MIRACLE COMPILATION
 ローラ・ニーロの『GONNA TAKE A MIRACLE』はノーザン・ソウル、ドゥー・ワップ、ガール・ポップなどをカヴァーしたアルバムですが、カヴァーした曲のオリジナル・アーティストによるオリジナル・ヒットを聴こうと思えば、現在はアナログ盤を血眼になって探す苦労も無く、CDで気楽に聴くことが出来ます。私の場合は色んなジャンルのコンピレーションを買っている内に、その中にオリジナル・ヒットが入っていて、いつの間にか聴くことができるようになった、という訳であります。
 で、これらのカヴァーされたオリジナル・ヒットが収録されているコンピレーションは、やはりシミる曲が多く含まれています。そういう訳で、それらのコンピレーション盤を並べてみました。内容はオリジナルとカヴァーの聴き比べ、コンピの内容、その中のシミる曲をピック・アップ、といったもの。これらのコンピレーションを聴いていると、アメリカン・ポップスの流れを、多少なりとも感じることができると思います。

GONNA TAKE A MIRACLE ~SONG LIST
    TITLE ORIGINAL HIT ARTIST ISSUED

A
1 I MET HIM ON A SUNDAY THE SHIRELLES 58
  2 THE BELLS THE ORIGINALS 70
  3 MONKEY TIME MAJOR LANCE 63
    ~DANCING IN THE STREET MARTHA &THE VANDELLAS 65
  4 DESIREE THE CHARTS 57
  5 YOU REALLY GOT A HOLD ON ME THE MIRACLES 62

B
1 SPANISH HARLEM BEN E. KING 60
  2 JIMMY MACK MARTHA &THE VANDELLAS 67
  3 WIND THE JESTERS 60
  4 NO WHERE TO RUN MARTHA &THE VANDELLAS 66
  5 GONNA TAKE A MIRACLE THE ROYALETTES 65

Artist
V.A.

Title
The Girl Groups Volume2

Label/No.
Rhino/R2 70989

A1
 「WILL YOU LOVE ME TOMORROW?」のシレルズによるこの曲は、メンバーが一人ずつ1フレーズ歌ってコーラスの間いの手が入るというパターンをくり返しているので、ローラもラベルを紹介するにも好都合ということでこの曲を頭に持って来たと推測します。イントロのハンド・クラッピングはオリジナルも同じ。しかし、ただの古臭いポップと思って聴いていたこの曲の中に、ストリートの感覚が内包されていたとは、ローラのカヴァーを聴くまで思いもしなかったです。

<WHAT'S IN>
 THE ANGELS「MY BOY FRIENDS BACK」、LITTLE EVA「LOCO-MOTION」、THE COOKIES「CHAINS」など、58〜65年までのガール・ポップを18曲収録。キャロル・キング、エリー・グリニッジのガール・ポップ時代のシングルも。

<PICK UP>
THE HONEYS/THE ONE YOU CAN'T HAVE('64)

 後のブライアン・ウィルソン夫人になったマリリン・ウィルソンが在籍した姉妹&いとこの3人組グループ。この曲はブライアン・ウィルソン作詞作曲プロデュースとなっていますが、分厚いサックスが入るイントロ、ロールするドラムなど聴けば、目指したのは間違いなくスペクター・サウンド。しかし、そうしたバックとは裏腹にヴォーカルはクッキリと音像が浮かび上がっているのが、ブライアンオリジナルなサウンドで面白いです。まあ、そんなことより曲の格好良さはさすがブライアンと唸らされます。ブライアン・ミーツ・スペクター・ガール・ポップ。

ROBIN WARD/WONDERUL SUMMER('63)
 PERRY BOTKIN JR. &GIL GARFIELD作、プロデュース。波やカモメのSEも入っていたりしてそれなりの演出があるこの曲は、「じぇっとすとりーむ系」ガール・ポップの傑作。スローなテンポに被さるストリングス、コーラスが十分に浮遊感を醸し出しているのに更に止めを刺すかのように、ロビン・ワードの「魅惑の」という形容に相応しいハイ・トーン・ヴォイスが別次元の世界へ連れていってくれます。

Artist
V.A.

Title
HITSVILLE U.S.A. THE MOTOWN SINGLES COLLECTION 1959〜1971

Label/No.
Motown/374636312-2

A2
 オリジナルズによるオリジナル・ナンバー(言い回しがくどくて失礼)はスローながらもビートが効いている。ベースの音もかなりデカい。その上で繰り広げられる熱いコーラス・ワークが、シミてきます。

A3(の後半)
 この曲は、私の世代ではミック・ジャガーとデヴィット・ボウイのカヴァーで知った、という人が多いと思うのですが。私もそう。マーサ&ザ・ヴァンデラスのオリジナル・ヒットは古さを感じさせることなく、歌、演奏、これぞモータウンと感じさせるナンバー。ローラのカヴァーもオリジナルに準じたものになってます。

A5
 スモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズによるオリジナルは初期モータウンの曲のナンバーで、スモーキー・ロビンソン自身のヴォーカルは、のちのファルセットを効かせたすスムーズな感じではなく泣きの入った青臭さを感じさせるもの。

B2
 彼女達のナンバーとしては珍しく、リズムがかなりユルユル。なごみ系ナンバー。対するローラのカヴァーはタイトです。この曲、サンディー&ザ・サンセッツもカヴァーしてますが、シンセを多用したり、ボブ・クリアマウンテンのミックスだったりして80年代サウンドしてます。

B4
 歌詞の切実さがサウンド面にも現れているナンバー。マーサ&ザ・ヴァンデラスの場合、夜の街を彷徨っているイメージがあるけど、ローラの場合、地の底を縫うようにして逃げている印象を受けます。

<WHAT'S IN>
 時代を追って、代表曲を並べたヒット曲満載の4枚組ボックス。マスト。

<PICK UP>
 一つ挙げると全部挙げなければならなくなってしまうので省略。としたいが、今の気分でピック・アップ。

CAROLYN CRAWFORD/MY SMILE IS JUST A FROWN (TURNED UPSIDE DOWN)('64)
 このボックス収録曲としてはR&Bチャート39位と最も地味な部類に入るナンバー。スモーキー・ロビンソン作ですが、作者以上にミラクルズ的なサウンドを展開。そのハスキーなヴォーカルも雰囲気たっぷりで「スモーキー」ガール・ポップに仕上がってます。途中の「YEAH,YEAH」のかけ声がシミてきたりして。

SMOKEY ROBINSON & THE MIRACLES/MORE LOVE('67)
 モータウンのソフト&メロウな部分を担ってきたスモーキー・ロビンソン。その中でもかなり甘めのナンバーですが、イントロの地を這うようなベース・ラインからしてヤラてしまいます。それにかれのファルセットが来ればもうK.O.ってなんのこちゃ。味という部分を抜きにして、同じファルセットのカーティスと比べると、やはりスモーキー・ロビンソンの歌唱力には唸らされるものがある。

Artist
V.A.

Title
Okeh Soul

Label/No.
CBS/A 37321

A3(の前半)
 ホーンが派手でフレーズもコミカルに聴こえ、初めて聴いた時はダサいとしか思わなかったんですが、ローラのカヴァーを聴いた時はこんな格好イイ曲だったのか?と思い、メイジャー・ランスのを聴き直したら以前は何処を聴いていたんだ、と思うくらいその歌声がシミて聴こえて来ました。

<WHAT'S IN>
 シカゴのオケー・レーベルの60年代ソウルの24曲入りコンピ。メイジャー・ランス、ウォルター・ジャクソン、アーティスティックス、ヴァイブレイションズ、ビリー・バトラー&ジ・エンチャンターズ、オパールズの曲を収録。シカゴの名プロデューサー、カール・デイヴィスワークスといった内容。先にも触れたように、ホーン、ドラムを主に今聴くとコミカルに聴こえてしまう箇所も少なくないですが、歌に集中して聴くと味わい深いサウンドに聴こえて来ます。

<PICK UP>
MAJOR LANCE/DELELAH('63)

 メイジャー・ランスが初めて吹き込んだカーティス・メイフィールドの曲。時折ファルセットを効かせながら、さらっと歌ってますが、その押し付けがましくない歌い方に好印象を受けます。

Artist
V.A.

Title
The Doo Wop Box:101 Vocal Group Gems From The Golden Age Of Rock'N'Roll

Label/No.
Rhino/R2 71463

A4
 チャーツのこの曲は今から40年以上も前の録音とは思えない。瑞々しい歌声、サウンドに驚かされます。ローラ・ニーロとラベルの掛け合いはチャーツのヴァージョンより、更に道ばたで歌っている雰囲気を感じさせてくれます。ドゥー・ワップがストリート・ミュージックという事に今一つピンと来なかったのですが、ローラ・ニーロのカヴァーを聴いて納得。

B3
 これ、本当はノーラン・ストロング&ダイアブロスがオリジナルらしいです。ジェスターズもヒットさせているということでお許しを。感想は上の曲と同じです。

<WHAT'S IN>
 ドゥー・ワップばかり101曲も集めた4枚組ボックスセット。それまで聴いたことのない音楽と思って聴いていたら、フランキー・ライモン&ティーンエイジャーズの「WHY DO FOOLS FALL IN LOVE」など、私の大好きな映画「アメリカン・グラフィティー」(ジョージ・ルーカス監督、ロン・ハワード、リチャード・ドレイファス出演)に使われていた曲が多く収録されていたりして割とすんなり聴くことができます。

<PICK UP>
THE ORIOLES/CRYING IN THE CHAPEL('59)
 ドゥー・ワップと言えば真っ先に思い浮かべるのがこの曲。シミます、間違いなく。

 他の曲もシミるものばかり。一枚聴き始めると全部聴いてしまいます。

Artist
V.A.

Title
The Brill Building Sound Singers & Songwriters Who Rocked The '60's

Label/No.
ERA/5025-2

B1
 「スタンド・バイ・ミー」のベン・E・キングの歌うこの曲、リーバー&ストーラー作。スパニッシュと名が付いているだけあって、木琴とかでエキゾチズムを出していたりしてます。ベン・E・キングが強弱つけながら割と熱っぽく歌っている部分があるのに対し、ローラ・ニーロはテンポも落としてしっとりと歌っていまる感じがします。ローラのカヴァーでは、木琴の他にコンガやホーンで更にエキゾチズムを出している感じがします。

<WHAT'S IN>
 音楽出版社の集まったビルを名前に冠しているように、60年代(特に前半)に活躍したソングライターチーム(リーバー&ストーラー、セダカ&グリーンフィールド、ゴフィン&キング、マン&ウェイル、バリー&グリニッジなど)が作った曲を、なるべくオリジナル・アーティストのヒット・チューンを集めて編纂された4枚組ボックスセット。聴いたことがある曲も多いですが、丁寧な解説により一からアメリカン・ポップスを勉強するにもよい教材になります。前述のThe Girl Groups Volume2や後述のGrowin' Up Too Fastとダブる曲もありますが、どれか一つと言われれば迷わずコレ。

<PICK UP>
 この中で少し浮いた曲をピック・アップ。
THE HOLLIES/YES I WILL (I'LL BE TRUE TO YOU)('65)
 ゴフィン&タイトルマン作。イギリスのビート・グループのヒット曲は、アメリカの作家の曲が多かったりしますが、その中の一つ。泣きのメロディー、泣きのギター&泣きの完璧なコーラス・ワークと、これでもかと襲い掛かってくる胸キュン・サウンド。

THE TRADE WINDS/NEW YORK'S A LONELY TOWN('65)
 この覆面バンドの中心人物、アンダース&ポンシアも有名なソングライター・チームだったりする訳ですが、この曲はバリー&グリニッジによるものでこのグループのファースト・シングル。これもコーラス・ワークが素晴らしい。スペクター・サウンドっぽいですが、スペクターのそれと比べてボトムが軽く、とても爽やかな印象を受けます。ソフト・ロック。 

Artist
V.A.

Title
Growin' Up Too Fast:The Girl Group Anthology

Label/No.
Mercury/314 528 171-2

 B5
 今やソフト・ロック界の雄、テディ・ランダッツオの手掛けたロイヤレッツ。歌、バック共にエコーが深ーく掛かっていて、スピーカーの間の奥の壁が無くなったんじゃないかと思うくらいです。ドゥー・ワップをストリングスを中心にデコレイトした浮遊感漂う雰囲気はクール&ゴージャス。ローラのカヴァーもオリジナルに比較的近い音作りです。

<WHAT'S IN>
 タイトル通りの、魅惑の60年代ガール・ポップのアンゾロジー、2枚組50曲収録。ガールポップの王道と言えるPOLYGRAM系(マーキュリー、MGM、スマッシュ、フィリップス、レッド・バード、20thフォックスなど)のアーティスト(コニー・フランシス、エンジェルス、レスリー・ゴーア、シャングリラス、パリス・シスターズ、ダスティ・スプリングフィールドなど)を集めており、甘美な60年代ポップスの甘美な部分を満喫できる内容になっています。製作陣は当然プロフェッショナルな方々なのですが、クレジットを見てるとソフト・ロック、70年代ソウル等で憶えた、テディ・ランダッツオ、ヴァン・マッコイ、クインシー・ジョーンズ、ボブ・クルーの名前が。ソングライターはお馴染みのエリー・グリニッジ&ジェフ・バリー、ジョージ・モートン、ゴフィン&キングなど、知らない人もたくさん(笑)。

<PICK UP>
HONEY BEES/SHE DON'T DESERVE YOU('64)

 ゴフィン&タイトルマン作、プロデュースにはキャロル・キングも加わっている。切ないメロディーにイントロのピアノ、ヴォーカル、コーラスすべてがアンニュイな雰囲気。一聴すると、それをぶち壊すかのような間奏のブロウするサックス・ソロも哀感を増してくれる。

LESLEY GORE/MAY BE I KNOW('64)
 グリニッジ&バリー作、クインシー・ジョーンズプロデュース。これは中学生の頃から聴いていた曲ですが、その頃は誰が製作したかなんて気にもしなかった。作った人が、まさか「ウィー・アー・ザ・ワールド」と同じなんて。エリー・グリニッジのどこか影のあるメロディー・ラインをさらっと歌うレスリー・ゴーアのヴォーカル、これにコンパクトにまとまったバックのサウンドが合わさって、「コクはあるけどキレもある」ガール・ポップに仕上がってます。彼女自身のオーヴァー・ダビングによるハモりがビシッと決まっていて、気持ちよくそこら辺も聴きものの一つ。フィル・スペクターが物量を投じて音に厚みを出しているとするなら、クインシーはアンサンブルで音圧を作り出しているといった印象。

KENNI WOODS/CAN'T HE TAKE A HINT?('63)
 ALLEN DAVIS作。ドゥー・ワップタイプのガール・ポップ。ハスキーなヴォーカルにコーラスが絡んだり、高いキーのピアノが絡んだりしてジワジワ曲をひんやり&暖かく包み込む。クール&ウォームなガール・ポップ。

CONNIE FRANCIS/DON'T EVER LEAVE ME('64)
 グリニッジ&バリー作。8ビートをストイックに刻むドラムのローファイ感がなんともシミてくる。ひとりユニゾンのコニー・フランシスのやや泣きの入ったヴォーカルもバックのローファイなサウンドにマッチしている。ナロウ&ローファイ・ガール・ポップ。

THE SHANGRI-LAS/FOOTSTEPS ON THE ROOF('67)
 SAL TRIMACHI/RICHIE CORDELL作曲、SHADOW MORTONプロデュース。
 シャングリラスというと、なぜか大映テレビの 世界を思い浮かべてしまうのですが。ちょっと悪そうな人達に人気があったんじゃないかと想像します。この曲はそんな彼女達のラスト・シングル。が、これは「ガール・ポップをフォーキー&グルーヴィーにしたら」という問いに答えるようなグルーヴィ・ガール・ポップの大傑作。ジェリー・ロスとモータウンとメンフィスのアメリカン・スタジオを合体させたようなサウンドを展開してます。


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