総合知学会

フィーシビリティースタディ序説

ー主として化学プラントについてー

2008年8月23日例会

 

今回は小松昭英氏が1970年代にフィージビリティースタディー(今時の言葉ではFEED、Front End Engineering and Design)を担当してナイジェリアのカドナ・リファイナリー受注に到った顛末を紹介した。

潤滑油プラントを含む処理量10万バーレル/日のグラスルーツリファイナリーは当時、1,800億円であった。総資材42万トン、設計工数270万マン・アワー、最盛時の現場要員は邦人1,300人、現地人5,000人であった。このプロジェクトはヨルダン・リファイナリー建設につぐ海外工事でまだ日本人を大勢つれてゆかねば海外工事は不可能であったが、現在では海外工事は邦人は150人程度でコントロールできるようになっているはず。

運転指導に大勢の日本人オペレーターをつれていったが、ナイジェリア語はなぜか日本語、朝鮮語、トルコ語などのアルタイル語族と同じ語順のため、英単語を日本語の語順に並べるだけで運転指導ができた。

残念ながらカドナ・リファイナリーは現在稼動していない。これはナイジェリア政府が機能していないためである。ナイジェリアはハウザ、ヨルバ、イボ族など複数の部族の集合体で民族として一体感がないため、団結が保てないのが一因と考えられる。

さてフィージビリティースタディーの指標として単純利益率=粗利益/投資額、資本回収期間=投資額/(正味利益+減価償却費)、内部利益率=(割引キャッシュフロー現価-投資額==0など各種ある。日本では資本回収期間法が多いが、米国では割引キャッシュフローを使うほうが圧倒的に多い。

1978年に河本通産相がイランの輸出製油所に協力を約束した時、フィージビリティスタデイを担当した。通産省の西欧・中東・アフリカ課の課長さんや外務省の同じ名前の課員と付き合った。有能な官僚だった。通産の課長は後に中小企業庁長官になったが。残念ながら、癌で早死にした。また、このプロジェクトの実質的な責任者は、元通産事務次官、元電発総裁、中東協力センターの大堀氏であった。この方は、後に共同石油の社長になり、赤字会社を黒字に転換させた。また、第2ボスポラス橋受注の「下ごしらえ」をして、体調不調になり、なくなった。
 

ディスカッション

低金利政策でマクロエコノミーがバブルに向かっているときには割引キャッシュフローをつかっても内部利益率が市中金利より高くなるため、ハイエクが指摘したように経営者は積極的なビジネス展開をして 誤った投資に陥りやすい。これは割引キャッシュフロー計算のときに未来の収入をあらかじめ想定(Pro Forma Income Statement)するときに過大な想定が入ってしまうからである。実際にはバブルが発生すれば想定した市場は消えうせるのである。

LNGトレードのように製品売り上げのほとんどが投資回収に使われる場合は売り手と買い手がTake or Pay契約と金利をしばる契約を締結する。そうするとこのPro Forma Income Statementが契約で保障されるので市場混乱の影響はうけない。

現在、日本の地方自治体の多くが負債で倒産寸前にあるのは、バブル以後の日本の中央政府がケインジアン的財政出動で景気を立て直そうとしたことにある。箱物、道路、ダム、温泉施設など社会インフラ整備をさせようと交付金を餌に地方自治体に起債または借金をさせた。社会インフラ整備が地方の産業育成につながり税収が増えるなら良い。しかしその見込みもないのに中央政府は餌で釣 り、地方自治体も嬉々として餌に飛びついて誤った投資を行ったのである。どちらにもフィージビリティースタディーの観念すらなかった。

しかし例外的に地方の首長にも賢い人が居る。長野県栄村の高橋彦芳村長である。彼は補助金は毒薬であるとし、農家が希望する規模、形状にそう形で決めて行う田直し、村民の希望通りに直営事業で実施する「道直し」、下駄履きヘルパー制度などを実施して成功した。その結果、借金を抱える農家は皆無である。具体的には農地の区画整理を農家と村が雇ったパワーショベル・オペレーターと村の担当者の三者が現場で話し合って即決できめるので無用なペ−パーワークもなく、ローコストで迅速に行動に移れる。 中央対自律分散の見事な対比である。

中央官僚が無知のまま制定した制約付きで農地の区画整理を強行すると傾斜地では土を動かす量がふえて仮に補助金をもらっても後に残る借金が大きく、農業収入ではこれを返せなくなる。また中央官庁が決めた規格で幅広の道路建設しても車が通らない広い道路ができるだけである。中央官庁の傲慢さを拒否する英知をもった高橋村長の見識がさえる。

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December 21, 2008


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