読書録

シリアル番号 1324

書名

蒼氷・神々の岸壁

著者

新田次郎

出版社

新潮社

ジャンル

小説

発行日

1974/8/30発行
2008/8/5第40刷

購入日

2018/02/14

評価



新潮文庫

加畑氏経由いただいたS.K.の蔵書。昨年暮れいただいたが、行くへ不明になっていた。久しぶりに東京に出かけるために皮ジャケツを着たらポケットにはいっているのを発見。

新田次郎氏の作品は「八甲田山死の彷徨」、「郷愁の八ヶ岳 山のエッセイ」、「聖職の碑」を読んでいる。いずれも力作で登山のいさめとしていままで無事生きられたと感じている。

蒼氷、疲労凍死、怪獣、神々の岸壁の4短編集。


蒼氷

大学教養課程の1958年に小山政夫氏らと登った富士山を 思い出しながら蒼氷から読み始める。新田次郎が気象台の富士山山頂観測所の所員だった経験を生かした初期の頃の作だという。いきなり主人公らしき守屋、そ して遭難者桐野が登場する。守屋は桐野が持っていたシェンクのピッケルをみて、彼が思いを寄せる椿理子なる美女がもっているピッケルではないかとの疑いを 持つ・・・と始まるのでやめられなくなった。

1匹のメスに群がる2匹のオスの三角関係かと読む進むと、何とオスが3匹になってしまって混沌としてきた。そうこうしているうちに3匹目のオスは富士の火口に落ちてあっけなく死ぬ・・・そして4匹目が現れて、これも滑落で死ぬ。

この4匹目が新入りの観測員で、なぜ観測員はアンザイレン(anseilen)しないのかと問う。主人公の回答は力量がそろっていないと 却って危険だからという。若き頃、冬の富士山でのマナスル登山の訓練中にアンザイレンしていた仲間を全て眼前で失ってから登山はやめた話をある人から聞いたことがある。たまたまロープが彼女の前で切れたから助かったのだ。 それ以降、持っていた疑問であったのでなるほど。

さて、女王様のようにふるまう美女、椿理子から目の覚めた主人公は彼女から身を引いたが、精算後の気持ちを整理するために冬の愛鷹山塊に出かけて遭難する。しかし観測員仲間に助けられて救出されるところで終わる。という御話しでした。

同じ時期にこの越前岳に登った思い出をかみしめながら読む。

これは山岳小説の型で表現される花田清輝の明言「性的魅力をもった女性の愛するのは、政治的権力をもった男性だけである」がテーマなのだろう。本人達の望むところではなくとも権力闘争の均衡点がそうさせるのだ。

疲労凍死

冬山に二人で出かけ、一人が疲労して動けなくなり、倒れた仲間に雪洞を掘るなどのてあてをせず、助けを求めて置き去りにして生き残った場合、置き去りにし たのは見殺しではないかという疑念が残る。同様の状況で弟を失った兄がこの疑念を晴らすべく、その置き去り犯を誘って冬の八ヶ岳縦走を試みる。

置き去り犯が凍死するまでのコースは稲子小屋→本沢温泉→夏沢峠→硫横岳→横岳→赤岳石室→赤岳と冬の吹雪の中を縦走し、権現岳を断念して行者小屋に下る途中、中岳で力尽きるという御話。硫黄、横岳、赤岳、中岳は夏歩いている。夏でもきつかったのに冬なら当然アウト。

怪獣

これは横尾谷→涸沢→穂高山荘→奥穂高への単独行の御話し。私もこのコースを登ったことがある。そこでオコジョを至近距離で目撃した。本小説はそのオコジョにオチョくられる話し。

神々の岸壁

これは実在のクライマー南博人の実話だという。谷川岳の一の倉衝立岩の登攀などの詳細を描く。南が引退していとなんでいる南運動具店は(株)ファンクション ジャンクションと名を変えて今も渋谷にある。


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