平成26年12月12日更新
平成26年4月に発表された日本高血圧学会 の高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)を参考に 記載いたします。
  2014年11月 日本高血圧学会、ささえあい医療人権センタ−COML、日本高血圧協会 による 一般向けの高血圧治療ガイドライン
 「高血圧の話」が出版されました。患者さんにとって非常に参考になる16ペ−ジの小冊です。
    
http://www.jpnsh.jp/general_panf.html

 高血圧はもっとも患者数の多い成人病です。
 2010年国民健康・栄養調査によると、30歳以上の日本人男性の60%、女性の45%が高血圧(収縮期血圧140以上または拡張期血圧90以上または降圧薬服用中)ということです。本邦における2010年の高血圧有病者数は約4300万人(男性2300万人 女性2000万人)と計算されています。
 高血圧を放置しておくと全身の動脈硬化を促進させ、特に脳血管や心臓、腎臓などに障害を発生させる引き金となります。現在、脳血管疾患と心臓病はわが国の死亡原因の2位、3位を占めています。


血圧
心臓から送り出された血液が、血管内で血管の壁を押す力単位は水銀柱の高さ(mmHg)

  1:収縮期血圧・・心臓が収縮して血液が送り出されているときの最も高い血圧(最高血圧)

  2:拡張期血圧・・心臓に血液が戻ってきているときの最も低い血圧(最低血圧)

高血圧とは:
 収縮期血圧が140以上、または拡張期血圧90以上を高血圧としています。

住民の調査(久山町研究)や生命保険の調査で心臓血管系の病気の発症率や死亡率が140以上、90以上で一段と増加しています。

血圧の分類(日本高血圧学会ガイドラインJSH2014):

血圧の分類は下記のようになりますが、治療にはリスクの層別化を考えて対処する必要があります。

                  
分類 収縮期血圧 拡張期血圧
至適血圧 <120 かつ <80
正常血圧 <130 かつ 80〜84
正常高値血圧 130〜139 または 85〜89
T度高血圧 140〜159 または 90〜99
U度高血圧 160〜179 または 100〜109
V度高血圧 ≧180 または ≧110
収縮期高血圧 ≧140 かつ <90
家庭血圧計での高血圧 135/85以上
24時間自由行動下血圧での高血圧* 24時間130/80以上
昼間135/85以上
夜間120/70以上
収縮期血圧と拡張期血圧が異なる分類に属する場合は、高いほうの分類に組み入れる。
*:24時間自由行動下に血圧を測定(ABPM9する血圧計で測定。小院もあります。
心臓病3大危険因子
高血圧患者のリスクの層別化:
 
1度高血圧 2度高血圧 3度高血圧
140-159/90-99 160-179/100-109 ≧180/≧110
リスク第一層(予後危険因子がない) 低リスク 中等リスク 高リスク
リスク第二層(糖尿病以外の1-2個の危険因子、メタボリックシンドロ−ム*がある) 中等リスク 高リスク 高リスク
リスク第三層(糖尿病,CKD、臓器障害/心血管病、3個以上の危険因子のいづれかがある) 高リスク 高リスク 高リスク
*リスク第二層のメタボリックシンドロ−ムは予防的な観点から以下のように定義する。正常高値以上の血圧レベルと腹部肥満(男性85cm以上、女性90cm以上)に加え、血糖値異常(空腹時血糖110-125mg/dl、かつ/または糖尿病に至らない耐糖能異常)、あるいは脂質代謝異常のどちらかを有するもの。両者を有する場合はリスク第三層とする。他の危険因子がなく腹部肥満と脂質代謝異常があれば血圧レベル以外の危険因子は2個であり、メタボリックシンドロ−ムとあわせて危険因子3個とは数えない。

高血圧管理計画のためのリスク層別化に用いる予後影響因子
 A:心血管病の危険因子
  高齢(65歳以上)、喫煙、血圧(収縮期血圧レベル、拡張期血圧レベル)、
   肥満(BMI≧25)(特に腹部肥満)
 
 脂質代謝異常
     
高LDLコレステロ−ル血症(≧140mg/dl) 低HDLコレステロ−ル血症(<40mg/dl)、高中性脂肪血症(≧150mg/dl)
  メタボリックシンドロ−ム
  若年(50歳未満)発症の心血管病の家族暦
  
糖尿病
    
空腹時血糖≧126mg/dl あるいは 負荷後血糖 2時間値≧200mg/dl
 
  B:臓器障害/心血管病:
心臓 左室肥大、狭心症・心筋梗塞・冠動脈再建、心不全
脳出血・脳梗塞、無症候性脳血管障害、一過性脳虚血発作
腎臓 蛋白尿、慢性腎臓病(CKD)・確立された腎疾患(糖尿病性腎症・腎不全など)
血管 動脈硬化性プラ−グ、頚動脈内膜・中膜壁厚>1.9mm、大血管疾患、閉塞性動脈疾患
眼底 高血圧性網膜症
CKD CKDとは:蛋白尿などの腎臓の障害、もしくは糸球体濾過量(eGFR)60ml/分/1.73u未満の腎臓機能低下が3か月以上持続するもの
降圧目標  2014年版では2009年版の降圧目標値よりも一部、高く設定されました。
診察室血圧 家庭血圧
若年者・中年者前期高齢者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満
後期高齢者 150/90mmHg未満
忍容性があれば140/90未満
145/85mmHg未満
忍容性があれば135/85未満
糖尿病患者 130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
CKD患者(蛋白尿陽性)  130/80mmHg未満   125/75mmHg未満
脳血管障害患者冠動脈疾患患者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満
初診時の高血圧の管理計画   JSH2014高血圧治療ガイドラインによる
                 
高血圧の分類:
1:本態性高血圧
 はっきりした原因のわからない高血圧で、日本人の90%の高血圧は本態性高血圧です。遺伝因子と環境因子が複雑に絡み合っており、一卵性双生児の研究から遺伝因子60%、環境因子40%とも言われています。環境因子としては食塩、アルコ−ル、肥満、運動不足などがあげられています。これらの生活習慣の改善により高血圧のコントロ−ルを図ることが必要です。

2:二次性高血圧
  腎臓の異常、心臓や血管の異常、内分泌系の異常などが原因。その原因を治療することにより血圧も正常化します。

高血圧の治療により合併症の予防
 脳、心臓、腎臓、血管疾患を予防することがもっとも大切です。すでにこれらを有する場合でも進行を抑える必要があります。
 それには生活習慣の改善に加えて必要に応じて降圧剤による治療を行い血圧を適性にコントロ−ルすることが大切です。

  
1:脳卒中の予防 2:虚血性心疾患,心不全の予防 3:腎不全の予防 
  4:閉塞性動脈硬化症、大動脈瘤の予防


血圧は1日のうちでも変動しています:

 血圧は1日の内でも自律神経の影響でリズムをもって変動しています。一般に睡眠中は低下します。また仕事、歩行、食事、入浴、排尿、排便、緊張などでも血圧は変動します。通常は血圧は正常なのに、白衣を着た医師、看護師に血圧測定をしてもらうと高血圧を
示すことがあります(白衣高血圧といいます)。一般には血圧は明け方から午前8時頃にかけて上昇します(早朝ジョギングの危険性)。この差の大きいものをモ−ニングサ−ジといいます(朝の収縮期血圧と夜の一番低い収縮期血圧の差が55mmHg以上)。モ−ニングサ−ジの人では脳卒中の危険性が3倍高いといわれています。
 最近では24時間携帯の血圧計があり、随時血圧だけではわからない事がいろいろと分かってきました。
睡眠中に血圧が下がる人をDIPPER、下がらない人をNON-DIPPERといいます。

家庭血圧について:小院では大日本住友製薬から頂いた家庭血圧記録ノ−トを患者様にお渡たし測定しただいています。
 1:どんな血圧計が良いか・・上腕に巻いて測定するもの。手首、指先は駄目。
   少し価格が高くなりますが、上腕をド−ムに突っ込んではかる血圧計もあります(身長の低い方には少しむつかしいと思い   ます。)

 
 2:いつ測定するか ・・日本高血圧学会の家庭血圧の指針は次のように記載されています。
  
  イ:家庭血圧は朝の場合は、起床後1時間以内、排尿後、服薬前、座位1-2分安静後。夕の場合は就床前の坐位1-2分安静後   に測定する。しかし、簡単には 、朝起きたとき、夜、床について寝るとき で結構です(これは私見です)。 
   1機会1回以上(1〜3回) すべての測定値を記録してください。
   朝起きたとき、夜寝るときに 測定していただくのが一番わかりやすいかと思っています。
   折れ線グラフ用のドットは2回目と3回目の平均値を採用してください。
 
  ロ:朝晩のある期間にわたる平均値と標準偏差によって評価する。
  
  
註:小院では、1日血圧計をつけて戴き、1日中の血圧を測定する装置を用意しております。

 3:測定環境:
  イ:静かで適当な室温の環境、特に冬季に注意
  ロ:背もたれ月の椅子に足を組まず座って(あるいは胡坐、正座で)1〜2分の安静後
  ハ:会話を交わさない環境
  ニ:測定前に喫煙、飲酒、カフェインの摂取を行わない
  ホ:カフ(ゴム袋の入った布の袋)の位置を心臓の高さに維持できる環境
  ヘ:薄地の着衣の上にカフをまいてもよい。

 3:家庭血圧は135/85mmHg以上ならば、治療の対象とする。125/75mmHg未満を正常血圧とする。
 
  4:正常値・・ 朝の家庭血圧が 135/85 以上 を高血圧とします。(JSH2014。)。
 
  次の書籍を参考にいたしました。
      
     家庭血圧測定の指針 第2版 編集 日本高血圧学会家庭血圧部会 2011年2月ライフサイエンス出版 

高血圧の一般療法:生活習慣の改善 が 大切。その複合的な修正は より効果的です 
@:日常生活での注意:
 
@規則正しい生活を送り、休息や睡眠を十分にとりましょう。
  A寒さに気を付けましょう。浴室や脱衣場をあらかじめ暖めておきましょう。
  B便通に気を付けましょう。排便のいきみは血圧を上げます。
A:タバコは止めましょう。
B:入浴:
  
比較的ぬるめの温度の風呂にゆっくりと(40〜41度)。腹までつかるだけで充分温まりますので、首までつかると心臓に負担がかかり     ます。また、ゆっくりとあがりましょう。
C運動をしましょう:
  毎日30〜45分くらいの早歩きが良い。歩行、ランニング、水泳などの有酸素運動が望ましい。運動の強さでは強い目よりも軽い目のほう  が良い。運動療法の前には心臓血管病や腎臓病の有無を調べる必要があります(メディカルチェック)
    もう少し → →   運動療法へ。

D:性生活:
  高血圧ゆえの問題はありません。

高血圧の食事療法


@食塩の制限:
1日6グラム以下が理想。現在の日本人の食塩摂取量は11.4グラム。JSH2000では7g以下でしたが6g以下に下げられました。 → →塩分の工夫へ。
 
加工食品、インスタント食品の使用や、外食の際には塩分に十分気をつけましょう。

A適正体重の維持:肥満を治す


  BMI(体重[kg]÷[身長〔m〕]2 が 25を超えないように。
 
 
肥満体で高血圧の人は、カロリ−の摂取量を制限し、また運動も適当に行い、肥満を解消しましょう
         → →    糖尿病の食事療法へ。 有酸素運動を毎日30分以上を目標に定期的に行う。

Bアルコ−ルの
制限:酒はほどほどに。
 過度の飲酒は血圧を上げ、逆に少量のアルコ−ルは血管を拡張し、血圧を下げ善玉のコレステロ−ルのHDLコレステロ−ルを上げます。男性では飲酒は脳卒中の危険因子と考えられます。アメリカ人に較べ日本人ではアルコ−ルによる血圧の上昇が大きいといわれています。
 エタノ−ル換算で20〜30g/日(日本酒1合前後、ビ−ル中瓶1本、ウイスキ−60cc)までに。連日は避けましょう。

C脂肪の制限:
 
高脂血症は虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)の主要な危険因子のひとつです。従って高血圧の患者さんは高脂血症の合併を防ぐ必要があり、コレステロ−ルや飽和脂肪酸(コレステロ−ルを上昇)の摂取を控えることが望ましいのです。ただ脂肪制限のみで血圧が下がるかは不明です。
 野菜・果物の積極的な摂取。

Dカリウムを十分に:
 
カリウムは古くから降圧効果が指摘されており、食塩摂取の多い現代社会ではカリウムの適切な摂取が望まれます。野菜、果物、豆、いも類に多く含まれています。カルシウムやマグネシウムについては、決まった説がありません。
E健康食品について:
 
健康食品の真偽については このWEBサイトをご覧ください
 
巷間、血圧効果を唄う健康食品が出回っていますが、その効果は弱く、過大評価することなく医師との相談で補助的に使用されるのが良いかと思われます。しかし、自然の食品から摂取することがベストと考えます。      
   

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