日本の農業改革

最近の社会現象につき、グリーンウッド氏かっての職場仲間をメンバーとする非公開のラウンドテーブル21(一種の掲示板)に投稿した雑感と対話録ブラックショールズ式のつづきです。


Re:日本の農業改革

グリーンウッドさん

グリーンウッドさんの書かれた

「農業の効率向上のためには、土地所有者が土地を直接投資する株式会社を作り、専門の経営者と労働者に任せる仕組みにすれば効果がでるとおもういのですが、政府はそのような仕組みを受け入れる法体系を作ることには拒絶反応をしめしているそうです。こりもせず海外競合製品から自国製品の保護をはかるために、各種障害をもうけようと躍起になるばかりです。そろそろ大きな政策転換をはからければならないのですが、どの政党のマニフェストを読んでもこのようなことは書いてありません。国内の討議が少なすぎるためとおもいますがいかがなものでしょうか」

は小生も同様のことを考えていました。

おそらく日本の中には大勢の人が同じように考えているのではないかと思います。それなのにどの政党のマニフェストにもでてこなかったのは何故なのか、これを深く分析する必要性を感じました。

農業関連で生活している人びとの人口に対する割合はどのくらいなのでしょうか。おそらく20%以下、多くて15%でしょうか、それなのになぜ彼らに遠慮するのでしょうか。選挙でしょうか、農村地域の人々の一票の重みが大きいのでしょうか。

丁度今回の衆院当選者の得票数がでていましたので、自民党と民主党の当選者の平均的得票数をLotus123で計算したところ、自民党104,104/人、民主党100,683/人でした。(自民党に新たに公認された3人と田中真紀子氏、岐阜7区城内実氏は自民党とし、大分1区の吉良州司氏は民社と見なして計算しました。)結果はほとんど同じです。自民党は公明党の基礎票を考慮すると約10%程度は上積みされていると想定されますが、1票の重みの違いは10%以内なのではないでしょうか。

この結果から考えられることは、農業関連の人びとに遠慮しているのではなく、都会のサラリーマンも多くは農業地帯から流出した人びとでその出身地の基盤を弱体化する政策には抵抗すると想定しているからではないでしょうか。だとすればこんな不幸なことはありません。やはり合理的でない政策はひずみをもたらし、いずれは破綻すると思います。

ご記憶の方もいらっしゃると思いますが、「夫婦2人で、自家所有と他家からの委託との計12ヘクタール(約12町歩)の稲作をこなし、他にキノコ類の栽培もしている甲府盆地の篤農家のFさんの持論は「今の日本では、5ヘクタール未満の稲作は割に合わないから法律で禁止すべきだ」というもの だ。

1ヘクタールの水田から収穫できる籾は、よくて100万円程度の収入とみてよい。対する支出で大きいのは機械類の償却だ。手押しの田植機が数十万円、乗って運転する大きい機種はその数倍する。刈り取りと脱穀用のコンバインが同様の価格。運搬用の軽トラックが数十万円。細かいところで、草刈り機や鍬・鎌などの道具。10年で償却するとして、1年当たりざっと30万円程度と計算しよう。肥料・農薬などの消耗品が1ヘクタールあたり5万円では高いか。他に農業用水の維持管理負担、固定資産税、いろいろな経費が 要る。

そうすると、実質収入は5ヘクタールの耕作で、400万円、1ヶ月当たりの収入としては約35万円。これが憲法で保証される健康で文化的な生活を営む最低限度であろうというのが、Fさんの論拠である。3ヘクタールでは機器の償却は同じ、肥料等の経費は減るものの、年収も250万円程度に落ちる。他に収入がない限り生計は成り立たないだろう。貿易自由化で米の値段が下がれば、収入はもっと少なくなる。田起こし(耕起)、田植え、水やり、除草、稲刈りという野良仕事は、機械化された今では1ヘクタール当たり年10日に満たない。しかも、これらの作業は特定の期間に集中して行わなければならない。労働量に比べて、割のいい収入とは言えるが、他の仕事がなければ、あとは暇ということになる。

作業時期が集中するのは人間だけではない。田植機やコンバインは、他の作業に使いようがない。製造業では1年に10日程度しか使わない設備の導入などとんでもないが、農業ではこれが常識なのだ。」(朝日新聞(夕刊)2003/5/30経済気象台)

米作りの経済性について非常に優れた分析でしたので切り抜いておいたものですが、このことから簡単に次のように推論されます。南北の農地を株式会社にして、南北へ農機具を移動すればその稼働率は少なくとも数倍には上げられると考えられ、また人間の労働時間も平準化され、生産性は格段に上げられるはずです。おそらくこのことはみんな分かっていて、それが実行されると大勢の農業失業者が発生し、都会の子供のところへ転がり込むしかないという状況が見えているからではないでしょうか。現在の農地を守る人が殆ど絶えて、初めて農業の企業家が本格化するのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

ウエストフィールド

 

Re:日本の農業改革

ウエストフィールドさん、

ウエストフィールドさんも土地所有者が土地を直接投資する株式会社を作り、専門の経営者と労働者に任せる仕組みの必要性を考えておられたとのこと心強く思いました。政治家や官僚が「都会のサラリーマンも多くは農業地帯から流出した人びとでその出身地の基盤を弱体化する政策には抵抗すると想定している」かどうかはわかりません。しかし同じ農業地帯から流出した人間が郷里に残してきた中途はんぱな土地を有効利用する方法を考えているうちに製造業が成功した資本主義の原理に帰ればよいのではとフト思ったわかですから、抵抗する意志等ないと思います。都会にでてしまえば、個人的利害はもう都会側の立場ですので。最近どなたかが、新聞のコラムで農業の株式会社化を可能とする法制化は農水省の役人の抵抗で頓挫しているとの論評を読みました。農業の株式会社化をOKすれば、規制と補助金で支配してきた役人の権力が失われるので抵抗しているのだろうと、私は思います。

減反政策でしばり、利根川沿いのコスモス畑の種の補助金を出し?(コスモスはなぜか役人がすきなのです。コスモスあるところ役人ありです。コスモス種販売から利益を得ている天下り団体などさがせば見つかるかもしれませんよ。)そして国際世界の孤児になっているという構図でしょうか?

零細農家に小型で効率の悪い農業機械を売った三菱重工他などが一番得した集団でしょう。それと国家補助で土地改良事業で利益を得た中小土建会社ですか。全国に50万社あるとか。

今回の選挙には期待したのですが、残念ながら政権交代にはいたりませんでした。朝日の天声人語に安立スハルの「自動扉と思いてしづかに待つ我を押しのけし人が手もて開きつ」という歌は紹介されてましたが、まだ一部の人々は「国は自動扉」と錯覚しているのでしょうね。「手もて開くのが国」なのですが。特に北関東、北陸、四国、中国、南九州の人々は「国は自動扉」と思い込んでいるようです。

グリーンウッド

 

 

Re:日本の農業改革

グリーンウッドさん、

自民党が農業の株式会社化を可能とする法制化に反対するのは分かりますが、民主党がそれを改革するマニフェストを出さなかったのは農村部の民社党の候補者のためでしょうか。それでは2大政党の意味がありませんね。「農水省の役人の抵抗で頓挫」したのはその後ろに自民党がいたからではないでしょうか。役人だけの判断とは思えないのですが?そんなに農業関連の選挙民が多いのでしょうか。ちょっと農水省のHPを覗いてみました。

「平成15年農業構造動態調査(基本構造)結果概要」によれば

  農家数 農業就業人口
主業農家 448,000戸 1,210,000人
準主業農家 528,000戸 801,000人
副業的農家 1,673,000戸 1,229,000人
2,205,000戸 3,684,000人

農家以外の農業事業体のうち販売を目的とする事業体は7,930事業体で、前年に比べ110事業体(1.4%)増加している。このうち法人格を有する事業体は5,310事業体である。

農業サービス事業体のうち、水稲作に係わるサービスを行っている事業体は13,680事業体で、前年に比べ60事業体(0.4%)増加している。
水稲作サービス作業の内容をみると、全作業を請け負った事業体数は1,150事業体、その請負個数は16,000戸で、前年に比べそれぞれ200事業体(21.1%)、3,000戸(20.5%)増加している。

農業経営組織別に主副業別農家数割合をみると、単一経営のうち主業農家の割合が最も高いのは酪農で89.5%、次いで養豚が82.3%、養鶏が79.1%、施設野菜が70.9%の順となっている。
また、単一経営のうち副業的農家の割合が最も高いのは稲作で65.3%、次いで路地野菜が39.2%、果樹類が37.3%の順となっている。
単一経営とは主位部門の販売金額が8割以上の農家としている。単一経営の主業農家は17.7%、準主業農家は26.2%、副業的農家は56.0%であり、うち、稲作の主業農家は6.5%、準主業農家は28.1%、副業的農家は65.3%である。

販売金額規模別農家数割合(%) 100万円未満 100〜500 500〜1000 1000〜2000 2000万円以上
主業農家 10.0 35.4 25.8 17.4 11.4
準主業農家 57.2 38.7 2.5 0.4 0.1
副業的農家 79.0 19.5 1.2 0.2 0.1

主業農家とは農業所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上のものがいる農家準主業農家とは農外所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上のものがいる農家副業的農家とは65歳未満の農業従事60日以上のものがいる農家・・・」

以上のように農業就業人口は約370万人ですから有権者数9,940万人の3.7%にすぎないことになります。
農業に関連する流通、輸送、飼料/肥料、農機具などの就業者を2〜3倍と考えれば7.4〜11.1%となります。こんなに少ない人びとのために日本国民は多くの犠牲を強いられていながら、またそれを許容しているように思えます。もし、広い範囲で株式会社が認められれば退職金を叩いてでも起業する人が大勢いるのではないでしょうか。

水稲作サービス作業を行っている事業体は年率20%程度の伸びを示しているので、この分野で株式会社が認められれば爆発的に成長するのではないでしょうか。そうなれば農業の生産性は上がり、今よりは保護の程度を少なくできるのではと思います。

しかし、国土が傾斜地が多く、大きな田んぼが少ないことから、大農式の農業とは同等には勝負できないことは明らかなように思います。関税か何らかな直接的な援助が必要なのでしょう。国土の保全、農業技術の継承、最低自給率の維持、などなど名目 にはこと欠きません。

「平成15年産水稲の作付面積及び予想収穫量(10月15日)現況」によれば平成15年水稲作付面積(青刈り面積控除後)は166万haで、前年に比べて、23千ha(1%)減少した。

この面積を単純に農家数220万戸で割ると0.75ha/戸が得られる。前回ご紹介した記事から年収400万円程度が得られる5haの15%にすぎないことになる。

やはり農地を統合して経済規模とし、農地を南北に分散するなどして合理的な経営をし、生産性を上げることが結局は日本の利益にかなうのではないでしょうか。

ウエストフィールド

 

 

Re:日本の農業改革

ウエストフィールドさん、

全く反論なしです。

おっしゃるように役人の後に自民党がいるので株式会社化に反対しているとしても民主党が政策に掲げないのはなぜか?勉強不足なのか、知らないわけないと思うのですが。年金、税金、道路、経済の活性化、憲法に絞ったのかとも思うのですが、経済の活性化に大きく貢献するとおもうのですがね、不思議です。農業就業人口は約370万人ですから有権者数9,940万人の3.7%とのことですが、そんなものでしょう。農業のGNPに占める割合も同じようなものでこのくらいのものを関税で保護して相互経済協定を犠牲にする合理的な理由はないとおもうのです。食料の自給が生命線だという考えは戦時のもので、平時はどうでもいいのですよね。こんなこというとおたかさんが目をむくかもしれませんが、まさか戦争に備えているともおもえません。とういか役所が戦時の食料難がまだ忘れられないというのが真相かもしれません。ズーット慣例にしたがって粛々と居眠りしながら、頭は凍結したままやってきた連中ですから。縦割り行政の利害を調整する首相がだらしないというのが真相ではないでしょうか。野党の影の首相に期待するところ大ですが。

稼働率が低い農業機械の稼働率向上のために南から北に移動するというのもいい案です。私の子供の頃、農耕馬が山で代かきしてから里に下ったのも同じし、早乙女が農家を渡り歩いたのも同じ稼働率向上の工夫ですよね。田植え機が入ってからは、持ってない農家は持っている農家に頼んでいました。双方にとってメリットがあるからうまく廻っていたようです。

サトウキビからの砂糖がトウモロコシからの液糖に価格競争で負けたのも精糖工場をキビの収穫期しか稼動させることができなかったためと私はみました。

グリーンウッド

 

 

Re:日本の農業改革

グリーンウッドさん、

農水省の「食料・農業・農村白書 平成13年度[PDF]」を見ていたら次のようなことが書いてありました。

「第二章 構造改革を通じた農業の持続的な発展
第1節 我が国農業の生産構造の現状と改革
(1) 我が国農業の構造改革の推進
(2) 効率的かつ安定的な農業経営の育成・確保

農業経営の法人化の推進:法人化は規模拡大や多角化等経営の改善・発展に有効。株式会社形態の選択を可能とする新たな農業生産法人制の実施状況を検証しつつ法人化を推進。

大規模経営ー効率的かつ安定的な経営体の一例として地域農業を支える多様な担い手 

第3セクター:オペレーターを担い手として育成する機能や地域活性化に資する事業展開にも期待。経営の赤字構造に悩む例も多く、その設立・運営にあたっては地域の理解を十分に得ていくことが重要。

集落営農:効率的土地利用等の実現に資する手法であるが、一体的な経営を行うものは少なく、組織としての継続性の確保が重要。経営を確立していく上で、農業法人の設立を進めることも重要 」

このように農業経営の法人化は進めていることになっていますし、その効用も充分に認識しているように思います。前回ご紹介した調査の概要でも「水稲作の請け負わせ都府県で水稲作作業を請け負わせた販売農家数は123万4千戸で、前年並みとなっている。これを作業別農家数でみると、「全作業請け負わせ」が11万3千戸、「乾燥・調整」が84万5千戸、「稲刈り・脱穀」が50万8千戸、「育苗」が40万4千戸等となっている。」とあり、水稲作の外注化が思ったより進んでいるが、2国間FTAに対応できる体制にはほど遠いかなという印象です。

ウエストフィールド

 

 

Re:日本の農業改革

ウエストフィールドさん、

しっかり調査してもらってありがとうございました。農村白書に農業経営の法人化の推進が書かれていたとのこと多少安心しました。役人は一応考えてはいることがわかりました。しかし政府が法制化しない理由はどういうものでしょうか?白書はどちからというと役所でも理論家が書いたものでよう。それがどこでストップしたのなのか知りたいですね。

グリーンウッド

 

 

Re:日本の農業改革

グリーンウッドさん、

本当にそのギャップが何故なのか、本当の理由を知りたいですね。農地の所有まで認めた法人化を許すと、弱いものイジメの印象があり、社会心理的に踏み切れないのでしょうか?なにせ、日本人は情緒的で判官贔屓(ほうがんびいき)ですから、一歩間違うと党の命取りになりかねないと、民主党もマニフェストに載せられなかったのではないかと思い至りました。

ウエストフィールド

 

 

Re:日本の農業改革

グリーンウッドさん、

晴耕雨読のところが、私が考えていたところと食い違っています。

「田舎に帰って云々」は、退職後の生活のことではなく、一般的な転職対策として考えていました。サラリーマンとして、田舎に帰って、就職するという意味です。特にキーをたたくのは性に合わないという人を対象に考えていました。人口の半分が高等教育を受けるというのは、どう考えても健全とはいえないと思います。「学閥エスカレータ、あるいは終身雇用制の伝説」に取り付かれて、適性も考えずに、とにかく大学をでてホワイトカラーになった、あるいはなろうとしている人の転職先としてです。ただし、余計なおせっかいかもしれませんね。もちろんその前提は、少なくとも平地に健全な農業株式会社があるということです。

前に紹介した、上田篤著「都市と日本人」の中に、次の一説があります。

「ところが西欧の都市では、まだ一般に職業選択が自由でない。鍛冶屋の子は鍛冶屋といわないまでも、労働者の子は労働者ということが多い。社会の階層移動が日本ほど自由ではない。その結果、西欧の都市では、多く上流、中流、下流、さらにはそれぞれの再分割空間というふうに住宅地も細分されている。職業選択のが自由でなく、居住地選択も自由ではないのである 」

それに比べて、わが国で職業選択の自由があるというのはすばらしいことだと思いますが、ドイツのようなマイスター制度(ただし、これはよく知りません、学生時代に大学の研究室の先生から聞いた話の受け売りです)などの「職能の社会的地位」が確立されていないのは問題だと思います。たとえば、社会通念として、理工系は法科系の下位に位置づけられていませんか?画一的あるいは悪平等的な「士農工商をひきずる、なんとなく階級社会」でなく、美しいモザイク的平等社会になるような職能上バランスのある社会を考えるとき、農業にはもっと働き盛りの人材を送り込む必要があると思います。

高地での農業は、それ自体経済的な成り立たないのは、分かっていますが、農業株式会社の法人税を環境保全と観光業育成のための補助金に回す、さらに消費者のボランティア活動に期待するというようなことを漠然と考えていました。経済バランスの計算はしていませんので、単なるアイディアですが。

パイントリー


本「日本の農業改革 」という議論をしてから3年経過した2006/11/27の朝日に2007年4月から施行される農政改革関係3法案に関する記事「戦後最大の農政改革」が掲載された。これを契機として再びにしのさんと「続日本の農業改革」という意見の交換をした。

November 15, 2003

Rev. October 30, 2007


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