大菩薩嶺と丹波大菩薩道

2003年10月30日、wakwak山歩会は大菩薩嶺(最高地点2,057m)登 山を行なった。今回は中里介山の小説の舞台となった大菩薩峠と大菩薩嶺に登り、大菩薩峠越えの道として古くか ら知られた尾根沿いの丹波(たば)大菩薩道(もう一つは小菅川沿いの小菅大菩薩道である)を行く。いわゆる 甲州裏街道コ−スである。総距離14.07km、累積登り632m、累積下り1,607m。

江戸時代、甲府からは塩、丹波山村からは染料の原料となる木の実や小豆などを運んで、妙見大菩薩の祠の前で交易したという.明治初年、青梅街道が柳沢峠に 付け替えられてから、大菩薩峠を越す人も稀となり、道は荒れるに任されていたが、その廃道が再びハイキングコ−スとして復活しているという。

ところで大菩薩とは仏教の菩薩とも異なり、仏教が日本に入ってきた頃、日本で独自に考案された「神仏習合」という 思想による八幡大菩薩の ことなのか浅間大菩薩なのか疑問を持って調べてみると、深田久弥は「甲斐国史」に「新羅(しんら)三郎(源頼義の三男、源義光)奥州ヲ征伐スル時、・・・オオ八幡大菩薩ト声高二讃嘆ス」という故事から呼称 されるようになったという。


第1日

八王子駅集合後、中央線経由で塩山駅につく。直ちにタクシーで福ちゃん荘前に乗り付ける。40年前の登山ブームの ころ、多数の登山者を運ぶため、朝の3:00から15時間かかって15往復したタクシーもあったそうである。福ちゃん荘はもう海抜1,700メートル地点 にあるから、後300メートル唐松尾根を登るだけで今日のノルマは達成ということになる。

とにかく雲ひとつ無く、無風の登山日和である。福ちゃん荘から大菩薩嶺から大菩薩峠にかけての稜線の西側が笹原に なっているのが見える。車山高ボッチ・鉢伏山と同じように強い西風により、樹林は育たないようである。従ってレンゲツツジなどの潅木もあ るそうである。上り始めの林間コースでは紅葉を楽しむ。笹原を抜け、約1時間後に雷岩に達すると西方180度のパノラマビューを満喫する。富士山とそれを 取り囲む三ッ峠山、御坂山、黒岳、 毛無山の連なりが見える。三ッ峠山の山頂には無線中継アンテナが林立している。富士の西側にある毛無山(1,964m)は次回に登山予定だが、下の写真の 右端に見える。手前の大菩薩湖はロックフィルダムらしき真一文字のダムによって造られた人造湖のようである。

富士山と周辺の三ッ峠山、御坂山、黒岳、毛無山、その手前の大菩薩湖(雷岩より)

雷岩で昼食後、大菩薩嶺まで往復する。山頂は樹木に囲まれ、展望はない。

山 頂の仮想360度パノラマ

山頂から大菩薩峠までは笹原が続き、西側の展望がよい。眼下に塩山市とその向こうに石和温泉(いさわおんせん)が見える。甲府市は石和の北にある山の陰になっている。妙見ノ頭を過ぎると東北方向、遠方 に赤岳より南の八ヶ岳連峰が見える。手前右には金峰山(きんぷさん)、甲武信ヶ岳(こぶしがてけ)が見える。かってこの間を通る川上牧丘林道を ジープで走破した記憶がよみがえる。

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赤岳より南の八ヶ岳連峰と金峰山(きんぷ)、甲武信ヶ岳 (妙見ノ頭より)

大菩薩峠の介山荘に荷物を置き、その南側にある熊沢山を往復する。(Hotel Serial No.269)ここを下れば石丸峠である。日は南アルプスの塩見岳に沈んだ。大菩薩峠から見る南アルプスは長大で見事だ。北は甲斐駒ケ岳から南は 聖岳まで全て見える。そしてその先には身延山の南西にある七面山(1,989m)がチョットと顔を出しているのが見える。

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南アルプス全ぼう (大菩薩峠より)

右より甲斐駒ケ岳、仙丈岳、鳳凰山、北岳、間ノ岳、農鳥岳、夕日をバックに塩見岳、 荒川岳、赤石岳、聖岳、七面山

大菩薩峠からは夕日に映える雲取山(2,017.1m)はその長大な尾根を七ッ石山、鷹の巣山方向に延ばして横たわっている。かって三条 の湯からお祭りまで8kmの後山林道を2時間45分かかって歩いた苦役を思い出す。手前には明日下る丹波大菩薩道がつけられた尾根が黒々と見える。

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左より雲取山、七ッ石山、鷹の巣山 (大菩薩峠より)

夕食後、山小屋の若主人の案内で夜空の鑑賞をする。西に塩山、石沢の町の火が東側に埼玉副都心と新宿方面の夜景が 見える。まだ気温が高く、霞みがあるため、銀河はようやく見える程度である。北にカシオペア座と北極星が、南に火星、そいて東にすばる(プレヤデス星団) が見えた。この星団となにか他の天体の食を観察するために学校に泊り込んでぐっすり寝てしまったことを懐かしく思い出す。

鹿の鳴き声が聞こえる。若主人によればそろそろ間引かないと樹木の皮をかじる被害がでているが、国立公園の特別地 区は狩猟禁止で間引くこともできない。役所は動物愛護団体に気兼ねして対策が後手に廻るので、登山者が直接役所に提言してほしいとのこと。40年前の登山 ブームのころ、登山者が捨てた多量の置き土産を埋めておいたのだが、雨によるエロージョンと鹿が掘り起こすためファンタの空きビン等が多量にでてきて、今 少しずつ山から下ろしているとのこと。当時の登山者のモラルは低かったのである。

当日同宿した登山客はいずれも引退者とおぼしき約20名だったが、山小屋の若主人との質疑応答のなかで東京の小金 井に住む御夫人から小金井から見ると南北に連なる連嶺のなかで一箇所凹んでいるように見えるところは何という峠かという質問がでた。山小屋の若主人は小金 井からみたことがないのでと返答に窮した。青梅街道が通る柳沢峠から甲州街道の通る笹子峠までの分水嶺は33kmあるが、そのうち2,000メートル級の 連嶺は大菩薩嶺から滝子山に至る約15kmである。そのうち特に小金沢山から滝子山の間10kmは確かに殆ど平らに見える。山から帰って地図を精査してみ てその中間にある窪みは湯ノ沢峠ではないかと見当をつけた。

皇太子殿下ご夫妻が私的登山した時の逸話が面白かった。非公式とはいえ当然地方警察や皇宮警察の護衛がつくのは当 然である。1月も前から周到な警備の準備がされるのも理解できる。これからがあまり報道されない話になる。山小屋に宿泊するときは予約者の身元調査が行な われるそうである。身元調査の締め切り日以後は山小屋は満員ということになると想像してよい。当然すべて山小屋の管理人には緘口令がひかれる。案内人はい ろいろと面白い話のできる山小屋の管理人には依頼せず、公務員たる営林署の山岳会会員が勤めるそうである。その方が無難という判断か?皇室と市民の直接接 触はできるだけ避けたいという本能のようないやなものを感じる。私的な登山のため、事前に予定は公表されないはずであるが、なぜか当日には100人の報道 陣がかけつける。ただ指定の位置で写真撮影するという条件付きで来るらしい。一般登山者は理由も聞かされずに登山路の一部閉鎖をいぶかしがるが、突然ご夫 妻に遭遇して感激することになる。こういう機会に近代的で快適なトイレなどが地方自治体によって整備されるのだが、私的登山なので役人の思惑通りには事は 運ばす、生理現象も彼らの予想を裏切る。役人が周到に用意し、3人の管理人がうやうやしく待ち受ける公的で快適なトイレは使われず、山小屋が私的に管理す る古典的汲み取り式トイレ!が役にたって感謝されたこともあったそうである。

大菩薩峠の稜線上から眼下に見える大菩薩湖は人造湖であるが、流水を集める集水面積の小さなダムで存在意味がある のか疑問に思っていたところ、東京電力の揚水発電用のダムであるとの看板が大菩薩峠にあったのでなるほどと納得がいった。揚水発電目的なら上下二つのダム のセットが必要と思うのだが見当たらないねとwakwak山歩会のメンバーの一人がつぶやく。その謎は帰ってから昭文社の地図をつぶさに調べて解けた。小 金沢連嶺の東側にそれはあったのである。それも落差714mの世 界最大級の揚水発電システムだという。グリーンウッド氏は寡聞にして知らなかった。皇太子殿下ご夫妻の私的登山に100人もの報道陣がドット駆け つけるのに、大菩薩連嶺の両側に密かに完成した世界最大級の揚水発電装置の完成に一人も関心を払わず報道もしないマスコミもどうかしているのではないか。


第2日

早朝6:00防寒具を着込んで、大菩薩峠北側の小山に登り、後来光を仰ぐ。東方には三頭山(みとうざん)、その向こうに御前山、大岳山、御岳山の三つのピークが見える。南西には丹沢山塊が遠望され る。

七時下山開始。すべて林間の道である。ところどころ箱根の古道のように石畳なども残っており、かっての幹線道路の おもかげを感じる。下山者はwakwak山歩会だけ、登山者とは2名すれ違っただけである。

ノーメダワで初めて視界がひらけ昨日は見えなかった、北方の笠取山(1,953m)、唐松尾山 (2,019.2m)から飛龍山(2,069m)に至る山並みを遠望することができた。まえじまてつお氏がマナ山と呼ぶ西御殿岩は 唐松尾山とリンノ峰とおぼしき小さなピークの間の高まりであろうか?

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左より笠取山、黒塊山、唐松尾山、西御殿岩、リンノ峰、竜喰山、大常木山、飛龍山  (ノーメダワより)

ノーメダワから追分までは今倉山をまいて道がつけられており、多少の上下はあるが、2kmはほぼ水平の道で、かつ 巨大なブナの森のなかを散策できる、もったいないような道であった。あゆみも自然とゆっくりとなる。おりからの紅葉を満喫した。

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ブナの森 (クリさん撮影)

追分からはスギの植林の中の道となり、視界も遮られるたまただひたすら歩みを速めた。1,277mの標高差を5時 間で下った。丹波村の”めこいの湯”で汗を流し、バスで奥多摩駅まで移動。(Hotspring Serial No.194)

スケジュールとパーフォーマンス

日付

場所 予定時刻 実時刻 歩数 毎時高度差(m/h) 毎時歩数

第1日目10月 30 日(木)

八王子駅駅 改札口

9:15集合9:39発

9:00着      

 

塩山駅

11:10着

11:10着      
  福ちゃん荘前 (1,700m) 11:50着 12:00着 0    
  雷岩 (2,030m) 13:50発 13:00着、昼食 2,630 330 2,630
  大菩薩嶺 (2,057m) 14:00着 14:00着 3,400    
  大菩薩峠 介山荘 (1,897m) 14:50着        
  熊沢山          
  大菩薩峠 介山荘 (1,897m)   16:00着 9,570    
第1日10月31日(金) 大菩薩峠 介山荘 (1,897m) 7:00発 7:00発 0    
  ノ−メダワ (1,360m) 8:20着 9:00着 11,260 269 5,630
  追分 (1,360m)   10:00着 14,900 0 3,640
  藤ダワ (980m)   11:00着 19,600 380 4,700
  めこいの湯 (620m) 11:45着 12:00着 25,500 360 5,900
  丹波バス停 (620m) 13:48発        

装備・食糧

山行装備:ゴアテックス上下、ゴアテックス・フリース、ブルゾン、着替え肌着、防寒手袋、サングラ ス、軽アイゼン、ストック、スパッツ、ザックカバー、ヘッドライト、コンパス、地図、万歩計、カメラ、携帯電話機、洗面セット。

食糧:初日の昼食

その他:

塩山から副チャン荘までのタクシ−料金(約5,300円)、介山荘1泊2食 7,000円、丹波 (たば)のめこいの湯(加熱しない温泉 入浴料600円、丹波バス停発13:48、町田で反省会

November 1, 2003

Rev. November 17,, 2017


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