私のインド体験

ーサルボダヤ運動とインド社会ー

元サルボダヤ・アシュラム農業学校長、元国際協力事業団派遣専門家(農業) 島田輝男氏

2006年9月27日

島田輝男氏は亜細亜大学の飯島正先生の東京農業大学時代の学友であった人である。 卒業時にインドに赴任しないかと誘われ出かけた。しかもその場所はインドでも最も貧困な地方といわれるビハール州のサルボダヤ・アシュラム農業学校であった。

サルボダヤ・アシュラム農業学校は1952年にガンディー主義者のジャヤ・プラカシュ・ナラヤンによって創立された。その目的はインドで最も遅れたビハール州の最も遅れた地で、「最も遅れたインドの村落の発展をガンディー思想に基づいて実現する中心地にすること」であった。

ここで氏は異文化衝撃と異環境衝撃の洗礼をうけ、以後、地球上のいかなる地に赴いても驚かなくなる耐性を培った。

その異文化衝撃と異環境衝撃とは

貧富の差

ピンは自家用飛行機を持つ茶園経営者、真ん中は賄賂を正統な収入とみなさざるを得ない小役人、キリはネズミが貯蔵した食物を横取りする権利を有するカースト

悠久な時の流れ

時は私のためにあり、貴方は私を待つ楽しみを知れ

自己主張の美徳

謙譲は美徳にあらず。「私の息子は素晴らしい、小学校1年生にして大人を言い負かす」

浄・不浄思想

ヒンドゥ教で最も発展をとげた思想。流れる水は清。水田に溜まった水は飲まないが、水田から流れ出る水は飲む。

ガンジス河の水にばい菌は居ない。たとえばベナレスから死体が流れてきても。

豚肉、鶏肉、卵、タマネギ、ニンニクは不浄食品

下位カーストの作った料理は上位カーストにとって不浄

不可触民が手を触れた水は不浄

素焼き水壷、沐浴、断食などの極度に発達した浄化儀礼がある

カースト・

バラモン(祭司)、クシャトリヤ(王族・武士)、ヴァイシャ(農牧商)、シュードラ(奴隷)まで4つ、不可蝕民を含めると5つのヴァルナがあって、さらに たくさんのジャーティに分かれている。

カーストは排他的集団。

祖先を共通にする外婚集団を内にもつ内婚集団で配偶者の選択の幅が限られている

カーストと職業は結びついていて、世襲

カースト内は自治組織を有する。結果、職業間の物品の売買価格(実質的には物々交換比率)は自由市場の原理すなわち神の手にゆだねることはできず、自治組織が裁定する

カースト間は縦関係

カースト差別をみとめない仏教徒、ジャイナ教徒、イスラム教徒、スィク教徒、キリスト教徒にもカースト制が持ち込まれている。

業・輪廻(カルマ・サンサーラ)により人間の魂は前世になした行いに縛られているため、その生業を変えることは罪である。来世の幸せを約束する最も功徳のある行為は現生のカーストの義務をはたすこと

とはいえ、バラモンの乞食、シュードラでトイレ掃除屋が貸家経営をしていたりするし、スズキ自動車の現地合弁会社のようにカーストを無視して成功している企業もある。

気候

冬、気温16oCで凍死者、夏、熱砂風でカラスが落ち、豹と山羊が仲良く木陰に難を避ける

日本の水稲は施肥で腐り、ナスは地熱で枯れ、ミカンの木の周りに枯れ草があるとシロアリにやられてしまう。

そしてインド・ネパールから帰国して今度は帰国者文化衝撃を受けることになる。自己主張の美徳にそまり、会議での発言禁止令を受けたのである。

インドに関する参考文献としては辛島昇の「インド入門」がお奨めとのこと。


このお話を聞いて最近の靖国問題に端を発した中国、韓国との政治摩擦に鑑み、政治評論家の屋山太郎氏が「日本はアメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、インド、アセアンなどと海洋国家連合を作って平和を維持すればよい」(学士会会報2005-VI No.855)という見解を吹聴していることを思い出した。 インドは法体系のしっかりした民主主義国家で欧米と価値観が一致しているため付き合う相手として好ましいという理由であった。しかしカースト制のしがらみも残っているだろうしうまく付き合えるのかという疑問を持った。

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October 5, 2006

Rev. October 9, 2006


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