インフラストラクチャー輸出の陥穽

トマ・ピケティの「21世紀の資本」を買って半分読んだところだが、著者のパリ大学経済学部のデータベースの アドレスを知り開けてみた。そして試みに日本の戦前からのトップ10%の資産のシェアをプロットしてみた。戦争で岩崎などの財閥などのが没落し たのが明確に見て取れる。財閥は消えたがトップトップ10%が再び勃興している。普通のサラリーマンはこれに含まれないであろう。会社所有者と経営者だろ う。これでトップトップ10%が国富の41%を所有するようになっている。

この傾向は1980年からはじまっている。井手英策の「日本財政 転換の指針」 によれば1979年、大平内閣の時、消費税の導入に失敗。財政再建のために北欧型福祉国家はやめにして社会保障関係費の抑制を選択した。そのとき日本型福 祉社会論を展開し、「個人の自助努力」、「家族・近隣の相互扶助」、「家庭基盤の充実」を掲げた。これは専業主婦を家に固定させ、「男性稼ぎ主型社会」を 強化することになった。中曽根内閣もこの方針を継承。そして今日本は人口減少に脅え、人々は年老いた親の看護に苦しんでいる。

 安倍政権は取ってつけたようにふるさと創生などというわけのわからないことを言い出したが、本質が分かっていない証拠だ。

我々の世代は自己責任といって国が面倒みてくれないからから親の介護で大変。われわれの世代の女性は自分の親と夫の親、そして夫の面倒をみてから孤独死 で一生を終える宿命にある。しかし政府はビンボーでなにも出来ない。

政府は省エネ、耐震住宅の建設費は2015年の12月から1,500万円を限度として生前贈与できるようにするという。ただEU諸国などとちがって日本で は脳梗塞で半身不随になった老人が民間の介護老人ホームに入居すれば利用料が月35万円である。国の特養は少ないため、ほぼ入れない。このように福祉シス テムが貧弱で自己責任となっているため賢明な老人は生前贈与などするはずもない。このように国家が人生の最後の面倒をみることを放棄している以上、国家 が、民間の貯蓄をマーケットに流通させて景気をあげようとしても人々は金を握って死ぬまで離さない。政府は政策が間違っているのに気が付かない。

郵貯の金も政府がすべて株式に投資した株価をおしあげているが、株はいずれ暴落する。郵貯が破綻すれば税金を投入するのが目に見えているから人々は自衛のためにますます金を使わなくなる。

ところが北欧諸国はすべて国が面倒をみてくれる。そのために租税負担率が70%になっても喜 んで支払っていると聞く。なぜ北欧に増税ができて日本でできないのか?それは日本には社会福祉は形式があるが何の役にもたたず、残りは自己責任とされるの でそのときのために貯金しなければならないと考えているからである。要するに政府を信頼できないからだ。

納税者の代表たる議員自 身が歳費で蓄財するのは、そうしないと自分の老後がないことを知っているからであろう。官僚が予算を確保して無駄なインフラ事業を海外まで展開するのは天下り先確保とみられている。

スエーデンのコミューンの議員が無給で働いているのはすべて国家が面倒をみて くれるから無給で奉仕しても失うものはない。というわけで今の政治家と官僚と彼らが運営する国家は誰も頼らないし、信用もしない。議員は増税などすれば議席を失うし、経済は冷え込む。やむを得ず、民間が溜めた資金を再循環させるために財政出動し、国債を日銀に買い取 らせて経済に組み入れようとする。そしてマネーがだぶついて株や不動産バブルが発生して潰れるというサイクルを繰り返す。

日本では政府があてにならないからと自分で仲間を募り、集まって老若男女がシェアハウスを運営しようとしてもうまくいっていない。

このように国は大平内閣以降、福祉サービスを限定的にしたため、貧しい人の救済のため職場を確保しなければならなくなった。こうして日本は公共事業の資金を投じて景 気不浮上を計らざるをえなくなった。土建国家の誕生である。低所得層を生活保護の被保護者にすることなく、労働者にして尊厳の平等化を支えた。これはそれな りに有効に作動した。道路は建設省、農業基盤整備は農水省の金つるになった。そこで経済のためといって赤字国債を発行して下水道、地下 鉄、都市再開発など公共事業を無理やりでっち上げて行った。

ピケティーの格差図を見ればどの先進国も同時期から格差が開きはじめているこれは英国のサッチャー首相が1986年にはじめたビッグバンがきっかけとなったのであろう。

1990年代に円高になり、製品輸出が難しくなり、税収入が減ってこの傾向はさらに徹底した。ところがいよいよ財政赤字のため公共投資予算も組めなくなり、建設業は崩 壊。 農業も崩壊して地域社会は破壊された。教育も受けられない貧困層は社会の底辺で恥辱にまみれてひそかに生活しているだけである。現在、東日本地震と福島原 発事故復旧工事で建設業が一時的にリバイバルして彼らに職場を提供しているため上野公園からホームレスは消えた。しかしそれも一過性の需要である。持続的 ではない。

IMFがはじめたODAに外務省は協賛しGNPの0.5%程度の1兆円を発展途上国援助をしてきた。対中国に賠償も加味して毎年6兆円をつかった。しかしこれも中国のテークオフで中断し、ODAの対象国はアフリカしかなくなった。

影の薄くなった経産省は円高で消滅した製造業を救済するために安倍内閣をそそのかしてインフラ輸出を打ち出した。内容は原発、新幹線、地下鉄等である。しか しインフラは車両などの輸出を除き、ほとんど土建工事であるからコンサルやプロジェクトマネジメントとして働ける日本人のトップ10%はよいとして下層の労働者には職場すらもたらさない。これを推進しようという 安倍政権は日本人の下層に死ねといっているに等しい。東日本地震と福島原発廃炉と東京のビジネス用高層ビル建築が終われば先の需要はない。といわけで今の日本のシステムは持続性がないというべきなのであろう。人口減がその象徴。

インフラ輸出にはイラク南部での石油生産施設の維持管理も含まれるらしい。原発輸出のような国内の雇用に貢献しないインフラ輸出に比べ、石油価格の暴騰を防止できるから日本のニーズに合致し、意味ありと感 じる。ただ自国産の原油が増えて中近東の石油が不要となった米国に代わって進出するとしてもISISも制御できないい弱体のイラク軍に援護は期待できない。

国内には石油・ガス開発のノウハウを持つ企業はイラクで利権を持つ、JAPEXやチモー ル海で海底ガス田を開発しているINPEXなどだ。自衛隊を送るなどと言うことはかっての満州国の悪夢が待っている。これからはJAPEXやINPEXやエンジニアリング企業の社員は憲法に守られている自衛隊よりリスクが高く、命がけとなる。よほど 高給をもらわないと割に合わない。

格差は米国も同じ病であろうと、トマ・ピケティのデータを見ればトップ10%が48%の国富を所有していて日本より弱肉強食が強いイメージ通り。これでは人口が減って もよさそうなものだが、いまだメキシコから人口の流入があるため、なんとか食えている。しかし長い目でみればそのうちに米国はインディオを先祖とするメキ シコ人に占領されるであろう。マー!振出しに戻っただけのことだが。

ならば福祉国家といわれるスエーデンはどうかとみるとトップ10%が35%の国富所有となり、日本よりは平等な社会だと確認できる。ところがドイツはどう かと調べるとトップ10%が25%となりスエーデンよりフラットで驚いた。ならばフランス革命のフランスはどうかと調べると33%でドイツより不公平だ、 ならば英国はどうかとみると38%。米国、日本についで3番目に不公平な国である。アングロサクソンの気質は米国にも血で遺伝したが、なぜ日本がアングロサソン的になったのかと自問すれば、お互いに血を流した仲だからであろうか?

ピケティーの格差図を見てコンドラチェフのサイクルにみえるという人が居た。コンドラチェフのサイクルは主として気候のサイクルに駆動されてい る。あらゆるサイクルは一種の自励振動か複雑性が説明する揺らぎのようなものだ。すなわち格差が広がって社会にひずみがたまると革命か戦争になる。そうす ると格差の元になっている蓄積された富のう ち、不動産たる館や御殿は没収され、貨幣や証券は無価値になって格差が解消されるという自励振動的サイクルが生ずるのだろう。

フランスの片田舎を旅した時、宿泊したホテルは皆かっての貴族の館であった。英国では革命がなかったので没収されていないが、高い相続税が支払えないのでナショナルトラストに庭園ごと寄付して観光客に開放している。国はその観光収入で食っている。

日本でも似たようなものだ。明治維新で消えたかっての大名屋敷や太平洋戦争で没収された財閥の館は一部非公開だが、たいがいは公共的な施設になっている。

駄足だが、経産省は水素エネルギーインフラ整備も打ち出しているが、水素は資源ではない。電力と同じ単なる二次エネルギーだ。貯蔵できることはできるが800気圧の高圧ボンベで物足りない。二酸化炭素を排出しないとマスコミを使って宣伝している が天然ガスから製造 する以上、まったくのウソである。それに人為的温暖化説はサイエンスではなく政治的理論である。また原発輸出したとき、製造物責任はだれが負うのか不明の ままである。まさかメルトダウンの責任を問われて10兆円の賠償金を支払うはめになって想定外でかたずけるのか。これを税金につけまわす魂胆なら詐欺行為だ。

昨日、日本弁護士会の会長をした方に東海道線の中で以上の危惧を話したところ、そんなことは皆が知らないから知らしむべく努力しなければいけないといわれた。この一文をものしたのはそれに答えるためだ。

February 24, 2015


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