間伐材ガス化エンジン

グリーンウッド

 

高校の同期生、西沢重篤氏の誘いで氏が幹事を勤めている、「一歩前の会」に参加してリサイクル勉強を楽しんでいたが、一つ協力してほしいことがあるという。昔なつかしい木炭自動車を試作したいNPOがあるので手伝ってほしいというのである。子供の頃、ガス化炉を背中にしょったバスの運転手が薪をガス化炉に放り込んでいるのを見た記憶がある。無論、石油を絶たれていた戦時下の日本がやむを得ず開発した技術である。ガソリンのようのように馬力は出ず、利便性は低いが、日本の森の木が自然に枯死してただ朽ちさせてゆくよりは少しでも間伐して自動車燃料に使えば、多少なりとも地球環境問題に貢献できる。このようなやりかたもあるのだということを次世代に伝えるのも社会貢献と一つ返事で引き受けた。

やがてNPO、「えがお・つなげて」の大寺さんが平成14年度に「森林教育グリーンツーリズム」ジャンルで「間伐材で木炭自動車やインディアンテントをみなで作ろう」というテーマで緑の募金公募事業に応募した時の申請書のコピーをファックスしてきた。東大名誉教授の木村尚三郎氏が理事長を勤める(社)国土緑化推進機構が緑の募金公募事業を展開していて、ここに申請したようである。先日一歩前の会でお話を聞いた吉田昭彦氏が発案者らしい。緑の募金公募の総額は25億円である。循環型社会という概念のプロセスを実際に体験してもらい、その理念への親近感とリアリティーを人々に実感してもらおうという主旨である。申請書では実施期間が平成15年5月までとなっていたが、この案が採択されたかどうかは知らない。いずれにせよ木炭自動車が小型バイオマスエンジンに変わり、30万円の予算が確保してあるという。期間は平成15年7月だという。すこしあわただしいし、この間、私的なプロジェクトもあるが、空いている時間なら手伝えると協力をOKした。

2003年3月13日に弁慶果樹園の多目的集会場で開催された「循環型田園都市」の講演が行なわれた「えがお交流会」後、今後の進め方を話しあおうということで出かけた。講演終わってから本プロジェクトを30万円の予算枠内でどう実現しようかという打ち合わせをした。当事者はNPO常務理事の有馬義雄氏、弁慶のオーナー冨田立郎氏、それにグリーンウッド氏の3名である。

当日とその後、インターネット経由で検討した項目は:

1.原料は?

既に木炭自動車は岩国市麻里布町の麻里布モーターの藤村氏が何台も復元されている。難点は木炭のコストがガソリンの2倍であること。

木質バイオマスガス発電機は斐伊川流域林業活性化センターが2002年3月試作し、島根県中山間地域バイオマス活用検討会でお披露目している。松の木屑3キロで30分間、400ワットの電灯を点灯させたとのこと。

結局、原料は薪または木材チップを使うことにする。薪の場合は10 cm以下に切る。

2.それで何するの?

兎に角、エンジンを回す、対象としては冨田氏手持ちの

◆1940年代の灯油燃料、単気筒、長ストローク、低回転数のビンテージ農業作業用汎用エンジン

◆最新式ポータブル、小型ガソリンエンジン発電機(斐伊川流域林業活性化センターはこのケース)

◆廃車とした小型トラック(公道は走れないが、ガス化ユニットを荷台に設置して、会場内を走り回れる)

のいずれかとする。

3.ガス化炉の形式は?

黒板にガス化炉の構造図、プロセスのフローシートなどと描きながら、富田氏の手持ち機材で作れそうな装置を描きながら討議した。富田氏は今では広大な遠藤の土地で家業の農業を相続し、観光農業という内藤幹氏が理論付けした路線で成功している人だが若い時は大学で機械工学を学んだ。装置を作ることにかけては素人離れしている。問題は本業の観光農業経営に忙しく時間がさけないこと。グリーンウッド氏は応用化学出身でエンジニアリング企業にいたので話は早い。

送風機無しでガス化するためには上向き流れにしてドラフトを利用にすればよいが、乾留ガスやタールが発生し、ガスの後処理が難しくなる。そこで手回し送風機を使い、下向きガス化とする。なお斐伊川流域林業活性化センターのガス化炉は写真を見るかぎり上向き流れのガス化炉のようで送風機が見えない。

ガス化炉は鋼鉄製パイプの残材を利用して自作できる程度の簡単な構造にする。1,000度以下なら鋼鉄製でも実験用の使用には耐えるだろう。原料が燃えて発生した炭酸ガスが均一に高熱の炭に触れるようにガス流れを絞るため、円錐形の絞り構造物を火格子の上に直接設置する。絞り構造物は粘土などで作り、放熱による温度低下も同時に防止する。

斐伊川流域林業活性化センターの炉は直径30センチ長さ90センチのガス化炉2本で費用は30万円で収まっているようだ。

4.エンジンのキャブレターをどうする?

手持ちのエンジンのキャブレータにはあまり手を加えたくないのと振動するエンジンにガス供給するためにはフレキシブルホースで連結する必要があるかもしれない。エンジンの吸入効率を上げるためにもガス温度は低い方がのぞましい。このように考えて発生ガスを水との直接接触によって十分冷やす検討をしたが、水蒸気が混入して燃焼困難になる恐れがある。車載にも向かない。結局、空冷を採用することにした。冷却したガスは適当なフィルターで粉塵、タール、凝縮水を除去してエンジンに送る。

5.どのように運転するの?

ガス化炉の火格子の上に、着火済みの炭を置き、その上に薪または木材チップを充填し、上部フタをワンタッチアクションで閉めるハッチとする。手回し送風機を早く回せば薪または木材チップが燃焼し、盛んに炭酸ガスを発生するであろう。これは安全な高さのベントパイプから大気放出し、黒煙も無くなり安定したところで手回し送風機の回転を落とせば、酸素不足となり、一酸化炭素と水素の可燃ガス成分を含んだガスがでてくるだろう。点火試験用パイロットバーナーに火が付くようになったら、ガスと空気を混合して、エンジンを始動する。エンジンが必要とするガス量とガス化炉の最適運転条件は一致しないため、実験目的としては若干大きめのガス化炉をつくり、余剰ガスは少なくとも安定化するまでは放散し続けることにした。最終的には、放散ガスも止めてエンジン吸気だけでガス化炉の安定運転範囲ができるかを確かめるものとする。運転停止は送風を止め、一晩ほうっておけばよい。酸欠で自然消火する。残った炭は着火用に再利用できる。

という案ができた。

2003年3月25日に冨田立郎氏から戦争中、木炭自動車を運転したことがある岡崎周(ひとし)氏に会えるから同行してくれとの連絡がはいる。茅ヶ崎のお宅に伺うと、氏の祖父、岡崎久次郎氏は蒲田区東六郷で大日本機械工業を創業し、第二次大戦中は軍の依頼に応じ、マキ自動車を製造販売していたとのこと。自家用のトラック1台をマキで運転していたことがるという。願ってもない出会いとなった。岡崎周氏は現在は全国街並み保存連盟の副会長をされ、神奈川県が持っていた茅ヶ崎の北に広がる柳谷戸(やなぎやと)に運動公園を建設することを聞き及び現在の茅ヶ崎里山公園に変更するよう県に働きかけ、説得に成功され、県から表彰を受けられたとお聞きした。

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大日本機械工業製マキ自動車1940年モデル 岡崎周氏提供

氏が捨てないで持っておられた薪自動車の機構と運転方を説明した13ページの文書や販売促進用のパンフレットなど資料一式を見せてもらった。競争会社とも箱根の山を登るコンペをやり、そのガス化炉の優秀性で日本最大のマキガス化炉メーカーとなったという。この資料を見せてもらって我々3名が構想したものがほぼ間違ってはいないとの確信を得た。しかし下記4点は改良したほうが良いと思われた。

(1)ガス化炉の火格子は炭酸ガスが均一に高熱の炭に触れるようにガス流れを絞るためのスロートの直下ではなく、少し離して設置し、この隙間からガスは反転して上昇するようにする。すなわち薪の炭化反応はできるだけこのスロート内で行い、出来た炭を火格子の上に落下させ、灰は火格子の下に落としてガスと炭の接触がしやすいようにする。ガスが反転上昇する上向き流れのなかで灰塵などを重力沈下させる。円錐状絞りバッフルは昔は鋳物で作ったようである。素人でも作れる逆ピラミッド形の溶接構造にするかどうするかはこれから検討する。ガス化炉の中に挿入するだけでは周辺の隙間から空気が内部リークし、可燃ガス発生量が減る。溶接箇所が増えるが炉を2つに切ってフランジ止めにするのが妥当であろう。炉の支持もここで行なえる。

(2)スタートアップ用および余剰ガスの大気放散点は冷却器の汚れを防止するため冷却後ではなく、冷却前に移したほうが良い。(最終段階で有毒ガス漏洩防止に全系負圧運転することに変更し、スタートアップ用吸入ブロワーはエンジン直前に設置することにした)

(3)エンジン搭載のキャブレターはガム類がガソリンノズルなどを閉塞して修復不能にするのでこれを取り外し、別途、空気チョーク弁(バタフライ弁)経由で取り入れた空気とガスを混合したのち、スロットル弁(バタフライ弁)経由エンジン吸気ポートに連結すべきである。エンジン始動はこの吸気ポートにガソリンを直接点滴すれば可能である。

(4)ガスろ過機は汚れが激しいので、市販のカートリッジフィルターはもったいない。交換できるバーべキュー用の豆炭と使い捨ての多孔質の充填物の組み合わせが適当である。汚れた豆炭は豆炭として燃焼利用する。運転開始時とか低負荷運転時にガスが水蒸気の露点以下となって生じる凝縮水は水封式のドレンから自動的に抜けるようにする。

これを織り込んだガス化工程図は下記のようになる。それにしても捨てるゴミから資料一式を回収保管しておいて、無償で使わせてくれた岡崎さんに感謝。そのままなら忘却の彼方に流される技術の伝承に多少なりともお役にたてたかもしれない。われわれが実物を作れるかどうかはまだ不明だが、少なくとも記録しておこう。それにしても多孔質の充填物としてヘチマを使っていたとは。箱根の山はガスだけでは登れず、ガソリンを点滴しながら登ったとか戦後、米軍兵士が感激して乗りまわしたという逸話もお聞きできた。

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何回も書き直したガス化炉内部構造とガス化工程図

以上の構想のもとに、ガス化炉内部の物質・エネルギー収支を計算し、各部の温度、流量、寸法と流速を計算し、冷却器の寸法、ガスの露点、ガス成分予想、装置の主要寸法を決める手順となる。また可能エンジン出力などを概略試算する。結果は追って報告する。

March 31, 2003

Rev. April 27, 2004


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