'97年11月


「ラヂオの時間」

 三谷幸喜が初監督。元もと東京サンシャインボーイズの舞台劇だけど、元は未見。でも、映画を観ても、きっと演劇で観たら面白かっただろうというのが率直な感想。
 演劇的な空間でのストーリの作り方は面白いのだけど、それが映画的な広がりがある空間ではほとんど意味を持っていないし、面白くない。演劇的な話の作り方から脱出していない。

 唐沢寿明、鈴木京香、西村雅彦、細川俊之、井上順、布施明、戸田恵子、みんな魅力的でいいんだけど、何か不満が残る。


「ハーモニー」- Cosi-

 オーストラリア映画。マーク・ジョフィ監督。
 大学を中退して職を求めていた主人公が捜した仕事が、精神病院で患者に演劇を指導する事。麻薬中毒、放火魔、虚言癖のオペラ狂いなどなど、癖のある役者ばかりが集まるが、少しづつ心を通わせて上演までに持っていく。

 決めた演目がモーツァルトのオペラ、原題通りのCosi「コシ・ファン・トゥッテ」なんだけど女の貞節を試す話で、これが主人公とその彼女との関係との二重構造を持っている。でも、この辺はうまくない。
 色々な音楽もいい。モーツァルトよりも、「Stand By Me」のシーンが一番よかった。なかなか好きな映画でした。


「NY<ニューヨーク>検事局」- Night Falls On Manhattan -

 シドニー・ルメット監督。アンディ・ガルシア主演。
 さすがに社会派の映画というだけあって、内容はいいです。麻薬元締めの裁判から始まって、警察汚職の実態が明らかになっていく。理想を持ったルーキーが社会の実態に直面してもがくといった内容は、それほど珍しくない。でも、父親やその相棒、麻薬元締めの弁護士などの魅力的なキャラクタの存在によって映画自体が凄く深くなっている気がします。
 ちょっと地味だけど、いい映画です。


「イベント・ホライゾン」☆ - Event Horizon -

 「ショッピング」のポール・アンダーソンが監督。というだけで、普通のSF映画で終わらない事は予想出来るけど…。個人的にはかなり面白かったです。でも、万人受けするとは思えない(^^;)。

 2047年、海王星付近から7年前に消息をたったイベント・ホライゾン号の信号を受信し、救助船ルイス&クラーク号が向かう。
 全体に、「2001」や「ソラリス」「エイリアン」の雰囲気と、ホラーもののエッセンスを混ぜた様な映画だけど、暗く陰鬱な雰囲気が延々と続き、なかなかゾクゾクとさせてくれます。でも、根っから明るいハリウッド映画がお好みだと、好きになれないかも。
 このヘンさがポール・アンダーソンが監督だという気がする。ま、「モータル・コンバット」なんて変なのを作ってますが(そう言えば「Mortal Kombat: Annihilation(絶滅)」って続編が出来るらしい)。

 「2001」「ソラリス」「エイリアン」をあげたけど、古いSF映画の影響は顕著。肝心のイベント・ホライゾン号は、ディズカバリー号にそっくりだし、気圧室の描写やHALの回路内に似た描写があったり、空中に浮かぶ様々な物とか、ニヤリと出来る場面ばかりです。
 ところで救助船ルイス&クラーク号のクラークはA.C.クラークから取ったんだろうけど、ルイスは誰なんでしょう??

 CGはそれほどうまいとは思わないのだけど、実写との組み合わせに凝ろうとしているのが判ります。例えば、CG製の空中に浮いている結晶に実写製の懐中電灯を当てると、ちゃんと拡散するとか、実写の人間が手を払いのけるとCG製の空中の水滴が飛び散るとか。妙な所が凝ってます(^^;)。


「沈黙の断崖」 - Fire Down Below -

 「グリマーマン」に続く、セガール新作。
 「沈黙の要塞」では監督までやったスティーブン・セガールだけど、今度は制作、出演のみ。まあ、「沈黙の要塞」の出来をみれば監督は止めておいた方が無難だけど、「沈黙の断崖」よりも多少マシな程度かもしれない。

 「沈黙の要塞」でもそうだったけど、今度も環境保護がメインテーマ(^^;)。地元の有力者に押さえつけられている住民を助けるという、西部劇のパターンを借りているけど、まあ、何というか、それなりに退屈せずに観られる程度の映画かな。
 魅力的な悪役がいないのが致命的。セガールの映画っていつもそう。


「フェイク」- Donnie Brasco -

 ジョニー・デップ、アル・パチーノが主演。マフィアにもぐり込んだ捜査官とターゲットとしたギャングの男との間に友情が芽生える。このネタ自体は色々な所で使われているけど、この映画は面白かった。
 よりこの映画を深くしているのは一つは実話をベースにしていること。もう一つは、アル・パチーノの位置かな。上から押さえつけられているうだつのあがらない、この位置が絶妙で魅力的なキャラクタになってます。
 今までに何度となくマフィアを演じている彼ですが、以前の様なパワフルで押しが強いキャラクタでは無い新しい姿を見せてくれます。

 アル・パチーノといえば、「天国の約束」の演技で老けたなー、と思ってたけど、一気に30歳ぐらい若返った様な演技でちょっと驚きました。

 アシスタント・プロデューサーのインタビューを読んだのですが、凄く面白かった。モデルとなっているジョー・ビストーネはマフィアから50万ドルの懸賞金をかけられているのに、映画制作に最初からかかわり、現場やプレミアムショーにまで出かけてきた。土台となった原作も彼自身が書いている。消えた大金は今だFBIとビストーネの間で問題になっている。ビストーネがニュース番組のインタビューを受け「レフティを密告した事をまったく後悔してない」と発言し映画のテーマをぶち壊しにした。車のライオン以上に大変だった撮影はライトの光が血で赤くなるシーンだった。などなど。


「河」

 1997東京国際映画祭シネマ・プリズム。
 「青春神話」「愛情万歳」の台湾の監督、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)。
 「青春神話」は坦々とした展開でありながら力強さを感じ、若者の葛藤がうまく出ていたと思うのだけど…。
 この「河」も手法的に似ていて、何でもないエピソードを坦々と連ねている。 ゲイのたまり場であるサウナのラストなど、衝撃的ではあるが、あまり面白いとは思わなかった。どっちかというとうんざりした感じ。退屈はしないが、面白いという感じは薄い。


「フレンチ・ドレッシング」

 1997東京国際映画祭シネマ・プリズム。
 斎藤久志監督。PFFの「うしろあたま」、16mmの「はいかぶり姫物語」は名前は知っているけど、未見。この映画が初めて観る監督。

 よく知らないけど主人公の櫻田宗久は、結構有名なモデルらしい。彼目当てのファンが多かった。
 主人公はいじめられ子で、自殺をしようとする所を男性教師に強姦される。それから女子高生が絡み、摩訶不思議な三人組の生活が始まる。
 全体のタッチが「Helpless」「チンピラ」の青山真治の亜流をイメージして、つまりは北野武の亜流の様に感じてしまう。ラストへ向かって、話をどう収束させるか興味があったのに、ちょっと曖昧でつまらなかった。
 雰囲気は、ずっと昔の相米の様で面白かったので、ストーリ的なメリハリがつけばもっと好きになったと思う。


「ア・リトル・ライフ・オペラ」- 一生一台戯 / A Little Life-Opera -

 1997東京国際映画祭シネマ・プリズム。
 香港の監督、「ジャスト・ライク・ウェザー/美国心」の方育平(アレン・フォン)。「ジャスト・ライク・ウェザー/美国心」は公開時に凄く評判がよかったのに、今だに未見。
 中国福建省を舞台に、その土地の京劇/チェイニーズ・オペラの劇団を切り盛りする女優が主人公。それを援助しようとする実業家や、劇団員、娘などを軸に話は進むが、ストーリ自体はそれほどの盛り上がりもなく、平凡(^^;)。それでも、間にはさまる京劇とその練習の様など観ているだけで面白かった。


「ビヨンド・サイレンス」- Beyond Silence - ☆

 1997東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション。
 カローリーヌ・リンク監督。ドイツ映画。
 これは面白かった。今年観た映画の中ではベスト3には入ると思う。聾唖の両親の元に育った、クラリネットの音楽家の娘の話。
 今まで観た映画の中でも、これほど巧みな心理描写の映画はなかったです。この見事さには脱帽しました。好き嫌いという単純な心理でなく、好きであり嫌いであるこの微妙な部分が凄くうまい。
 最終的には父と娘の理解の物語だと思うのだけど、それを最後の最後までひっぱっていくのがうまかった。

 映像的にも結構好きです。地味ですが。手だしの、水底から氷を通してスケートをする姿を撮ってる映像など衝撃的。あれはトリックじゃないんですかねえ。
 あと最後の方のシーンでも、舞台でのアップからカメラが観客席を通り一番後ろの席の手摺りに捕まる手をアップし、再び舞台までカメラが帰る。音の伝わりを描写するこのシーケンスなど、ゾクゾクくるほど美しい動きの映像でした。

 '98/3銀座テアトル西友などで公開予定だそうです。


「バルカン冒険旅行」- Balkanisateur -

 1997東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション。
 なんでこんな映画がインターコンペに入ってくるの、と唖然としてしまった。つまらない(^^;)。
 ギリシャ人の二人が一儲けしようと、バルカン半島を越えて、西ヨーロッパ、スイスまでのロード・ムービ。初っぱなから中盤まで、まったく退屈。そもそも、その一儲けというのが納得出来なくて、それが解明されるラストではまったく落語のオチかと思ってしまった(^^;)。まいった。

 ソティリス・ゴリチャスはギリシャの監督で、ドキュメンタリー出身。確かにドキュメンタリーっぽい撮り方ではあるんだけど、なんとも退屈だった。
 日本では一般公開されないでしょうねえ。


「ブラス!」- Brassed Off -

 1997東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション。
 これは安心して期待出来る、ある程度面白い事は確実と思ってたけど、やっぱり面白かった。すでに来年の公開は決まっているはず。
 監督、脚本はマーク・ハーマン。これが初めて観る作品。
 1993年の英国の炭鉱閉鎖をストーリの背景にして、炭鉱閉鎖による地域の共同体の崩壊と村のブラスバンドの活躍を見事にミックスさせている。もうちょっと、ブラス・バンド版の「ロッキー」みたいな映画かと思ったけど、やはり炭鉱の背景の使い方が上手い。そこに住む人々、夫に文句を言いながらもバンドを応援し続ける主婦二人組や、家財を差し押さえられてもバンドに取り組む息子など、人が実にいい味出している。主人公のダニーはもちろんの事。
 若い二人のロマンスだけがちょっと平凡だし、ラストへの持っていき方は不満が残るけど、全体には満足出来る映画だった。


「ジプシーの贈り物」- Romanki Kris(Gypsy Lore) -

 1997東京国際映画祭ヤング・シネマ・コンペティション。 監督はベネ・ギョグオシーはハンガリー、ブタペスト生まれで、現在はミュンヘンで活動、これが最初の劇場用映画。
 北ハンガリーのジプシー居留地をおわれた老人ロベルが、頭の弱いが音楽は上手いタマスカを連れ歩く。放浪するジプシーという構図よりも、娘たちの家を巡る姿は「リア王」のストーリ構造を彷彿とさせる。
 全体にストーリ展開自体は面白くなりそうなものなんだけど、ちょっと退屈。ラストの方は面白かったけど。
 ジプシーを主人公にした映画は珍しい。


「青春のつぶやき」- 美麗在唱歌 / Nurmur Of Youth -

 1997東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション。
 監督は台湾の林正盛(リン・チェンシェン)。未見だけど「熱帯魚」にも出ている人で、監督よりも性格俳優っぽい(^^;)。
 主人公は台湾に住む二人の少女。台北のマンション住まいと、郊外の古い家住まい。この辺に、対立的な構造を出そうとしているのかもしれないけど…二人のキャラクタからはあんまり感じられなかった。
 この二人が映画館の切符売り場で働きストーリが展開していくんだけど、どうもこの辺がメリハリが無くて退屈。ラストへの下準備がここで出来ているとは思えないのだけど。
 観終わってみるとネタとしては面白いと思うのだけど、退屈だし、料理の仕方が間違っている感じがした。


「2days」- 2 Days In The Valley -

 1997東京国際映画祭特別招待作品。
 1983年のオリビア・ニュートンジョンとジョン・トラボルタ主演の「セカンド・チャンス」の監督、ジョン・ハーツフェルド。この間に他の映画は撮っていたんだろうか(^^;)。

 彼も'81年にTV番組「Stoned」でエミー賞を受賞しているけど、主人公の一人が落ちぶれた監督役で、どうも心情が出ている様な気がする(^^;)。
 ともかく映画はそれなりに面白い。L.A.のValleyで起こる二日間の出来事、10人の癖のある男女が織り成すドラマはちょっとアルトマンの「ショート・カッツ」を連想したけど、もっと綺麗に一つにつながっていくストーリ展開が面白い。全体にブラックなユーモアにあふれていて、かなり笑える。
 「セックスと嘘とビデオテープ」などに出ているジェームズ・スペイダーが舞台挨拶していたけど、観客のほとんどは彼目当ての若い女性だった(^^;)。


「187」-187 -

 1997東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション。
 「ファンタンゴ」のケヴィン・レイノルズ監督。
 187は、カリフォルニア州の殺人罪に適用される刑法で、映画の中では「殺す」という警告のメッセージに使われる。主人公の教師ガーフィールドはN.Y.のブルックリンで生徒から瀕死の重傷を負わされる。PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされるが、L.A.で臨時教員として復帰する。
 観ていると、正義や善悪と言った視点が混乱する。誰が正しくて、誰が間違っているかと、そういう視点はすべて無意味だという事が判る。ラストをどうまとめるかと思ったが、なかなか意外な展開。被害者、加害者と言った視点を越えたラストの決め方で、心に残る終わり方だった。


「CURE」

 1997東京国際映画祭インターナショナル・コンペティション。
 黒沢清が監督。もう「地獄の警備員」以来、まったく信用してない監督であるが、ちょっと面白そうなので観てしまった。

 主人公が役所広司、萩原聖人、うじきつよし、中川安奈。被害者の首を×に切り刻む殺人事件が続く。しかし、すべての犯人は捕まっている。この奇妙な連続殺人事件を追うのが、刑事の役所広司と精神科医のうじきつよし。サイコものとしては、なかなか雰囲気ある展開で、もう目一杯期待させてくれるのだけど…。ラストでどう決着付けてくれるのかと期待していたのに、期待ハズレだった。やはり、黒沢清は期待ハズレな監督だなあ(^^;)。あれだけネタを振っておいて、この終わり方は無いでしょ、としか言えない(^^;)。

→原作「CURE」の感想


「鍵 THE KEY」

 池田敏春脚本、監督。川島なお美、柄本明、大沢樹生。
 谷崎潤一郎の文学の世界だけど、雰囲気が江戸川乱歩みたいな映画だった。あまり期待してなかったけど、予想通りの出気。
 エロティシズムという面では、新鮮さも面白さもなかった。


「陰謀のセオリー」

 予告編が面白そうで、期待していたけどちょっと期待ハズレ。
 陰謀説を持つ男が主人公という設定が気に入ってました。このキャラクタでうまくストーリを作ればよかったのに、結局の所陰謀説は単なる添え物でした。残念。


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