読書録

シリアル番号 1223

書名

日本財政 転換の指針

著者

井手英策

出版社

岩波書店

ジャンル

経済学

発行日

2013/1/22第1刷

購入日

2015/02/19

評価



岩波新書 著者は慶応大准教授

鎌倉駅前書店の店頭で手に取り、衝動買い。

帯に財政再建すればそれでいいのか?とある。

裏表紙に「破綻」や「国債暴落」という警告の言葉に脅えて財政を「再建」することが社会の共通善なのか?尊厳と信頼の社会を構築するためにどうしたらよいのか。「ユニバーサリズム」の視点から受益と負担の望ましいあり方を提言するとある。

一般会計と地方支出合計は2000年以降160兆円で増えていない。一方、一般会計に占める租税割合は1990年に最高値85%であったが、その後低下を続け2011年には40%に下がっている。

日本人の政府への信頼度は先進国のなかでも最も低い。「政府への不服従」と「社会的連帯の欠如」は「寛容なき社会」が出現した結果である。低所得層の救済 のために中間層を豊かにしなければならないというのが「連帯のパラドックス」だ。民主主義の下ではこのパラドックスが解決できない。現在の日本はこのパラ ドックスのため、増税もできず、財政赤字から脱出できない。今の日本のシステムでは低所得層の救済のためにはまず貧しい人々を特定しなかればならないが、 これは「恥ずべき暴露(shameful revelation)」を必要とする。政府を支える原理は人間の尊厳を傷つけない形で分配の公平をきすことだが、これが欠けている。結果として、決定的 な社会の分断が生じている。この選別主義(selectivism)をさけるためには普遍主義(universalism)を採用しなければならない。そ の核心は所得、年齢、性別と無関係に育児、保育、養老介護などの行政サービスを義務教育とおなじように選別なく確実に提供することにある。政治家や官僚の 恣意的選別はこれを許さない。こうして初めて増税に対する国民の抵抗はやむであろう。

1979年、大平内閣の時、消費税の導入に失敗。財政再建のために北欧型福祉国家はやめにして社会保障関係費の抑制を選択した。そのとき日本型福祉社会論 を展開し、「個人の自助努力」、「家族・近隣の相互扶助」、「家庭基盤の充実」を掲げた。これは専業主婦を家に固定させ、「男性稼ぎ主型社会」を強化する ことになった。中曽根内閣もこの方針を継承。そして今日本は年老いた親の看護や人口減少に苦しんでいる。

この1979年という年はクリスチャン・カリルの「すべては1979年にはじまった」によれば、5つの反革命が17-20世紀を規定してきた近代を変えた事件だったという。

@中国文化大革命を終わらせた前年に「第十一期三中全会」を受けて79年から始まったケ小平の「社会主義的近代化」→仏革命が生み出した社会主義を終わらせた。
A79/1のパーレビ皇帝を退位させたイスラム革命→中世を終わらせた近代理念を否定、宗教の政治化を招来させ、ソ連を解体。
B79/5のサッチャー首相→仏革命が生み出したリベラル派を新保守主義が葬った。 
C79/6ローマ法王ヨハネ・パウロ2世のポーランド訪問→仏革命が生み出した社会主義を終わらせた。
D79/12のソ連のアフガン侵攻→仏革命が生み出した社会主義を終わらせた。

因みに中世が終わった時は1453年にビザンチン帝国崩壊、1456年にジャンヌダルクの異端告発の無効裁判が行われた。

その後も、日本は土建国家になり、低所得層を生活保護の被保護者にすることなく労働者にして尊厳の平等化を支えた。これは上手く作動した。しかしである。 これは成長が継続しないと破綻する。ニクソンショック、石油ショックで成長が止まってしまった時、成長を継続させるため、赤字国債を発行して下水道、地下 鉄、都市再開発など公共事業を行った。この傾向は1990年代にさらに徹底した。

ところがこの公共投資予算も組めなくなり、建設業は崩壊。農業も崩壊して地域社会は破壊された。

2015年になっても日本は未だプライマリーバランスが取れないため、人間の基本的なニーズである教育、医療、社会保障費を削っている。国が保証してくれないため、納税者はこれら サービスを市場から購入しなければならず、その資金にするため、せっせと貯金している。そして消費税を増税すれば、ますます貯金に励んで景気は悪くなるという悪循環。安倍内閣 は日銀から借金して土建国家のグローバリゼーションとばかりにインフラ輸出に励む。その資金となるODA予算は1兆円。これでは政府は性善説で運営されて いるからという神話は誰も信じないであろう。北欧は70%の税負担率でも人々は喜んで税金を支払うのと好対照。

2014年の増税は消費税単独であったのは失敗。所得税の累進性強化、相続税の引き上げ、資本所得の軽減税率の廃止をパッケージにして逆進性や低所得層 の負担を減らすべきだった。それに5%の増税の内、1%のみが社会保障の拡充に使われるだけなのだ。これでは次の増税は出来ない。

ヨーロッパ並みの、現物支給の社会保障をするために日本の消費税は20%にしなければならない計算になるというのに、8%で景気が低迷するのは社会保障が 貧弱のため、自腹を切る必要があるためだ。従っていつまでたっても赤字財政は継続する。過去30年間のつけが一挙に回ってきたのである。日本はこの状態を 脱却できそうもない。
Rev. March 24, 2015


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