読書録

シリアル番号 1219

書名

21世紀の資本

著者

トマ・ピケティ

出版社

みすず書房

ジャンル

経済学

発行日

2014/12/8第1刷
2014/12/22第4刷

購入日

2014/12/28

評価



原題:Le Capital au XXIe Siecle ny Thomas Piketty

1週間前に新聞の諸橋徹の書評で出版を知る。名著の誉れ高い本だ。米国でベストセラーになり、ノーベル経済学者のポール・クルーグマンが絶賛したという。 マルクス以降書かれた最大の経済学本ではないかと思われる。多分著者はノーベル賞をもらうのだろう。はじめ図書館から借りることを考えたが数百人の待ち行 列だという。

孫の玩具として無線操縦のハマーを買ったのち、書店店頭で観て高価な本だが迷うことなく購入。

冒頭に1789年のフランス革命の人権宣言第1条「人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する。社会的差別は、共同の利益に基づくものでなければ、設けられない。」がでてくるように、本書は経済学の書であるとともに政治学の書でもある。

本書の結論は民間財産に基づく市場経済は、放置するなら、強力な収斂の力を持っている。言い換えれば、市場だけに任せていては格差は拡大し続ける。民間資本収益率rが所得と産出の成 長率gを長期に渡って大幅に上回るということで格差が拡大する。これは民主主義社会では社会正義の価値観を脅かす。過去100年間でいつもr=4%、g= 2%だった。例外は2回の世界大戦のみ。このときだけは格差はご破算になった。電力料金は投下資本収益率4%を割引率にして計算すれば現実に良く会う。

本書の研究の目新しさは、資本と労働の分配と国民所得の資本シェアの増加の問題を、18世紀から現在に至る資本/所得比の推移に注目して、広い歴史的背景のなかでとらえようとした最初の試みという。

マルクスが「ブルジョワが墓穴を掘る」メカニズムは、「無限蓄積の原理」というメカニズムだ。資本家達がかってない量の資本を蓄積したため、資本収益率を低下させ、資本家自身の転落に至るというものだ。

第一次大戦や大二次大戦は格差を平準化する効果があった。戦後のハイパーインフレで資本が蒸発してしまったからである。しかし平和の時代がくると余った所 得を貯蓄に回し、それが銀行経由で資本として再投資されるので資本が自己増殖し、少しの差が蓄積して格差が生じる。サッチャーとレーガンの民営化は国有ま たは共有資産を民間に移したためますます、資本が民間に蓄積することになった。資本の蓄積は格差を広げる。そうして2007年の米国の金融危機はこの格差 が引き金になった。

日本の1990年のバブル、イタリアの1998年のバブル、米国の2000年のインターネットバブル、米国の2008年のリーマンショックは民営化と公共 財産の民間移転が進んだため民間の資本蓄積が進んだためとする。経済性成長率はどの国も2-3%、人口増加率は米国1%、他の国は0.5%、貯蓄率は英国 が7-8%に対し日本、イタリアは15%でバブルが生じやすい。ババブルの破裂は膨らみ過ぎた資本をいささか乱暴に蒸散させる機能と言える。

マルクス経済学が死亡したあと、主として米国で新自由主義経済学が大手を振っていた。そのドクトリンは競争に任せておけばよいうというもの。しかし貧富の 差が大きくかつ固定化される弊害が目立ってきた。解決策として資本税、累進資本税などの政策を国境を越えて適用すれば不平等は解消できる。

日本の現政権がとろうとしているインフ レ政策はグローバル経済のなかで成功しないし、不動産や株のバブルで特定グループだけが大儲けをして格差が増大するという悪い方向に向かうという趣旨。

1/3読破したところで雑文を書くために1週間程中断。

あらゆる立場の人は他の人がどう暮らし、社会集団間にどんな権力と支配の関係が存在するかについて互いに観察している。格差は常に主観的で心理的だ。科学 と称するどんな分析でも緩和できない「民主主義は決して専門家会議などでは置き換えられない」という含蓄ある言葉をちりばめている。

ピケティー先生のパリ大学経済学部のデータベースの アドレスを開けてみた。試みに日本の戦前からの歴史をプロットすると。戦争での岩崎などの財閥などのトップ5%以下が没落したのが明確に見て取れる。財閥 は消えたがトップ10%が再び勃興している。普通のサラリーマンはこれに含まれていないだろう。多分、会社オーナーと経営者。これで国富の40%を所有す るようになっている。この傾向は1980年からはじまっている。井手英策の「日本財政 転換の指針」 によれば1979年、大平内閣の時、消費税の導入に失敗。財政再建のために北欧型福祉国家はやめにして社会保障関係費の抑制を選択した。そのとき日本型福 祉社会論を展開し、「個人の自助努力」、「家族・近隣の相互扶助」、「家庭基盤の充実」を掲げたのである。これは専業主婦を家に固定させ、「男性稼ぎ主型 社会」を強化することになった。中曽根内閣もこの方針を継承。そして今日本は年老いた親の看護や人口減少に苦しんでいるのだ。

我々の世代は国が面倒みてくれないから親の介護で大変。われわれの世代の女性は自分の親と夫の親の面倒をみて一生を終えるわけ。しかし政府はビンボーでな にも出来ない。北欧諸国はすべて国がしている。そのために租税負担率が70%になっても喜んで支払っている。なぜ日本でできないのか。それは国民が政府を 信用していないからである。今の政治家と官僚をみれれば誰も信用できないと思う。日本では自分で仲間を作ってシェアハウスを運営しようとしてもうまくいっ ていない。

福祉をしないなら国は職場を確保しなければならない。こうして日本は土建国家になり、低所得層を生活保護の被保護者にすることなく、労働者にして尊厳の平 等化を支えました。これはそれなりに作動した。しかし成長を継続させないと土建事業は不用となる。そこで赤字国債を発行して下水道、地下 鉄、都市再開発など公共事業を無理やりでっち上げて行った。

この傾向は1990年代にさらに徹底した。ところがこの公共投資予算も組めなくなり、建設業は崩壊。農業も崩壊して地域社会は破壊されたわけ。そこで国境 を越えて土建をあまねく世界にというのが今の安倍内閣の原発を含むインフラ輸出といわけだが、日本人のトップ10%はよいとして下層には職場すらもたらさ ない。これを推進しようという安倍政権は日本人下層に死ねといっているに等しい。といわけで今の日本のシステムは持続性がないということになる。人口減が その象徴。米国も同じ病だが、いまだメキシコから人口の流入があるにでなんとか食えている。しかし長い目でみればそのうちに米国はインディオを先祖とする メキシコ人に占領されるだろう。マー!振出しに戻っただけのことだが。

これを明治神宮視察の帰りに、日本弁護士会の会長をした方に東海道線のなかで話したことだ。そんなことは知らなかったとビックリしていた。

rev. February 21, 2015


朝日新聞2015/1/1号に著者へのインタビュー記事が掲載された。

両大戦や大恐慌で貧富の差は小さくなったが、いままた19世紀のように差は拡大しつつある。これを防止するためには資産への累進課税制度を国の境界を越え て一律に課することが必要になるだろうとしている。日本は中央政府がつよいので累進課税制度の導入は可能だ。デフレから脱却しようとしてもグローバル経済 下ではむずかしい。不動産や株のバブルをおこして悪い人々をますます豊かにするだけだ。

仏政府は2015/1/1の官報で、勲章レジオン・ドヌールのシュバリエ章(5等)の授与を発表したがトマ・ピケティ氏は仏政府のの受章を辞退する考えを 表明した。「だれが名誉に値するかを決めるのは政府の役割ではない」との考えで、オランド政権に改めて批判的な立場を示している。

2017/7 ブランコ・ミラノビッチが「大不平等」みすず書房を書いた。ここで不平等は収入がふえると増えるがしだいにまた減るという逆U字型を提唱し たアメリカの経済学者サイモン・クズネッツが提唱したクズネッツ曲線は逆U字というより波動じょうだというクズネッツ波形を提唱しているという。


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