'99年12月


「リボーン」☆
- Reborn - F.Paul Wilson
F・ポール・ウィルスン 扶桑社ミステリー

 売れないホラー作家、ジム・スティーブンスが遺伝学で有名なハンリー博士の遺産相続人に指名される。そこから明かされるジムの出生の秘密…。遺産絡みのホラーの設定は、ちょっと「悪魔のワルツ」を連想させる。「ローズマリーの赤ちゃん」も連想させるかも。
 「ザ・キープ」から「ナイトワールド」までの「ザ・ナイト・ワールド・サークル」のシリーズの第4部にあたり、魔人ラサロムの復活の秘密などが明らかになる。

 さすがにF・ポール・ウィルスン、文章、ストーリー展開は上手い。ラストがイマイチ盛り上がりに欠けるところも今まで通りかもしれないが、楽しめる。従来と違って、遺伝子操作など、ちょっとサイエンス色が入っているのが面白い。そもそもウィルスンは「ホログラム街の女」みたいなSFも書いているけどね。


「カヌー犬・ガク」
野田知佑 小学館文庫

 1997年にフィラリアで死去したガクの話をまとめたもの。野田知佑の著書から、ガクに関するものを抜き出しや、書き下ろしを加えて編集しなおしたもの。
 まあ、それほど思い入れがある訳でも無いけど、野田知佑の自然観、動物観の判るエッセイとしては面白いかな。映画の「ガクの絵本」の話は、観ているので面白かったけど。


「イタリア人のまっかなホント」
マーティン・ソリー マクミラン・ランゲージハウス

 シリーズのイタリア編。
 このシリーズは面白い。旅行に行っていた事がある位の、適度に知っている国だと面白い。イタリア人の好奇心の旺盛さ、快楽主義、家族主義なトコが判る。
 食事にうるさい快楽主義で、家族主義なトコをみると、中国人とイタリア人って似ていると思っていたのだけど、この本でますますその印象を強めた。


「フランス人のまっかなホント」☆
ニック・ヤップ/ミシェル・シレット マクミラン・ランゲージハウス

 イタリア編と同じで、フランスは旅行に行った事があるので、適度に知っていて面白い。
 何かにつけてスノッブ、官能的で恋愛に異常に情熱を注ぐ、遅刻の常習犯、食事にかけるエネルギーの膨大さ、議論好き、あらゆる文化で世界をリードしていると信じて疑わない、などなど。


「悪童日記」
-Le Grand Cahier- Agota Kristof
アゴタ・クリストフ 早川書房

 時代背景や場所は明らかにはしてないが、オーストリアに近い国境付近のハンガリーの田舎町、二次大戦の終わり頃、主人公の双子の子供の日記風の構成になっている。著者はハンガリー動乱を機に西側へ亡命している。
 全体が20世紀のヨーロッパの歴史を象徴している寓話のような感じ。政治的な背景を憶測して読むと面白い。それを抜きに単なる物語として読むとよく判らないかも。まあまあな面白さか。
 これは三部作の最初で、「ふたりの証拠」「第三の嘘」と続いている。


「ネットフォース」
トム・クランシー/スティーブ・ピチェニック 角川文庫

 背にはトム・クランシーの名前しか無いのはずるい。実際には共著。多分クランシーが担当しているであろうミリタリー・サスペンスの部分は面白いけど、コンピュータ部分はやっぱりイマイチな感じがする。リアリティが無い。特に、ネットワークのテクノロジ、バーチャルリアリティ当たりが、如何にも素人受けしそうな設定で、必然性が無く面白くなかった。
 実際に、テクノロジがどう未来を変えていくかという部分が描かれてない。未来になっても、やっぱり拳銃ってところがなんとも情けない。
 まあ、ストーリとしてはそこそこ面白い。最後の対決とか、格闘技関係の話は面白かった。


「日本人のまっかなホント」
J・ライス/嘉治佐保子/浜矩子 マクミラン・ランゲージハウス

 このシリーズも日本人となると、あまりに知りすぎているので、他とまた違う面白さになる。海外からどう思われているかを理解するという面ではいい本かも知れない。当たり前の事を海外の目から観ると異様に思えるというのが面白い。
 自分の意見をはっきり言わないとか、まあ判っているけど受け入れているものとか、デパートの包装紙の威力などは確かに自分でもオカシイと思うものまで様々。「菊と刀」、「日本人とユダヤ人」m「梅干しと日本刀」など日本の文化論の本をよく読んだけど、これは気軽に読める内容で、オススメ出来る。


「グリーン・マイル2  死刑囚と鼠」☆
- The Green Mile 2, The Mouse of the Mile - Stephen King
スティーヴン・キング 新潮文庫

 「グリーン・マイル1」を読んで、余りに面白くなかったので、このシリーズは断念していたが、通して読んだ周りの人の意見を聞くとみんな絶賛している。
  とりあえず、2は1ほど詰まらなくはなかった。少なくとも、2でやはり諦めるというほどではなかった。やっぱり、1を面白く書けなかったというのは、シリーズ作家としては才能無いんじゃないかなあ。
  …しかし、今だにどういう話だか見当がつかない(^^;)。


「グリーン・マイル3  コフィーの手」
- The Green Mile 3, Coffey's Hand - Stephen King
スティーヴン・キング 新潮文庫

 コフィーの手、タイトルそのままの部分でストーリが段々見えてくる。ホラーめいた味が出てきて面白くなってきた。
ストーリが進むにしたがって、コフィー、ドラクロアなどの人間も生き生きした感じがしてくる。


「グリーン・マイル4  ドラクロワの悲惨な死」
- The Green Mile 4, The Bad Death of Eduard Delacroix - Stephen King
スティーヴン・キング 新潮文庫

 うーむ、めちゃくちゃ面白い。この書き込みの上手さはさすがにキング。特に電気椅子の描写の上手さは抜群。


「グリーン・マイル5 夜の果てへの旅」
- The Green Mile 5, Night Journey - Stephen King
スティーヴン・キング 新潮文庫

 ストーリが一気に展開していく。面白い。過去と現在の関係も段々判ってくるし、ホラーでありながら、深い人間ドラマになっている。恐さは無い。素晴らしい。


「グリーン・マイル6 闇の彼方へ」
- The Green Mile 6, Coffey on the Mile - Stephen King
スティーヴン・キング 新潮文庫

 余韻があるラストが素晴らしい。実に人間味がある。老人の現在と回想という手法も実にうまく生きている。過去キングの最高傑作と言ってもいいと思うほど面白かった。
 名作と言ってもいいと思うけど、分冊という形式では失敗だと思う。がつまらなすぎるもの。でも、やっぱり傑作。


「暗闇に過去がよみがえる」
メアリ・H・クラーク 新潮文庫
- Still Watch - Mary Higgins Clark

 父と母を失った悲しい過去の事件が起きた家に、主人公パットが戻ってくる。アメリカ初の女性副大統領指名を目指す、上院議員アビーのTV番組を作るためであった。美しく才能があり、そして過去の事件に傷を持つ女性が主人公であり、現在の事件とともに過去の事件の謎が解けていく、まったくいつものクラーク・スタイル。展開自体も、キャラクタも、いつもの通り、それなりに面白い。逆に意外性は低いけど。


「日蝕」
平野啓一郎 新潮社

 第120回芥川賞受賞作品。異端信仰の嵐吹き荒れるルネッサンス前夜の南フランスが舞台、神学者が主人公。
 錬金術、異端審判、魔女裁判などが絡みあった展開。文書自体は凝っていて面白いのだけど、中身が薄いと思う。これが「薔薇の名前」と比較されるのはよく判らない。書いたのが現役大学生というには驚かされたけど、あんまり面白いとは言えなかった。
 アルプスより南は違う思想がある、といった時代の感覚が面白いのだけど活かされている様には思えなかった。


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