'98年4月


「本が好き、悪口言うのはもっと好き」
高橋俊男 文春文庫

 なかなか面白かった。話は、非常に多岐に渡って統一性がないが、それぞれ面白い。文、言葉、文体に関する様々な話題(というかイチャモン、真っ当ではあるが)、新聞醜悪録、書評、支那という言葉について、ネアカ李白とネクラ杜甫、他エッセイ。

 「ネアカ李白とネクラ杜甫」が特に面白かった。学校で漢詩を勉強する前にこの文を読ませておけば、興味が10倍ぐらい増すと思う。人間味ある生の李白と杜甫なんぞ、考えた事もなかったので実に新鮮だった。
 著者の中国文学先攻で、著書に「李白と杜甫」「水滸伝の世界」「水滸伝と日本人」などがある。ちょっと読んでみたいと思う。


「戦国武将に学ぶ情報戦略」
津本陽 角川文庫

 時代小説「下天は夢か」「夢のまた夢」の著者。でも、小説自体はまるで読んだことが無い。

 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を中心に、戦国武将における情報戦略の様々は話題を語る。勝敗の七割は情報で決まるとする信長の情報戦略が特に面白い。情報のためには金を惜しまない、蜂須賀小六、生駒八右衛門などの地下人によるゲリラ戦などのディティールが面白い。

 また、ルイ十三世のヨーロッパ最大の陸上兵力が二万だったのに対して、日本では二万以上の兵力を動かせる大名は多かった。日本は世界最大の軍事国家だったという話などは新鮮。


「夢街道アジア」
日比野宏 講談社文庫

 「アジア亜細亜 無限回廊」「アジア亜細亜 夢のあとさき」の日比野宏の、同じアジア本。
 プノンペンでのカンボジアのクーデターから、サイゴンへ脱出。テンポと緊張感がある展開が、前作とはちょっと違った雰囲気。

 でも、日比野宏の面白さは、現地の人々とのコミュニケーションの現実感。この本でも、後半ではそんな所が面白い。特に女性との話題が面白い。アオザイ・バーの女、バリのクリスティーヌ、ベトナム航空のスチュワーデス、それぞれのエピソードが印象的。
 写真も写っているのは女性ばかりで、それぞれアジア的な雰囲気がいい。


「緋色の記憶」- The Chatham School Affair -
トマス・H・クック 文春文庫

 「闇をつかむ男」のトマス・H・クックの新刊。'97アメリカ探偵作家協会(NWA)賞最優勝長編賞受賞作。

 後書きにもあるように、「雪崩を精緻なスローモーションで再現するような」クックの文は上手いと思うのだけど、どうも肌に合わない。電車に乗りながらなどの分散的な読書では集中出来ないので、うまく楽しめない。事件としては地味な内容を、ひたすら緻密に、記憶をときほぐす様に書き込んでいく技量は凄いのだけど。まあ、最後の最後まで何か一つは秘密が隠されている事は判っているので、しょうがないから読んでしまうけど(^^;)。

 原題はそのまま「チャタム校事件」だけど、邦題の「緋色の記憶」は、ホーソーンの「緋文字」みたいな姦通を暗示させるタイトル。


「深夜曲馬団 MIDNIGHT CIRCUS」
大沢在昌 ケイブンシャ文庫

 大沢の短編集5作。初出は1985年、ちょっと古臭い感じはする。

 「鏡の顔」「空中ブランコ」「インターバル」「アイアン・シティ」「フェアウェルパーティ」の短編5作。
 関口苑生の解説に有る様に、作品のほとんどが生活臭いの無い乾いた話。「新宿鮫」シリーズの様な人間臭さが、まるでない。一時期の片岡義男みたいな雰囲気。あんまり好きになれない。
 それなりに面白いものの、大沢在昌の小説の歴史資料的な価値しか感じられない。


「信仰の現場〜すっとこどっこいにヨロシク〜」
ナンシー関 角川文庫

 ナンシー関は、消しゴム版画家としてはかなり昔から知っていたが、結構本も書いているとは知らなかった。

 「何かを盲目的に信じてている人にはスキがある。…だが、自己抑制のタガを外してしまう時と場所がある。それは、おなじものを信じる同士が一同に会する場所に来た時だろう。」と本文にあるように、そんな現場からのナンシー関のリポートである。

 その現場は、矢沢永吉コンサート、笑っていいとも公開生放送、クレヨンハウス、キックボクシング、アメリカ縦断ウルトラクイズなどなど。面白いネタも多いが、「ゾロ目マニアを捜せ」の平成4年4月4日4時44分四谷みたいにまるっきり外している場合も多い。そもそもナンシー関の、狙い方もかなりへンと言える。
 すぐに思いつくネタ、コミケとか、秋葉原とか、プロレスとか、アイドル系コンサートとか、ゲーセンとか、アニメとか、オタク系の物は何故か少ない…。当たり前過ぎるのか?


「燃えよ剣 (上)」
司馬遼太郎 新潮文庫

 司馬遼太郎は有名な割には数冊しか読んだこと無い。読んでみると、思いの外にエンターテイメント性が高いなという印象。文体自体も非常に柔らかく、流暢。テンポもよく面白くキャラクタも魅力的なので、一般受けするのは納得出来る。面白い。

 土方歳三を中心にした幕末もの。武州時代、新撰組、池田屋事件、鳥羽伏見の戦い、函館五稜郭、戊辰戦争と一人の男を軸にして幕末を見てみると、歴史的な流れがよく判る。幕末から明治維新への力関係、人間関係を理解するには最適。

 しかし、土方歳三が近所である日野の出身だとは知らなかった。沖田の末裔が立川に住むというのも驚いた。


「燃えよ剣 (下)」
司馬遼太郎 新潮文庫


「帝王コブラ 特命武装検事・黒木豹介」
門田泰明 光文社文庫

 と学会「トンデモ本の世界」でも取り上げられた門田泰明の黒豹シリーズ。確かに、噂通りの凄いトンデモな内容。しかし、思ったよりはまとも。シリーズの最初の方だから、まだまだ常識的な範囲に収まっていたのか。残念ながら、まだまだトンデモ度が足りない時代かも

 文章は稚拙、ストーリ展開も脈絡が無い。


「黒豹伝説 特命武装検事・黒木豹介」
門田泰明 光文社文庫

 これは凄い(^^;)。トンデモ度全開。
 東北地方の金脈のために人工地震を起こし、東北と北海道をソビエトに引き寄せて領土にしてしまう悪の集団。人工地震が起こせるなら、金脈なんてセコイ事を考えなくてもいいと思うのだけど。金脈は「超大国の50年や100年分の国家予算」をまかなえる量という(^^;)。金は暴落しないんだろうかと、いらぬ心配をしてしまう…。

 地下に潜る人工島は海中を時速120Km(64.8ノット!)で移動し、黒木の戦闘ヘリ・ヒューイコブラは時速600Km(マッハ0.5!)で飛ぶ。東北からニューギニアまで楽々飛行してしまうとは、驚くべき性能。その他、こまごました矛盾をついていると、まったくきりが無い。

 それよりも気に入ったのは、黒木が泊まるのがスィートルームだけど、盛岡ターミナルホテルというのが可愛い(^^;)。もうちょっといいホテルにしておけばいいのに。おまけに、p97「彼は、沙霧に背中を向けてホテルの浴衣を脱ぎ捨てると…」。うーむ、スィートルームでターミナルホテルの浴衣というのが泣かせるぞ、黒木検事。


「エヌ氏の遊園地」
星新一 新潮文庫

 星新一追悼で読む。
 最初に読んだのは13歳ぐらい?多分、星新一で最初に読んだのがこの本だと思う。当時の様な新鮮さはもちろん無いものの、やはりこのショートショートにかけた情熱というのは大したものだと思う。
 しかし、意外にオチを覚えているものだと、我ながら驚いた(^^)。


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