'97年12月


「虹をつかむ男 南国奮斗篇」

 去年の正月映画の続編。山田洋次監督、西田敏行、吉岡秀隆主演。ヒロインは小泉今日子、松坂慶子。

 続編ではあるんだけど、微妙に設定が違っている。前作の劇場の場所が違うとか細かい所はおいておいても、最初混乱したのは、前回に出ていたほとんどの俳優が違う役で出ている事。映写技師の田中邦衛が、いつのまにやら小泉今日子の父親になっているし(^^;)。これは混乱したけど、まあ、西田敏行、吉岡秀隆以外は別と考えればいいでしょう。

 舞台は、南国の島。主人公の西田は映画館が休館に追い込まれ、移動映写で島々を渡る男。そこに、昔好きだった松坂慶子と絡んだり、吉岡秀隆は子連れの小泉今日子にほれ込んだり…まあ、そういったたわいも無い話。でも、移動映写の現実とか見るのもちょっと面白い。

 南国の砂浜で、「雪国」を上映するとか…、ホントに受けるかどうかは疑問だけど、ちょっとウマいなと思った。


「フル・モンティ」- The Full Monty -

 最近の英国映画はとにかく面白い。一頃、文革の総括的な意味の中国映画で傑作が沢山出たが、それの英国版じゃないだろうか?好況の時代から、その衰退、そして現在の不況と失業者の山。これらをまとめあげて非常にいい設定にしてくる。「トレイン・スポッティング」はそういう時代の若者の姿だし、「ブラス!」は廃坑を目前とした炭鉱の街を舞台にしている。

 「フル・モンティ」は鉄鋼業が衰退して、失業者だらけの街が舞台。愛する息子の養育権を持つために、まとまった金が必要な主人公ギャズは、男性版ストリップで一攫千金を夢見る。集まった男たちは、中年だったり太っていたり…とても男性ストリップが似合うとは思えないんだけど…、でも、なかなか最後にはまとまってくるし、感動的。ちょっと作りは荒い気がするけど、かなり面白かった。

 サッカーのフォーメーションでダンスを教えるシーンが最高傑作だった。場内大爆笑。


「タイタニック」☆

 文句無く、面白かった。
 海原を行く船と波の合成や、流氷を見ると、金をかけた割にはCGの合成がチャチいなと感じた。でも、ラストの方ではそんなディティールはどうでもいいほどワクワクしていた。

 観客はラストの悲劇をすでに知っている。そこに、ゆっくりと沈みいく船の中をのんびりと逃げる人々たち。この差が作るエモーションをキャメロン監督は実に見事に使っている。

 また「タイタニック」の手錠のシーンでは、緊張感の出し方が見事。ライトと水を巧みに使った演出がいい。「アビス」の蘇生シーンを彷彿とさせる、緊張感あるシーンだが、それをあっさりと終わらせる遊び心もいい(^^)。

 ディカプリオが実によかった。特に、会食のテーブルで、回りの人々を魅了していく会話など、ほれぼれするほど良かった。ヒロインに比べて、ディカプリオの方が遥かに魅力的。


「私家版」☆

 面白かった。
 簡単に言えば本で人を殺すというリベンジ・ストーリ。感情や描写を押さえた表現のミステリー性が雰囲気を出している。
 監督のベルナール・ラップはフランスのニュースキャスターとして有名らしい。主演はテレンス・スタンプ。スタンプも前に観たのは「プリシラ」だったかなあ。しかし、色々と面白いのに出てくれます。

 ただし、ちょっと短くて、動機の部分なんかほとんど描かれていないのが寂しい。もうちょっと書き込んでくれてもよかったのに。
 ジョン・ダニング「死の蔵書」「幻の特装本」と本に関したミステリーの傑作が多く出ているけど、あの手が好きな本好きには楽しめるかもしれない。
 原作は、ジャン=ジャック・フィシュテルの同名小説だけど、未読(創元推理文庫から出ているらしい)。


「コン・エアー」 - Con Air -

 監督サイモン・ウエスト、主演ニコラス・ケイジ。

 今年、やたらに多い航空機アクションものの一つ。凶悪犯ばかりが乗った囚人輸送機ハイジャックされる。そこに模範囚である、主人公ポー(ニコラス・ケイジ)が一人戦う。地上の保安官と連絡を取り合う所など、「ダイ・ハード」を思い出させる。しかし、ニコラス・ケイジって、あんまり好きになれない。

 アクションも派手、スピード感もあるけど、全体にはちょっと荒っぽい。楽しむだけならいいけど。
 「羊たちの沈黙」のレクター教授のパロディなど面白い。


「バウンス KoGALS」☆

 原田眞人監督。
 コギャルというタイトルから受けるイメージがいかにも安直で、時代的、キワモノな印象があるけど、作品自体はしっかりした見ごたえがあるものだった。かなり面白い。それぞれの主人公の行動にあまり共感出来ないが。未完成ながら、面白いモノを持っている。

 NYに旅立つ前の日、東京に寄ったリサは留学の資金を奪われる。ラクチャン、ジュンコと知り合い、荒稼ぎを企む。旅たちの前の一晩の物語という所が、「アメリカン・グラフティ」を彷彿とさせる。 「KAMIKAZE TAXI」みたいに、相変わらず、多少説教臭い所も多いけど、それがコギャルたちと絡んで面白い味が出ている。

 全共闘世代のヤクザの役所広司とか、ブルセラの桃井かおりなど脇役も実にいい。


「愛する」

 熊井啓監督。遠藤周作原作「私が棄てた女」。

 熊井が遠藤の原作を扱うのは、「海と毒薬」「深い河」に続いて3作目。原作は未読なので、どの程度、原作に沿っているか判らない。

 難病施設、ハンセン病とその差別という重いテーマを扱うのはいいのだけど、あまりに詰まらない。それがテーマに取り組んだ真面目さから出ているのでもなくて、単に詰らない、退屈なだけなので救いようが無い。


「メン・イン・ブラック」- Mem In Black -

 バリー・ソネンフェルド監督、トミー・リー・ジョーンズ、ウェル・スミス主演。
 スピルバーグ印らしく、いかにもお気楽に楽しめる映画。ただ、純粋に楽しめればそれでいい気がする。時間的にも短いし、ちょっと物足りない所は多いけど、まあ、そんな事を云々する映画じゃないでしょう。

 何より、年末に合わせるために公開をずっと伸ばして来たのが許せない。それほどの映画じゃないでしょ。


「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花<特別編>」

 オリジナルは1980年。

 山田洋次監督、渥美清、浅丘ルリ子主演。これは特別編だけど、オリジナルはずっと前に観ている。確かに、これはシリーズの中でも面白い方だと思う。
 特別編には、オリジナルに満男のエピソードが入っているが、まあ、そこはどうでもいい内容だった(^^;)。


「新・サラリーマン専科」

 シリーズ第三作。まあ、何とも気軽な映画で私好みじゃないけど、好きな人は好きでしょう。

 義理の父として、森繁久彌が出てくるが、三宅祐司とのエピソードとの絡みが少なく、結果的に三宅と森繁の二つのエピソードに分離した印象を受けるのが残念。ストーリ的に深みが無くなってしまっています。

 1、2作目は田中好子が妻だったが、何故か浅田美代子に変わってしまった。どっちにしても、あんまり存在意義が無いので、変わっても気にならないけど(^^;)。あと、加瀬大周が出なくなったのは寂しい。


「エアフォース・ワン」 - Air Force One -

 ウォルフガング・ペーターゼン監督、ハリソン・フォード主演。

 大統領機がハイジャックされる、大統領自身が「ダイ・ハード」なみの活躍でテロリストたちと渡り合っていく。この破天荒な設定が面白いし、息をもつかせぬテンポの良さは気持ちよい。とは言え、観終わった後は、アメリカ万歳の気分しか残らないのはちょっと寂しい。
 ゲイリー・オールドマンの悪役は相変わらずいいけど、ちょっと食傷気味という気もしてきた。


「マグニチュード 明日への架け橋」

 阪神大震災を契機に、映画で防災意識を高めようという心意気は判るんだけど、だからこそ面白い映画を作って欲しかった。
 監督は菅原浩志、主演は緒方直人、薬師丸ひろ子、田中邦衛の消防士の田中邦衛は20年前の震災で妻を亡くす。その息子、緒方直人は父と離れて暮らすが、後に特別救助隊長となる。親子の亀裂のストーリを背景に、防災意識を向上を狙っているのか?しかし、全体に何と言うか、平凡で退屈。


「王立宇宙軍 オネアミスの翼 <サウンドリニューアル版>」

 GAINAXの'87年のアニメのリニューアル版。「エヴァンゲリオン」で儲かった勢いか(^^;)?
 作品自体のイメージは、最初と変わらない。やはり、恋愛部分にはぎこちない所を感じた。
 サウンドリニューアルしたからでもないだろうけど、坂本龍一の音楽はやっぱりよく感じた。THX館で観たせいかもしれないけど。


「音響生命体ノイズマン」

 「メモリーズ」の森本晃司の短編。「王立宇宙軍 オネアミスの翼 <サウンドリニューアル版>」の併映。
 一部だけ3DCG、他は着彩だけをコンピュータでやっているのかな。普通のアニメでは使われない、不思議な色を使っている。
 ともかく、SF大会のオープニングアニメのような、ずっとノリノリのアニメで見ていて疲れるけど、私は好き。多分、一般受けはしないでしょう(^^;)。
 立川シネマシティのTHX館で観た。


「タオの月」

 雨宮慶太は、「人造人間ハカイダー」はともかく、「ゼイラム」1,2は結構好き。

 今回も舞台設定や、デザインはいいんだけど、決定的にダメなのが肝心の怪物。CGでも、模型でもその印象はチンケにしか感じない。もうちょっとカメラワークなどで工夫すればいいんだけど、チンケなものがチンケにしか撮影されてないのが寂しい。
 それでも、ゾクゾクするようなイカした映像もあるので、非常に残念。


「東京日和」

 竹中直人の監督第3作目。荒木経惟、陽子夫妻の物語を竹中と中山美穂が演ずる。
 ほぼ満足ではあるけど、竹中自身が思い入れが強すぎるのが、独りよがりで、感動を押しつける部分が多いのが気になる。特に、もっとも感動すべき石のピアノのシーンなどが徹底的に失敗しているのが残念。多くの観客はあそこでは、物語から遊離してしまっているんでは無いだろうか。
 ところで、松たか子が、凄くジャマ。


「プレッシャー 壊れた男」- Under Pressure -

 主人公、 チャーリー・シーン演じる消防士は、街の英雄ではあるが、多くのプレッシャーに耐えかね、一線を越える。そういうアイデア自体は面白いが、ちょっと直球勝負っぽい、ある意味平凡な展開でがっかりさせられる。チャーリー・シーン自身は結構いいんだけど。
 マイケル・ダグラス主演の「フォーリング・ダウン」の方が、同じ様な内容でも、ストーリ的にも深みがあってよかった。


「スペース・トラッカー」- Space Truckers -

 良くも悪くもB級SF映画。
 トラック野郎の物語を、そのまま未来の宇宙に移して、ひょうんな事から地球を救うハメになる。まあ、そんな単純なストーリ。
 デニス・ホッパーとスティーブン・ドーフ主演。
 いかにもB級な雰囲気を楽しめれば、結構楽しい映画。


「金田一少年の事件簿 上海魚人伝説」

 TVのオリジナル版のキャスト、スタッフが好きなので、ちょっと期待していたけど…、内容以前に、すべてハイビジョンで撮影された映像の様で、そのクオリティが低くて、観ていて疲れる。

 上海の劇団での、呪い唄に従った連続殺人事件。舞台設定などちょっと面白い。トリックの部分で言うと、死体出現トリックはイマイチ、凶器の隠し方は面白かった。金田一シリーズで、いつも複雑な動機、人間関係も、もう凝りまくっていて、そんなに絡ませる事無いのにと思ってしまう。

 ところで、TVシリーズでの撮影のもっとも見どころ、「ジッちゃんの名にかけて」のカメラワークは地味だった。多分、ハイビジョンカメラが重くて、自由は動きが出来なかったのでは、と予想しているけど。

 これでシリーズ最後だそうだけど、堂本剛、ともさかりえ、共に確かに高校生をやるには苦しくなってきたかも(^^;)。


「セブン・イヤーズ・イン・チベット」- Seven Years In Tibet -

 ジャン=ジャック・アノー監督、ブラッド・ピット主演、若く生意気盛りのオーストリアの登山家が、ドイツのヒマラヤ征服の登山隊に参加。二次大戦の勃発、収容所生活と苦難が続く。実際、チベットに入ってダライ・ラマに会う前までが随分長くて、チベットの生活はあまりにあっさりしている気がする。もうちょっとチベットの生活を描き込んで欲しかった。それでも、ブラッド・ピット演ずる主人公のハラーの性格の変化の仕方など結構いいと思ったけど。

 東洋と西洋の文化の出会い、若き指導者と家庭教師という設定が、あまりにベルトルッチの「ラストエンペラー」っぽいかと観る前には思ったけど、ダライ・ラマの存在感の魅力は、溥儀を上回る面白さがあった。


「ブラッド&ワイン」- Blood & Wine -

 ボブ・ラフェルソン監督、ジャック・ニコルソン、スティーブン・ドーフ主演。
 ラフェルソン監督とニコルソンの組み合わせは「郵便配達は二度ベルを鳴らす」などがある。
 ドーフ、ニコルソンが親子の役、ニコルソンの犯罪から親子の関係がネジ曲がり、対決へと至る。ニコルソンの不気味さがなかなかよい。犯罪モノとしては、意外に地味でどちらかというとジワジワと感じるタイプの映画であるが、結構、心に残る所はある。


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