2003年に木曽駒ヶ岳、宝剣岳、空木岳と縦走した峰々が見える。

本谷山より中央アルプスを望む 7:19

ここから北方を望めば2000年に登った仙丈岳、甲斐駒ヶ岳、2001年に登った北岳、間ノ岳、農鳥岳が見える。

本谷山から南アルプス北部の仙丈岳、甲斐駒ヶ岳、北岳、間の岳、農鳥岳を望む  9:41

塩見小屋9:45着。(Hotel Serial No.423)小屋のオーナーの若い女性に携帯トイレの使い方を教わる。ゲル化剤の入ったプラスチック袋を装着しないで、便器をよごしてしまうやからがいるそうだ。使用済みのプラスチック袋はヘリで下界におろすのだそうだ。飲料水は水場からボッカしたもので500ccを100円で売ってくれる。不要な荷物を小屋に置き、10:35山頂アタック開始。

手前天狗岩、奥が西峰   マーさん撮影 10:43

塩見小屋から山頂に至る岩場は八ヶ岳の赤岳からクサリとハシゴを外してしまったような、殆ど自然のままで、高所恐怖症のものにとっては心理的圧迫がある。特に岩だらけの天狗岩を越えてゆかねばならないのがしんどい。

天狗岩を苦労して登って下るといよいよ西峰が眼前にそびえている。岩石は赤色のチャートである。

西峰 11:42

東峰の岩場をよじ登ると、今しがた越えて来た天狗岩が眼下に見え、塩見小屋も見える。

西峰から天狗岩と塩見小屋を見下ろす 12:19

目を南に転ずれば、2006年に台風の接近で断念した悪沢岳と千枚岳が見える。

千枚岳と悪沢岳  12:23

山頂には名も知らぬ沢山の花が咲いている。

イワツメクサ

イワギキョウ

イワベンケイ

イワオウギ

シコタンソウ(コン撮影)

ハイマツ

西峰から最高峰の東峰はすぐだ。12:30山頂着。ここで記念撮影。

東峰山頂にて マーさん撮影 12:35

東峰から北俣岳が眼下に見下ろせその向こうに農鳥岳に連なる広河内岳(ひろこうちだけ)が見える。

東峰から北俣岳と広河内岳を望む 12:38

塩見岳は南アルプスの奥深くあるためと晴天のおかげで、すでに登った南アルプスの3つのピークを360度方向に確認するという幸運をもてた。 登山者も少なく、風もなく、かんかん照りのなか、強烈な紫外線を浴びて、丸首シャツ一枚でゆっくりと岩登りを楽しめた。

14:10に塩見小屋帰還。ビールを飲みながらくつろぐ。2リッターの水を購入し、ポカリスエットの粉末を溶かす。塩見小屋玄関でdocomo movaの携帯メールが使えた。

夕日をあびる塩見小屋と塩見岳   17:24

遮光クリームのおかげで、赤むけにはならないが、顔を洗う水もない山小屋での一夜は不快で熱苦しく、よく眠れなかった。やむを得ず満天に光り輝くいて座、白鳥、カシオペア、北斗七星、北極星、プレデヤス星団(すばる)などを見、遠く関東平の北端とおぼしき辺りの立ち上がる積乱雲が3つほど、自ら発する放電光に照らされて1万メートルにも達すると思える巨大な姿を暗黒の空に見せるという生まれてはじめてみる奇観を楽しんだ。内部で発光するのだが音は遠方のため聞こえず、発光のタイミングが絶妙で、パイプオルガンが天上で鳴り響くような錯覚を感じた。人工の花火より美しく、神秘的で幸運な一時を過ごした。

第4日目、7月25日(金)

5:30塩見小屋発。7:22本谷山着。8:35三伏山着。11:50豊口山登山口着。下山までに1,500ccの飲料水を消費する。

帰路発見した花。

ニョホウチドリ(コン撮影)

コイチョウラン(コン撮影)

オククルマムグラ

マルバダケブキ

塩見で合った20人くらいの人のなかでおばさんグループが元気であった。北岳から縦走してきたとか蝙蝠岳の縦走するのだというご婦人方は何組かいたが男性グループにはそういう猛者はいない。男の方が消耗が早いようである。

中には「私は奥様ではありません。なんというか、ここにいるこの男の愛人とでもいえる存在です」と大声で話す元気なオバサンもいた。この愛人は柔和そうな男を従えて蝙蝠岳の方に向かった。北岳から縦走してきた3人組みのオバサンは三伏峠小屋にダンナを迎えに呼び出していた。奥様を迎えるだけに嬉々として1,000m登ってきてそれを見も知らぬ人に話す男も変ではある。

阪神電鉄の車両担当技術者だったという神戸の70歳のA氏は徹夜で奥さん連れでやってきて、いきなり山に取り付き、さすが「バテタ!歳だな」とつぶやいていた。百名山の95座を達成し、これから赤石、悪沢、聖を制圧して最後がテカリでマンガンとのこと。塩見岳は常念や早池峰と同じく嫌な岩場であったと語っていた。

A氏は北海道で樹木の凍裂の音をきいたというがここでもかなりの数の凍裂の傷を発見した。

百名山未達のまま仲間を失った良人を鼓舞するために途中から加わったという奥様は面白い方で私が追い越したとき、まじめな顔して「ジャンケンで負けたので一枚脱いでいるのよ」とつぶやく。そこで私は「いいですね、私とジャンケンしません?」というと「まだ2枚あるからいいわよ」と返す。

平和である。

大鹿村の中央構造線を侵食した雨水と南アルプスの西面に降った雨は小渋峡を通って松川近くで天竜川に合流する。我々はこの小渋峡の深い渓谷を通って松川にでてまつかわ温泉 清流苑で旅の汗を流した。(Hot-spring Serial No.251

July 31, 2008

Rev. August 18, 2008


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