2002年1月


「精神分析医シルヴィア」
- Dangerous Attachments - Sarah Lovett
サラ・ラヴェット 相原真理子訳 扶桑社ミステリー

 主人公の精神分析医のシルヴィア・ストレンジが服役囚ルーカスの精神鑑定を行っているニューメキシコの刑務所、そこでは囚人の指、腕、鼻などが切り取られる異常な事件が続く。犯人と言われるジャッカルの正体は不明、シルヴィアは刑務所捜査官ロージーと共に謎のジャッカルを追う…。

 著者はニューメキシコ刑務所でリサーチのために四ヶ月、法律補助・調査員として勤務。これがデビュー作らしい。事件の展開が判りにくく、その方向性がまるで見えない。文章も下手でストーリに乗れない。終わって観ればなんとなくストーリは納得出来るけど、まるで面白くはなかった。サイコサスペンスらしさは漂うけど、その面白さは無かった。
 「パトリシア・コーンウェルの再来」と呼ばれる割には、余りに陳腐な出来。


「オンデマンド出版の実力」
本とコンピュータ編集室編 トランスアート

 少量印刷のオンデマンド印刷システムに関する様々な話題を集めた本。インターネットとの組み合わせ、新しい出版システムとして興味があるので読んでみた。
 紙の消費、環境問題という視点、業界全体がオンデマンド出版の流れをどう見て考えているのかが判る。また、その困惑も判る。
 eBook Reader型の出版の対比などもされている。現在は混沌としているが、将来的な出版の形が劇的に変わる事は誰しもが確信している。
 「ぼくはオンライン古本屋のおやじさん」杉並北尾堂の北尾トロも著者の一人。

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「復讐の残響」
- Blind Bage - David Lorne
デイヴィッド・ローン 平田敬訳 新潮文庫

 「音の手がかり」の捜査中に別件で逮捕されたバリターノ、出所すぐに相棒を射殺した元巡査部長ジャノウスキー(前二作で活躍)を殺害。精神障害で殺人に何のためらいもないバリターノの罠は、ハーレックにも迫る…。
 
 こう次々と命をねらわれるハーレックという設定に無理がある。音響技師という設定はほとんど活かされず、面白くはあるけど平凡な物語になっている。シリーズを眺めて見ると、最初の「音に向かって撃て」だけが突出して面白く感じられ、他のは平凡。


「音に向かって撃て」
- Blind Man's Bluff - David Lorne
デイヴィッド・ローン 平田敬訳 新潮文庫

 「音の手がかり」の誘拐事件から一年後。服役中の誘拐犯の一人スタークが脱獄。元シールズ隊員のスタークがその技術を駆使して、スパイク、デビーを追いつめる。

 「音の手がかり」を読んだついでに、シリーズ三部作を読む事にする。復讐に燃える犯人のスタークからの視点、シールズの持つ技術、復讐の方法は面白いが「音の手がかり」」の味とはまるで違う。スパイク側の弱者が専門知識を活かして強者をうち負かすような面白さが失われている。それなりには面白いが、展開もやや雑。


「音の手がかり」☆
- Sight Unseen - David Lorne
デイヴィッド・ローン 平田敬訳 新潮文庫

 舞台は冬のシカゴ、撮影中の事故で失明した元音響技師のスパイク(ジャック・ハーレック)の姪のジェイニイが誘拐される。鋭い聴覚を持ったスパイクは電話のわずかな音の手がかりから犯人を追いつめていく…。

 10年近く前に一回読んだ。リーンカン・シリーズ「ボーン・コレクターを読んだ時に、障害(四肢麻痺-盲目)、女性の相棒(アメリア- デビー)、専門知識(科学捜査-音響分析)と共通点を感じた。今回、「エンプティー・チェア」を読んだ機会に本書を再読。ニ度目でも楽しめる。
 障害を乗り越える精神力、専門分野の知識、スリリングな展開、シカゴの冬の寒さという障害、敵の意外な強さなど、エンターテイメントな味付け満載。
 リンカーン・シリーズのような、しつこいどんでん返しは無いけど、やっぱり面白い。


「アンコール・ワット旅の雑学ノート」
樋口英夫 ダイヤモンド社

 いつかは行きたいアンコール・ワットの本なので読み始めたけど、一般の観光本とはちょっと違ったマニアックな視点で面白い。著者は現在カメラマンであるが、ネパール・トリヴヴァン国立大学でヒンドゥーの図像学を学んでいる。アンコール・ワットの遺跡を図形学、幾何学、天文、春分の日/秋分の日の日の出、浮き彫りの配置など様々な視点から見ている。行ったことないので、リアルに読めないのが残念。アンコール・ワットは是非とも行きたいので、直前にもう一度読みたい。
 さすがにカメラマンだけあって、写真は素晴らしい。

アンコール・ワット 旅の雑学ノート - 目次、写真など、ダイヤモンド社


「新解さんの謎」
赤瀬川源平 文春文庫

 前半は「新解さんの謎」で文芸春秋に連載されたもの、後半は「紙がみの消息」で「諸君!」に連載されたもの。
 「新解さんの謎」は、新明解国語辞典の表現のオカシサを追求したもので、辞書による路上観察学的視点で赤瀬川っぽくて笑える。やはり出だしの「恋愛-特定の異性に特別の感情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、できるなら合体したいという気持ちを持ちながら…」ってのが最高にオカシイ。
 「紙がみの消息」はチラシ、余白、写真のプリント、ファックス、雑誌、手帳と様々な紙絡みの話題。玉石混淆で、まあたいして面白くないかも。


「新版 今からわかるボケる人ボケない人」
フレディ松川 集英社文庫

 タイトル通りの内容。職業別、性格別、家庭環境別のボケる度合い、もし親がボケたら、ボケない為には何をすべきか、など。簡単に言えば、何事にも興味を持って、趣味を持って、欲を持って、体を動かして、頭を働かせてという事か。高齢化社会になって深刻な問題の割には、タブー視されている気がする。
 著者は老人病院である湘南長寿園病院の院長。


「暗号解読 ロゼッタストーンから量子暗号まで」
- The Code Book - Simon Singh
サイモン・シン 新潮社

 ノンフィクションとしてはかなりな評判。一般解説向けの本だと思って甘く考えていたが内容はかなり濃い。歴史を追って単転置式暗号、換字式暗号といった単純な暗号化の方法から、戦争と暗号の関係、ヴィジュネル暗号、エニグマ暗号、暗号と情報戦の時代、ヒエログリフ、線文字Bなど数多くの難解な古代文字の解読、そしてインターネット時代のRSA、PGPなどなど。歴史、戦争、文学、考古学、数学、言語学、コンピュータと広い分野に渡って暗号を語り、飽きさせる部分が無く、かつ判りやすい。非常に面白かった。
 この著者の「フェルマーの最終定理」もベストセラーになっているのだけど、是非読んでみたい。


「エンプティー・チェア」☆
- The Empty Chair - Jeffery Deaver
ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳 文藝春秋

 「ボーン・コレクター」「コフィン・ダンサー」に続くリンカーン・ライム・シリーズ第三弾。
 脊髄再生手術のためにノースカロライナを訪れたリンカーン・ライム、アメリアが女子大学生誘拐事件の捜査を依頼される。容疑者は16歳の少年ギャレット・ハンロン、昆虫好きの少年。広大な森の中の湿地帯を逃げる容疑者を追う…。

 最初の展開からは、想像もつかない方向へどんどん話が展開。飽きさせないストーリ運びが絶品。ラストに至ってはその目まぐるしさは極限状態。誰が敵で誰が味方か、しっかりストーリを捉えてないと振り落とされてしまうスピード感。面白い。
 前回、メチャかっこよかったローランド・ベルの従兄弟保安官ジム・ビルの依頼による事件。ニューヨークから一転、田舎町の南部の雰囲気ってのも面白い。


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