①トゥ・ナ: 人間、スカウト、18歳、男。 長身、長髪、美形のスカウト。パーティのムードメーカー。 大荷物を抱えたままひたすら走り続ける体力の持ち主。 自慢のルックスに女はみんな、いちころ…だといいな。 攻撃は当たらないところからスタートだよ! けど、裏拳だけは勘弁な! [初期設定]/[SS] |
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②マーコット: ハーフエルフ、ソーサラー、10歳、女。 小さなフードソーサラー。パーティのマスコット的存在、なはず。 パーティのバフを一手に引き受けるバッファー。 本人はハーフエルフであることを隠しているが、 パーティの他のみんなはなんかうっすら分かってるような、 分かってないような。 フード解禁はいつなのか! [初期設定]/[SS1]/[SS2] |
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③ヤトリシノ: 人間、ウォーリア、17歳、男。 赤毛、天パの傭兵戦士。 パーティの主戦力。基本的には気のいいおにーちゃんキャラ…となるか? 現在は「寡黙キャラ設定」→「普通にしゃべる」に設定変更中のため、今後のしゃべりに期待! かっこいいところで必ず当ててくる業を持っている。 格上の冒険者だってぶん殴ってみせらぁ! [初期設定] |
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④ルーシア: 人間、プリースト(ラーダ)、17歳、女。 絵に描いたような善良な市民。 パーティの衛生兵。男の人はちょっと苦手。 ラーダ寺院で慈善事業をしている身だけども、これからちょくちょく冒険したいお年頃。 敵か味方か分からない相手にまで回復魔法を飛ばしてしまうお人好し。 冒険は知識獲得に有益です! [初期設定]/[SS1]/[SS2]/[SS3]/[SS4]/[SS5] |
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⑤ライトネス: 人間、ナイト、18歳、女。 茶髪、ナイスバディのナイト。 パーティの盾。せっかくの美貌を全く活かせない脳筋娘。 リスモアの領主の娘という貴族設定を持つが、誰も貴族と思ってくれない。 面倒見は良いので困ったらおねーさんに頼りなさい! とりあえず気に入らなければ神様だってぶん殴る。奇人?変人?だからなに?! [初期設定]/[SS1]/[SS2]/[SS3]/[SS4]/[SS5] |
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キャラ名:トゥ・ナ
性別:男性 18歳
種族:人間
クラス:スカウト
トゥ・ナは盗賊に拾われて育った。
それ故、その名前は親から授かったものではない。
彼も、他の誰も、その出自を知る者はいない。
彼が拾われた日、王族の荷馬車が襲われたらしいが、実はその王族の……ということは無く。
実際は娼婦の捨て子であり、授けられるはずの名前すら、元から持ち合わせていなかった。
彼がもう間もなく19になろうとう頃に、転機は前触れもなく訪れた。
ランタンの灯りだけが揺れる暗い部屋の中で、耳に届く微かな異音にトゥ・ナは目を覚ました。
職業柄だろうか、目を覚ますとすぐさま扉に耳をあてる。
彼らのアジトはドワーフたちの炭鉱後を利用したもので、音がよく響く。これは侵入者だ。
部屋の外の安全を確認すると、今度は部屋を出て音の方向を探った。
迷宮のような坑道に張り巡らされた罠が、うまく侵入者の行く手を阻んでいるようだ。
「それでもギリギリかなぁ…」
嘆息混じりにこぼすと、入り口横に置かれていた大袋をひっ掴むと走り出す。響く音の方へ。
もちろん侵入者を迎えに行く訳ではない。
トゥ・ナはひときわ大きい扉の前で立ち止まった。
それなりの距離を走ったが息は整っている。そして耳をすます。
「思ったより速いな…よくて10分ってとこかぁ…ま、大丈夫だろっ」
少し困ったような表情を浮かべ、大袋から“ 仕事道具”を取り出すとひと呼吸を入れて作業に取り掛かった。
その顔からは全ての表情が消えていた。
流れるような手つきで解除していく。
「まぁ、自分らで仕掛けたものだしねぇ」
1度も手を止める事無く、ほんの数分で全ての罠を解除し終わり、重い扉を開け放った。
その部屋には絵画、丸められたままの絨毯、装飾された剣やフルプレートの鎧まで、
素っ気なく置かれたテーブルの上には貴金属や宝石が散らばっている。
彼らは盗賊。
盗品などすぐに捌けるはずもなく、一時的に保管する、いわば宝物庫だった。
トゥ・ナはその辺にある物を、ろくに確認もせずに手持ちの大袋に詰め込んでいく。
「悪りぃな、こっちとしても先立つもんが必要なんでねぇ」
仲間たちの顔が過ぎるが、アイツらも何とかすんだろ、と振り払う。
膨らんだ大袋を担ぐと今度こそ逃走に―――
「いたぞっ!」
宝物庫から出たところで侵入者に見つかってしまう。
「うわ、やっべ…」
すかさずダガーを投げ、相手の松明を撃ち落とした。少しでも注意がそれればそれでいい。
その隙にトゥ・ナは闇に紛れた。
ここは元坑道、管理の為に幾つか塞いだとはいえ、出入口はまだ無数にある。
そして侵入者は、闇に紛れた盗賊に追い縋るスキルを持ち合わせてはいなかった。
坑道を抜けだしたトゥ・ナは、その勢いのまま周囲に生い茂った森に飛び込んだ。
念の為にこの森を抜けるまで止まらない、そう決めていた。
如何に身軽なトゥ・ナといえど、エルフでもない、まして荷物を背負ったただの人間に、
森の中を駆け抜けるのは困難を極めた。
(決めた!荷物抱えて森で持久走なんて二度とやらねぇ…っ)
どれくらい走り続けたのだろう、息も絶え絶えに森から転げ出る。
荒いだ息を整えるよりも先に、身体を起こし周囲を警戒する。
「――――……」
彼を迎えたのは、ほんの少し顔を出した朝日だけだった。
これからのことは決まっている。
このお宝を換金する。
(出来れば、マトモな盗賊ギルドがある街がいいなぁ)
いくつかの候補地を思い浮かべる。が、いずれも数週間は掛かる道程になる。
長期の一人旅は危険の度合いを深める。
(まずは近場で道連れを探すかな)
そうだなぁ…転がしやすい単純バカがいいなぁ。
そんな事を思いながら、限界を訴える身体に鞭を打つ。
「しゃー!もうひと踏ん張りっ!」
キャラクター名:マーコット
性別:女性 10歳
種族:ハーフエルフ
クラス:ソーサラー
人間のソーサラーを父にもつ、ハーフエルフ。
父は、エルフであり村の司祭(シャーマン)である母を、駆け落ち同然で森から連れ出し旅に出た。
その後、母親は森へと戻り、父は幼いマーコットを抱えて各地を旅していた。
父が高齢となった頃、ある村に居を構えた。
不思議な術を使う親子という事で、皆と打ち解け合い、しばらくは平穏に暮らしていた。
しかし父が病に倒れた事から、平和は壊れていった。
ひとり残されたマーコットは、ふとした事からハーフエルフである事が露見する。
村人との関係は急速に壊れていった。
やがて、マーコットは心に壁を作るようになり、まもなくひっそりと村をあとにした。
※のちにGMとの協議で若干の設定変更有り(GM補足)
マーコットは、ハーフエルフである事に大きなコンプレックスを持っています。
大きな耳を隠すため、人前では決してフードを取ろうとはしません。
なぜ父は母を森から連れ出したのか、なぜ母はわたしと父を置いて森へと戻ったのか、なぜわたしは生まれてきたのか。
ある日、父の残した魔導書に落ちた涙が、不思議な文字を浮かび上がらせました。
それは父の字で、かつて何が起こったのかを記してありました。
父の魔導書は大変価値が高いらしく、残念ながら、旅の中で大半を盗まれてしまいました。
今は父の形見である基礎の魔導書とローブ、メガネ、クリスナイフと杖を持って、父の足跡を探す旅の途中なのです。
「エルフは植物の名前を付ける事が多い。
望まれずに産まれたハーフエルフは、エルフの忌み嫌う言葉の名前を付ける事が多い。」
という設定があるそうなのですが、あえて「マーコット」という名にしました。
マーコット (Murcott tangor) は、ミカン科の常緑低木で柑橘類の一種。
Wikipediaから適当にマーコットの名称調べて「マーコット・タンゴール」にしたけれどタンゴール調べました。
***ここより引用***
タンゴール (tangor) は、柑橘類の雑種の呼称の一つ。
主に「ミカン」(マンダリン、タンジェリン)と「オレンジ」の交雑種のことを指す。
語源はタンジェリンの英名tangerineとオレンジのorangeの「tang」と「or」を組み合わせた事に由来する。
***Wikipediaより***
とか、偶然ながら、まさにハーフエルフな語源…。
これは父の名前はオーランジュ、母の名前はタンジェリンにしよう。
「ごめ…なさ…めんなさい……ごめんなさいっ…」
赤子の様に手足を抱え、丸まった姿勢のままで彼女は目を覚ました。いつもの事だ。
枕代わりのボロ布は、汗やら涙やら鼻水やらでグショグショになっている。
いつもの事だ。いつも見る夢だ。
過去に何かひどい事をされたわけではないが、皆の目を見ることが耐えられなかったのだ。
おまえ、人間じゃなかったのか
胸に大きな氷の塊を突き刺されるような感覚。
途端に息が吐けなくなり、異変を受けて心臓は早鐘のように警鐘を打ち鳴らす。
身体は萎縮し、本能的に頭部を抱える姿勢になる。
厚手のローブの上から、「それ」に強く触れる…。
「落ち着いて、マーコット。…」
自分に言い聞かせる。これもいつもの事だ。
「バレなければいい。隠し通せばいい…。」
眩しい陽光が目に刺さる。日の出だ。またいつもの1日が始まる。
焦る気持ちと、投げ出したい気持ちがうずまく。
父は「決して見せてはならない。」と言った。
気を付けなくてはいけないのは、たったそれだけ。
生活にも慣れていたし、父の死で気が緩んでいたのだ。
もう、あんな事にはなりたくない…。
妙に慣れた手際で、荷物をまとめる。小柄な身体に不釣り合いな大荷物を、少しよろめきながら背中に背負った。
「差し当たって!何処かで顔と枕を洗おうっ!!」
さっきまでの表情を微塵も感じさせない、朝日さえもかすむような満面の笑顔で、彼女は力いっぱいそう言った。
仲間を探さなければならない。可能な限り早急に。
しかし、信頼出来て、腕の立つものでなければならない。
それと、
「この秘密に、決して触れない者でなければならない。」
父とふたりで暮らしてきた。
カノンの西、ナザール山脈を北にいだき、街道から離れた所に、マーコットの住む村はあった。
住んでいた村はあった。
今は遥か後ろにある。
何日歩いただろう。
何回泣いただろう。
村で汲んできた水は顔を拭くためにとっくに使い切って、ナザールのふもとを流れる小川の水を何度も汲み足していた。
今の所、お水には困らないけれど、早く街道に出なくちゃ…。
いつまでもこんなことしてたら、命がいくつあっても足りないもの…。
キャラ名:ヤトリシノ
性別:男性 17歳
種族:人間
クラス:ウォーリア
ある日、日々の糧を稼ぐためこの国で傭兵を始めた「ヤトリシノ」……
傭兵になり3年が経過したが、口下手で大人しく、自分の過去は話さない性格のため、
知人・友人はお世辞にも多いとは言えず、片手で済む程度の知人・友人とつつがなく生活を送っている。
仕事についてはギルドからの依頼は卒なくこなすようになり、最近はギルド関係者からは
「騎士みたいに礼儀正しい」「どんな依頼も文句を言わず黙々と依頼をこなす傭兵」との評価を得ていた。
一方、ギルドでの評価と本人の性格が災いし、一部の傭兵からは「利口ぶってるだけ」「喋らなく、面白味がない」
「似非騎士もどき」と陰口を叩かれており、嫌味を込めて「沈黙の偽騎士」と言う名で呼ばれる日々を
反論もせず黙々と依頼をこなしている……
【ライトネス】
キャラ名:ライトネス・デル・オルトソン
性別:女性 18歳
種族:人間
クラス:ナイト
【ルーシア】
キャラ名:ルーシア
性別:女性 17歳
種族:人間
クラス:プリースト(ラーダ)
ライトネス・デル・オルトソンは女騎士である。
将来を有望視された騎士かと問われれば、残念ながらそうでもなかった。
思えば叙勲を受けた時から、彼女には不名誉な二つ名がつきまとっていた。
”頭のおかしいオルトソン”。
名前を伝えるだけで街や村の誰もが、彼女の顔を思い浮かべ、苦笑いを浮かべる始末。
本人に自覚がないわけでもない。
何故そんなことになったのか…。
一番初めに思い出すのは、彼女の騎士叙勲の儀式が終わりに差し掛かり、
剣を片手に持った王から訓示を賜っているときのことだ。
耳元に確かに声が聞こえたのだ。
「汝には助けを求める声が聞こえぬのか?」
はじめは王に言われたのかと思い、儀式中の礼に反し王の顔を見上げてしまっていた。
王は不意を突かれたような顔をしたまま、彼女の顔を黙って見つめていた。
「再度問う。汝には助けを求める声が聞こえぬのか?」
”違う!これは王ではない!神の声だ!”
そう思った途端、儀式の最中であるにも関わらず、彼女はその場を飛び出して、
導かれるように暴漢に襲われていた婦女子を救出したのだった。
これをまともに信じるならば、彼女は神に愛された聖騎士という美談となるところだが、事態はそうはならなかった。
神聖な騎士の叙勲の儀式を踏みにじる行為として厳罰を求める声が多く出たのだ。
普通に考えれば王への不敬罪すら問われかねない状況の中、地方有力貴族である彼女の父親の全面的な努力により、
罪に問われることなく事を済ますことができたのだった。
そして何故か騎士叙勲というおまけまで付いて。
本来ならば聖騎士としてロイドの街を警備することになっていたのかもしれない。
しかし、今はただ地方領主の支配領域を巡回警備するのが仕事の騎士である。
そう、ただの騎士であればよかったのだ。
だがしかし、彼女は今でも時折、例のささやき声を聞く。
「汝はこの悪をみすごすのか?」
その声が聞こえることで狂人のように思われていることもうっすらわかっている。
が、そんなことは関係ないのだ。
”見過ごすはずもございません!承知!"
そして彼女は今日も剣を振るう。
端から見れば狂ったようにしか見えない理由を口にしながら、彼女が信じるものを守るために。
ライトネス・デル・オルトソンは女騎士である。
騎士であるがいわくつきの騎士でもある。
”頭のおかしいオルトソン”。
この街の酒場でその話をしたなら、たいていの者は笑いながらいろいろな逸話を語ってくれるだろう。
”ただのお人よしだよな。頭おかしいけど。”
”あいつ、何度もいいように使われて、ひどい目にあってるのに懲りないよな!”
”見てくれはいいんだよな。あんなでさえなけりゃな…。”
そんな話をしている最中、そのオルトソン本人が酒場に入ってきた。
押し黙る者、にやにやいやらしい顔で見やる者、また話の種が増えるかと笑いながら見てる者などを一瞥しつつ、
彼女は酒場の奥の女性神官のいる席に座った。
「ライトネスさん、今日も見回りお疲れ様です」
穏やかな口調でねぎらいながらライトネスの分のエールを追加で頼む女性神官。
彼女の名前はルーシア。孤児の彼女には家名などはない。
ラーダの神殿で育てられた孤児の彼女だが、言葉数は多くないが品は良く、
物事を分かりやすく伝えてくれようとする気遣いが見られ、
ライトネスはルーシアのそうしたところを気に入ってるのだった。
「今日は非番なんだ。でもなんか胸騒ぎがするのでちょっと歩いていただけだ」
エールを飲みながら、軽く世間話をする。頭がおかしいだの、
馬鹿だの言われることの多いライトネスにとって、気兼ねなく話せるこの時間は安らげる時間だった。
いい気分になりかけていた矢先、また例のささやき声が聞こえ始めてきた。
「汝は…」
”わかってます!行きますから!"
名残惜しそうにエールのジョッキを見つめてから意を決したように席を立とうとする。
「行くのですね?無茶をしてはダメですよ?ついていきますか?」
首をかしげながらそう問いかけるルーシアに首をふりつつ、酒代をテーブルに置いて席を立つ。
「行ってくる」
そして彼女は今日も剣を振るう。
暗闇にひっそりとたたずむ悪への誘いを、木っ端みじんに砕くために。
「今日は何を書こうかな?」
ルーシアはラーダ神殿の屋根裏部屋に置かれた机に羊皮紙を丁寧に広げると、今日起きた事を書き留め始めた。
羊皮紙は高価だ。裕福でないプリーストには決して安い物ではない。
親代わりの神官長様から毎月頂く少額のお金から、なんとか工面してインクと羊皮紙を買い求めているのだ。
毎日とりとめもない事を書く物、いわゆる日記を彼女がつけているのは、神官長様のふとした言葉を覚えていて、
今でもきちんとその教えを守っているからだ。
”学びは生活のあらゆる所にあります。それに気づき何故そうなのか考える事が大事なのですよ”
7年前、ある施設から逃げ出し、飢えて死にそうになっているところを神官長様に救われた。
自分の身の上を聞いても他の者と変わらない態度と愛情をもって接してくれる神官長様を、心の底から尊敬している。
本来なら難民として救貧所での生活をする事になっていただろう彼女に、神官長は惜しげもなく知識と愛情を与え、
神官として育ててくれたのだ。
ルーシアも人一倍努力して学べるもの何でも学んだ。今ではラーダの神官を名乗れる位にまで成長していた。
月明かりが天窓からこぼれ、羊皮紙を照らす。
今日の出来事を思い出しながら、何を書こうか考える。
街で悪評の高い女騎士が酒場で起こした騒動の情景を思い浮かべる。
「今日もライトネスさんは、無茶ばっかりしていたけれども、どうしてあんなに 恐れず行動できるんだろう」
口数も少なくやや大人しめの性格をしているルーシアと異なり、ライトネスという女騎士は何者をも恐れず、
彼女の信じる正義のためにどんな相手にも勇猛果敢に立ち向かっていく。
その姿を見ていると、何故かは分からないが、ルーシア自身も何かをやらなくてはいけないのではないか?
と、そんな気分になってくる。
以前に酒場の席でライトネスにそれを伝えてみた事がある。
きょとんとした顔をした後、照れくさそうに
「私は馬鹿だからな。むしろルーシアにどうしたらいいのか教えてもらいたい位だ」
と言ったきり、そっぽを向いてエールをちびちびと飲みながら黙ってしまった。
その時の顔を思い出したら、くすくすと笑いがこみあげてきた。
天窓からうっすらとこぼれてくる月明かりが、そろそろ羊皮紙を照らしてくれなくなりそうだ。
机の上のものを丁寧に引き出しにしまう。
「明日も素敵な学びがありますように」
神への祈りを捧げながら、ルーシアはゆっくりと眠りにつくのだった
ライトネス・デル・オルトソンは女騎士である。
ヴァリス国リスモア領内では、もう一つの名前の方が知れ渡っている。
”頭のおかしいオルトソン”。
思えば幼少の頃からお転婆な娘ではあった。
舞踏会やお茶会などにはあまり興味を示さず、英雄物語を聞きたがり、
護衛の兵士に剣の振り方を教えて欲しいとねだるような子供であった。
地方領主である父は、一人娘のそんな我が儘を諫めようとはしなかった。
将来婿さえとってくれれば一族は安泰…大人になれば女らしくもなるだろう…と軽く見ていたのだ。
彼女が騎士を目指して剣の練習をしていると聞いた時も、王国の儀仗兵としてうまく聖騎士に潜り込ませて、
質の良い男を捕まえてくれればとの父の思惑もあり、相当の金を積んで良家へ騎士見習いに出したりもしたのだ。
ところが、である。こともあろうに騎士叙勲の儀式の際にライトネスは何かを喚きながら王城を飛び出し、
儀式を台無しにしてしまったのである。
何とかうまく処分を逃れるために、父親が相当な金を積んでどうにかしたものの、
儀仗兵として王都で勤務する話は無くなってしまった。
王への非礼は不問とされ、騎士叙勲を得られたことが不思議なくらいだった。
ライトネスは父親の領土であるリスモア近郷で、警備と称して見回りをする仕事をしているただの騎士である。
肩書は騎士だが、落ちこぼれと言えなくもない。
そんな時にライトネスに弟ができた。父親の興味は弟に移っていった。
父親としては早いところ縁談をまとめて厄介払いしたいようだった。
だが、ライトネスの二つ名は貴族達の間であっという間に広がり、縁談がほとんど来なくなっていた。
来るとしても素行の悪い低級貴族のぼんくら息子の話が不意に来る程度である。
月の終わりの安息日の夜。ライトネスは決まってリスモアの町のとある酒場に訪れる。
その日の夜だけ酒場に来るラーダの女神官と一緒に酒を飲むためだ。
その中で、ルーシアがリスモアから離れたブラス村に、神殿の用事で明日から一人旅をする事を聞いてしまった。
戦争もまだ終わってない最中、カノン方面への街道を一人で向かわせるなど、もってのほかである。
一緒に行くのが当然とばかりにライトネスは護衛を買って出た。
普段は見回りと称してリスモア領内の村や町を転々と移動している彼女にとって、
この護衛話は日常の延長線、いや日常をさらに楽しくする話だ。名乗り出ないはずがない。
”はぁ…、今日は家に帰りたくないな…”
めったに実家には寄り付かないが、月末は仕方なく実家に帰る。
居心地の良い時間から、一気に居心地の悪い時間に変わるのだ。
可愛い弟にもろくに会わせてもらえず、仲の悪い継母からどうでもいい縁談話を延々と聞かされる。
うんざりだった。
「泥棒だ!捕まえてくれ!」
そんな叫び声が聞こえた瞬間、ライトネスの体は自動的に追跡の体勢に入る。
”取り調べは朝までかかるだろうな、これで帰らずに済んだら…いいな”
そんな思いが頭をかすめ、口元に笑みが漏れる。
そして彼女は今日も剣を振るう。
明日からの素敵な冒険に胸を躍らせながら、彼女の大切な仲間を守るために。
「今日のライトネスさん、すごく酔ってたな、大丈夫かな…?」
ルーシアはラーダ神殿の屋根裏部屋に置かれた古びた机で、日記を書き留めていた手を止めると、
先ほどの女騎士との会話を思い出していた。
最初は世間話だった。
この時のライトネスは機嫌がいい。
見回り中に起こった面白そうな話を見繕って話してくれる。
ルーシアにとっては普段知ることのできない町の外の話を聞ける貴重な機会だ。
少し酔いが回ってくると、彼女の昔の話が聞ける。
なかなかの英雄譚だ、とルーシアは思っている。
どの話を聞いても、実直で正義感あふれる話ばかりだが、彼女の言動のためか、
もしくは表現がいまいち良くないせいか、周りの人に理解されないことが多いのがもどかしく思う。
今日はだいぶ酔いが回っていたのか、普段めったにしてこない愚痴めいた話が聞けた。
弟の可愛い顔が見たいとか、縁談などうんざりだ、とか一人で放浪をしていた方がマシだといったような話だ。
”一人で放浪”と言われ、思い出したかのように明日からの旅のことを告げた。
いきなり怒られた。ライトネスに怒られたのは初めてかもしれない。
「絶対に付いてくからな!絶対だ!」
ものすごく怒っているのかと思ったが、その後さらにお酒を追加しだして、
鼻歌を歌っていたから、多分許してくれたんじゃないかなと思う。
ライトネスがこのくらい酔ってるとき、ルーシアはたまに愚痴を吐露する。
酒場の喧騒の中で紛れてしまうような小さな声で、ルーシアのあまり幸せでなかった過去の話が時折出る。
彼女の生い立ちをほぼすべて知ってる人間は、神官長とライトネスしかいない。
今回の一人旅は初めての遠出だ。
未知の領域へ踏み出す恐怖、また過去の嫌な思い出にまつわる恐怖などが、ふつふつと湧き出す。
今回の行き先は、彼女が7年前に逃げ出してきた施設がある方角でもある。
見つかって連れ戻されたら、というわずかな可能性を考えると、自然と体が震えてくる。
「何を心配してる?安心しろ。全部叩き切ってやるから」
震える手の上に重ねられたライトネスの手は力強く温かい。
「そう…ですね。不安なことや分からないことばかりで、良い事ないななんて、ちょっと弱気になってました」
素直に反省の言葉を漏らしながらエールをちょっとだけ飲む。
そこに、ライトネスが意外なことを言ってきた。
「分からないことが不安なら、実際に見てみればいい。
知らないことだらけなら、きっと見ることもいっぱいで、楽しいんじゃないか?」
体に、何かがびりっと走ったような衝撃を受けた。
そうだ。知らないことは、素晴らしい事なんだ。学びを得る機会がどれだけあることか。
急に、胸が高鳴り始めてきた。
そうだ、これはチャンスなんだ。
そう思いながらライトネスをみると、にへらっと笑いながら幸せそうに肉を頬張っていた。
その笑顔を屋根裏部屋で思い出しながら、ルーシアはくすくすとしばらく笑い続けた。
ひとしきり笑うと、彼女は羊皮紙を丁寧にしまいながら、ベッドに向かう。
「明日からの旅が、素敵なものとなりますように!」
神への祈りを捧げながら、ルーシアはゆっくりと眠りにつくのだった。
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