問題79(環境)の答え・・・ 「1ポンド(454グラム)の牛肉を作るためには、(c. 16)ポンドの穀物が必要になる」(同書52、157ページ)そうです。

同書52ページにはさらに、次のように指摘されています(意味を変えない範囲で一部訂正しました)。

「人間にとって、1日に必要な最低量の穀物が半ポンドだとすると、1ポンドの牛肉を生産する穀物を、人が食べれば32人分の食料をまかなえることになる。/人類の人口は増え続けている。我々は、基本的な二者択一を迫られることになる。我々のコーン(とうもろこし)や小麦、大麦、カラス麦、大豆を、動物に与え続けるのか? あるいは、穀物を直接食べる道を選ぶのか? 人類が食べる分の穀物なら十分にある。/牛に穀物をエサで食べさせると、穀物に含まれるタンパク質の90%、炭水化物の99%、食物繊維の100%が"剥奪"される。/考えてみてほしい。1エーカー〔4000平方メートル〕の肥えた土地は4万ポンドのジャガイモを生産できる。ニンジンなら3万ポンド、トマトなら5万ポンドだ。なのに牛肉だと、250ポンドしか生産できない。肉を生産すること自体が、いかに非効率かがわかるだろう。/あなたは、我々〔引用者追記:アメリカ〕の過剰農産物が、食糧のとぼしい国々に送られていると思っているだろう。ところが、そうではない。我々の農産物輸出の3分の2は、海外の家畜に食べさせるためれに送られている。我々は、世界中の畜産業者のために、動物に脂肪を付けてやっているわけである。そして肝心の人間は、空腹のまま(さらには餓死するまま)、放りっぱなしにされている。」

さらに同書によれば、アメリカの農地の85%が家畜の飼料の生産に使われているそうです(155ページ)。食肉産業はこのように、膨大な食糧を無駄にしているだけでなく、広範な環境破壊を引き起こし、地球の砂漠化の最大の原因となっているようです。以下では、食肉産業がいかに深刻な環境問題を引き起こしているかについてご説明します。

食肉産業が引き起こしている環境問題

(1)森林破壊から、土壌の流出、最終的には砂漠化

牛を飼料で飼うのに問題があるのなら、放牧はどうかというと、これはさらに深刻な影響をもたらすようです。アメリカ産の牛肉のうち、放牧によって育てられているのは3%にすぎないにもかかわらず、極めて深刻な影響をもたらしているようです。『まだ、肉を食べているのですか』によれば、「平均的な雄の子牛は、成長するまでに6トンもの牧草を食う。牧草地には、牛が食べない草や種もある。ところが、これらも巨大な牛のひづめに踏みつぶされて死んでしまう。こうして、数え切れない種類の草や植物が過放牧によって死滅した」(176ページ)、「放牧に使われている公有地は、きわめて無惨に破壊された姿を見せることになる。そこに自生してきた草花や野生生物が家畜に食い尽くされてしまうのだ。それは広大な地域での洪水や、表土流亡や、水質汚染の引き金となる」(170ページ)、そうです。

問題30(食文化)の答えでご紹介した『地球環境報告II』の著者である石弘之氏は、『世界の森林破壊を追う』(朝日選書725)で「森林破壊の最大の原因が、数千年来連綿とつづいてきた農業や畜産のための森林伐開〔伐木、除根のこと〕にあることは異論がない」(251ページ)と書かれています。例えば、『まだ、肉を・・・』によれば、「約8000年前、サハラ砂漠は豊かな緑の樹々に覆われていた。遊牧民の部族たちは、その木々を燃やし、家畜を養うために放牧地帯を広げた」その結果、この一帯が広大な砂漠となったようです(188ページ)。

『世界の森林破壊を追う』に引用されている、国連食糧農業機関(FAO)が2001年にまとめた『世界森林資源評価』によれば、「この10年間で少なくとも全森林の4.2%に相当する1億6,100万ヘクタール(日本の国土面積の4倍)の天然林が失われた」そうです。国別にみて、天然林の消失面積が最大なのは、大規模な森林焼却がアマゾンで行われているブラジルで、10年間で2,310万ヘクタールと本州の面積をやや上回る面積の森林が失われました。この消失面積は、2位の中国の1,810万ヘクタールを大きく引き離しています。アマゾンでの森林破壊について、『まだ、肉を・・・』には次のように指摘されています(190―191ページ)。

「アマゾンの森林消失の約70%は、実は牛の放牧が原因なのだ。・・・・熱帯雨林の表土は、恐ろしいくらいに栄養分は貧しく脆弱だ〔消失しやすい〕。表土に含まれる基本的ミネラル分は、2―3年という短い間、牧草を生産しただけで枯渇する(熱帯雨林での放牧は森の自殺行為だ)。こうして生い茂るジャングルが破壊され砂漠になるのに時間はいらない」

米国での表土の流失についても、つぎのような記述があります(186―187ページ)。

「表土は、農民が所有するもののなかでも、最も貴重な存在だ。自然界では、どこでも、1インチ〔2.54cm〕の表土を生成するのに、少なくとも100年から800年の年月がかかる。/アメリカ合衆国の建国以来、大自然は、我々に最大で2インチ以上の表土を与えてくれた。しかし、我々は化学農業を行い、国中の土地の本質的な支配権を牛に譲り渡してしまった。こうして、我々は6インチの表土を失った。我々は、かけがえのない資源を浪費している」

レイチェル・カーソン女史も有名な『沈黙の春』(初版発行は1962年)につぎのように書いているそうです(『まだ、肉を・・・』の187ページ)。

「薄い土壌の層が、大陸をパッチワークのように覆っています。この覆いこそが、我々人類や地上のほかのすべての生物の存在をコントロールしているのです。/土壌がなければ、私たちがよく知る地上植物たちも成長できません。植物が存在しなければ、あらゆる動物も存在できないのです」

アメリカ西部でも、過放牧が行われるようになってから1世紀内外経った現在、土地は砂漠化しつつあり、すでにその土地の約10%は生命が存在できなほどに悪化しているそうです。何世紀という長い視点でみると、我々アメリカ人は、もう一つの"サハラ砂漠"をつくろうとしているのだと、元農場主/カウボーイで、現在はベジタリアン運動のリーダーとなった、『まだ、肉・・・』の著者であるハワード・ライマン氏は指摘しています(188ページ)。

(2)エネルギーの浪費と二酸化炭素の排出

飼料用穀物の生産のために、トラクターを走らせる燃料、作物の種をまく軽飛行機に給油するガソリン、それらを収穫するコンバインの燃料などを合計すると、穀物飼料で1ポンドの牛肉を作るのに1ガロン〔3.785リットル〕のガソリンを必要とするそうです。そのため、アメリカの平均的4人家族が1年間に食べる牛肉をまかなうためには、260ガロン(984リットル) 以上の化石燃料が必要で、この燃料が燃やされると、2.5トンもの二酸化炭素が大気中にはき出される。――その二酸化炭素の量は、1台の乗用車の6カ月間の排出量に匹敵する。

このほか、畜舎の温度調節、飼料の搬入、ふん便の搬出、飼料の運搬、牛を屠畜業者に運送し、牛肉をパックに詰め、冷凍するためのエネルギーが上乗せになるそうです。

(3)排泄物の処理

かつては主流だった伝統的な有機酪農家の場合、家畜のふんは土に戻され、自然の摂理に従って土壌は肥えていったようです。ところが「近代的」な畜産経営の場合には、畜舎のコンクリートの床から排泄物を排出する仕事が加わることになります。牛は1頭当たり毎日50ポンド(約23キログラム)の牛ふんを排せつするそうです。米国で飼育されている牛は約1億頭(全世界では13億頭で、人類5人で1頭の割合)であるため、米国内で1日当たりに排出される牛ふんの総量は23億キログラム(つまり230万トン)となり、「アメリカ全土で言えば、家畜全体の排せつ物の総量は、アメリカ国民全体の排せつ物の量の130倍に達する」そうです(163ページ)。

「アメリカでは、動物の排せつ物が水質を汚染する割合は、人間によるものの約10倍と試算されている。さらに頭の痛いことに、毎年数千頭もの牛の死骸が流れに取り残され、腐敗している」とのことです(163ページ)。

(4)強い温暖化効果を持つメタンガスの主要発生源が牛などの反すう動物のゲップ

牛は毎日1頭当たりゲップ(やおそらくおならなど)として400クオート(376リットル)のメタンガスを排せつしているそうです(160ページ)。地球上の13億頭の牛の合計では年間150兆クオート(140兆リットル=1,400億立方メートル=東京ドームの容積の11万倍)になるそうです。そのため、牛などの反すう動物のゲップは、メタンガスの主要な発生源の一つと考えられています。メタンガスは、二酸化炭素の25倍の温暖化効果(注1)を持つため、深刻な問題と言えます(2006年9月10日)。


(注1)温暖化効果とは、大気中に含まれる「温室効果ガス(注2)が増加することによって地球の平均気温が上昇し、氷河や氷山が解けて、海面が上昇し、沿岸域の水没や海岸浸食によって国土が消失し、気候メカニズムの変化によって異常気象が頻発し、気温の上昇や淡水域への塩水の進入によって生態系の破壊が進行することだそうです(『温室効果ガスによる地球温暖化とは』というサイト、http://www.eccj.or.jp/summary/warm.html による)。

各「温室効果ガス」の温暖化効果を数値化したのが、地球温暖化係数(GWP; Global Warming Potential)で、単位質量(例えば1kg)の温室効果ガスが大気中に放出されたときに、一定時間内(例えば100年)に地球に与える放射エネルギーの積算値(すなわち温暖化への影響)を、CO2に対する比率として見積もったものだそうです。国連気候変動枠組条約や京都議定書第二約束期間においては、集計や統計には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(2007年)による地球温暖化係数を温室効果ガスの排出量の計算に用いることとなっているそうです。『地球温暖化係数(GWP;Global Warming Potential)について知りたい』http://www.jccca.org/faq/faq04_05.html ちなみにIPCC第4次評価報告書の値によると(100年間での計算)、二酸化炭素に比べメタンは25倍、一酸化二窒素は310倍、フロン類は数千 - 1万倍温暖化する能力があります。従って、1トン のメタンが排出されたとすると、25トン-CO2、すなわち二酸化炭素換算で25トン の温室効果ガスが排出された、ということになります。また、フロン類は、少量でも大変大きな影響を及ぼすことがわかります。

地球が温暖化するのは、地球が受け取る熱エネルギー(太陽光)と地球が発散する熱エネルギー(地表や大気が発散する赤外線の一部)のバランスが崩れるためのようです。宇宙は真空なので、地球はいわば、魔法ビンに入っているようなもので、対流や伝導による熱の出入りは考えらず、受け取る太陽光と地表と大気が放射する赤外線が、地球と宇宙空間の間の主な熱エネルギーの伝達メカニズムと考えられるそうです。

太陽光に含まれる赤外線や地表が発散する赤外線の一部は、大気によって吸収されますが、吸収されるとその分だけ大気温度が上昇することになります。二酸化炭素やメタンは、大気の主成分である窒素や酸素に比べて、赤外線を吸収しやすいため、これらガスの濃度が高くなると、気温が上昇することになるようです。


(注2)「温室効果ガス」の「ガス」はこの場合、英語の「気体」という意味で、その物質自体が有害であるとは限りません。温室効果ガスの排出抑制を目指す京都議定書(Kyoto Protocol)で排出削減対象となっている温室効果ガス(対象ガス)は、二酸化炭素(CO2)メタン(CH4)一酸化二窒素(N2O)、代替フロン等3ガス(ハイドロフルオロカーボン(HFC)パーフルオロカーボン(PFC)六フッ化硫黄(SF6))の6種類です。それぞれのガスの地球温暖化への寄与の度合いは、炭酸ガス60.1%、メタン19.8%、一酸化二窒素6.2%、代替フロン等3ガス(13.5%)、その他0.4%と、これら6ガスでほぼ完全に網羅されていると考えられています(『地球温暖化のメカニズム』 http://www.eic.or.jp/library/ecolife/knowledge/earth02a.html という、国立環境研究所のホームページから転載させていただきました)。二酸化炭素は、大気中に0.03%、メタンは0.0002%それぞれ含まれています。ちなみに、大気の主成分は78.09%を占める窒素(N2)と、20.95%を占める酸素(O2)で、この2種類だけで、99.04%を占めていることになります。

二酸化炭素は0.03%程度の濃度では、無害と考えられますが、「二酸化炭素の許容濃度は低く、0.5%である。10%以上では意識不明となり、25%以上では数時間で死亡し、30%以上だと即座に死亡する。・・・酸素は、空気中の濃度とほとんど同じ20%とし、二酸化炭素80%の気体ではどうなるのか、イヌを使って実験した結果がある。イヌにこの気体を吸わせると、10分間で呼吸が止まり、〔その後〕)数分間で死亡した」と『二酸化炭素と地球環境』(大前 巌著、中公新書)に書いてあるそうです( http://www8.plala.or.jp/grasia/dokushyo/noCO2.htm )。また、『動物権を考える』という論文( http://www3.ocn.ne.jp/~canvas/top/doubutuken.doc )によると、ほとんどの保健所では、人間にとって不要となった動物の「処理」に二酸化炭素を「毒ガス」として使っているようです。この論文から関係する部分を引用させていただきます。

『ペットブームが起こると、ほどなく処理場内はその動物でいっぱいになると言う。少し前はチワワ、もっと前にはシベリアンハスキーがたいそう連れてこられたそうだ。飼ってみたはいいが「こんなに大変だとは思わなかった!」と保健所(動物愛護センター)に行くケースが多いらしい。/保健所で行われる「安楽死」とは、多くは二酸化炭素ガスによって窒息死させるということだ。職員への安全配慮、精神的負担などへの配慮からこの方法がとられているが、スイッチONで動物を殺してしまうこの方法に、あまりいい顔をしない動物権運動者も多い。また、処理を申請した飼い主がその様子をみていく例はほとんどないと聞く。/年間犬は28万頭、猫は27万匹がそうやって殺されている(1999年度)』

ペットを購入するのは、動物が天寿を全うするまで面倒を見られるのがはっきりしている場合だけにしていただきたいものです。

温暖化への寄与が2番目の、メタンの場合には毒性があるだけでなく、燃料にもなることからも分かるように、濃度が5%以上になると爆発するそうです(2006年9月10日、10月1日に一部訂正して注1、注2を追加しました。2019年3月5日に注1、注2に説明を追加しました)

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