'80s ROCK
 リアルタイムで聴き始めたのは、この頃の音楽。それにしてもこの頃聴いた音楽というのは本当、中身をよく憶えているもんで、聴かなくても頭の中に埋め込まれている感じがします。また、後になって聴いた80年代の音楽も何故か懐かしさを感じさせます。わたしにとっての根っこにあたる音楽と言えます。

 FAVORITE

Artist
DONALD FAGEN

Title
THE NIGHTFLY

Label/No.
ワーナー/20P2-2041=CD

 ドナルド・フェイゲンのいたスティーリー・ダンのサウンドは、相棒ウォルター・ベッカーと共に、とにかく完璧を求めるもの。アルバム作りを重ねるにつれて、バンドのメンバー以外にスタジオ・ミュージシャンを雇ったりしはじめ、しまいには曲を作る自分達以外は全て腕利きのスタジオ・ミュージシャンを固め、しかも同じパートを複数のミュージシャンに演奏させ、その中からよい演奏をピック・アップしてバックのトラックを埋めていきサウンドを完成させると言いう、とにかく贅沢なレコードの作り方。その結果、『AJA』という一つの完成形を生み出した訳ですが。いざ、バックに完璧なサウンドを作り上げてしまった結果、フェイゲンの歌の弱さがいかにも座りが悪く、バランスを欠くことになってしまい、評論家からはそこを突かれることに。

 しかし、その歌とサウンドのバランスの悪さは、次作以降のサウンドの作りから、フェイゲン自身が一番分かっていたんじゃないかと思います。次作『ガウチョ』では『AJA』のように、バック陣の演奏を「これは誰々のプレイだぜい」みたいな、その個性を見せびらかす感じがせず、カラオケ的な匿名性の高い演奏になっています。あくまでフェイゲンの歌の引き立て役に回しているような。最も顕著なのはゲストのダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーのギター・プレイの入れ方で、ヴィヴラートを効かせた非常に個性的な演奏なのに、スピーカーの奥の方でかすかに聴こえる、という程度のあくまで歌とのバランスを考えた取り入れ方になっています。

 そして、歌と演奏とのバランス、という事をも考慮に入れ、その上での完璧なサウンドが実体となって現れたのが、このソロ第1作『ナイトフライ』ということになるのだと思います。

 『AJA』のバックと比べると、そのサウンドには不純物を一切除いた、純度トゥエルヴ・ナインのシリコン・ウエハー(ICチップの原料)を連想させ、余りにもの余計なものが入っていない為、サウンドに「うすさ」すら感じさせるものです。そして演奏の匿名性はさらに高まっています。というか今なら、この程度のバックトラック、打ち込みで出来るんじゃ無いかと思ったりもします。もちろん、そのサウンドを作り出す才能があることが大前提ですが。

 バックのミュージシャンの個性の切り捨てには、ドラムを例にとると、まず演奏してもらい、その後バラついているテンポを機械で同じ間隔に近付けるという、シーケンサーでの「クオンタイズ」的な事までやっていたみたいです(今手許にないのですがサウンド&レコーディングマガジンの特集でエンジニアのロジャー・ニコルズ(同名の作曲家とは別人物)がインタビューに答えています)。宅録派がリズムマシンに打ち込んだテンポを、少しずらしてグルーヴを出すということをやってるのとは正反対のことをして、同じようなサウンドを得ようとしていたということになります。先入観の無い人にこのアルバムを聴いてもらって、ジャンルを答えてもらうと、「テクノポップ」と答える人が多数じゃないかしらん。

 そうして出来上がったサウンドは、苦労した甲斐があって、彼の歌とも上手く解け合って、古さとか新しさを超越した、完璧なサウンドで、これには誰も文句の付けようがないんじゃないかと思います。「IGY」、「グリーンフラワー・ストリート」、「ニュー・フロンティア」など大、大、大好き。

 あと、余談ですが人間味を感じさせないバックの演奏の中で、最も人間味を残したと思えるミュージシャンの演奏は、最後の曲のウィル・リーの何でも無い4ビートのルートを押さえただけのベース・プレイ。しかし、この曲を最後に聴くと何故かホッとします。

Artist
STEVE WINWOOD

Title
ARC OF A DIVER

Label/No.
ISLAND/422-842 365-2=CD
  スペンサー・デイヴィス・グループ、ブラインド・フェイス、トラフィックと60年代からブリテッシュ・ロックのトップ・シーンを歩み続けてきた、ステーヴ・ウィンウッドのソロ2枚目にあたるこのアルバムは、80年作。このアルバムを聴いたのは、90年代に入ってからで、ソフトロックとか60、70年代のソフィスティケイトされた音楽を聴きまくっていた時期なので、このアナログ・シンセをリード楽器にして、ガンガン目立たせているアレンジを非常にダサく感じ、積極的には聴くことはありませんでした。しかし、それでもせっかく買ったのだからと、何度か取り出して聴いている内に、曲の格好良さに先ず惹かれて、その後も聴き進めるうちにサウンドも含めた全部を格好良く感じるようになりました。
 だんだん格好良く感じるようになったのは、アル・クーパーの時と同じように、ブラック・ミュージックを聴き始めたことによって、彼のソウルフルな歌、曲作りに気付くようになったからだと思います。私にとってのこのアルバムの位置付けは、80年代のブルーアイド・ソウルの名盤といったところになります。
 ドラム以外のパートを彼自身がプレイしている、宅録的なつくりのアルバムで、最初ダサいと感じていたシンセの音色も時代がひと回りした為か、これはこれで有りだな、と思えるようになってきました。あと、硬質なリズム隊も、打ち込みで出来そうな事を人力でやっていて、今聴くと画一的なプレイの中にも、ゆれを感じたりして、面白味を感じさせます(→「second-handed woman」、「night train」のドラムとベースのタイトなプレイ)。
 このアルバムでどうしても何か一つ欠点を挙げろと言われたら、そのあまりにも上手すぎて、どんなにバックに面白味を感じても、それをかき消してしまう「歌」ということになるかも。ドナルド・フェイゲンの場合と反対です。私は彼の歌は好きだからそんなこと思わないけど、嫌いな人にはそう感じるんじゃないかと思います。

Artist
THE CARS

Title
HEART BEAT CITY

Label/No.
エレクトラ ワーナー・パイオニア/20P2-2429=CD

 カーズのこの84年作の彼等にとって5枚目にあたるアルバムは、「ユー・マイト・シンク」聴きたさに買って、買った当時は「ユー・マイト・シンク」ばっかり聴いていました。当時、学生時代のドラマーだった友人は「このグループのドラマーが可哀想」などと言っていた様な記憶があります。その意は「簡単で単調なプレイを強要されている」ということだったのですが、この事はドラムに限ったことではなく、ギター、ベース、キーボード全てに渡って言えることで、そう言われれば確かにその通りの「テクニックを必要としない」サウンドです。それをいい方に取れば「パンク、ニュー・ウェイヴの精神を発展消化し、親しみやすいポップなサウンドを作り上げた」と言えるかも。しかし、そんな単調なプレイを組み合わせて、ここまでのサウンドを作り上げる彼等はやはりただ者じゃ無く凄みすら感じさせます。シロウト臭くもありながら、クロウトっぽくもあると言う、そんな曲ばかりの彼等ですが、何故か私は当時も今も大好き。

 このアルバムからプロデューサーがロイ・トーマス・ベイカーからジョン”マット”ランジに替わっていますが、何処かコミカルで何処か哀愁を感じさせ、しかし格好良さも感じさせるという、そのカーズ節は健在で、1曲目「ハロー・アゲイン」から単調なリズム、シンセのリフなどイイと思う人には溜まらん内容で、今では、「ユー・マイト・シンク」に限らず、アルバム通して聴いています。「ドライヴ」なんか車の中で聴くとボロ車の中もビロードで被われた様なゴージャスでフワフワした雰囲気に変えてくれます。グルーヴィー・テクノポップ・バラードの名曲。

Artist
ROXY MUSIC

Title
FLESH AND BLOOD

Label/No.
REPRISE/9 26075-2

 リーダー=ブライアン・フェリーのR&Bをベースにしたポップスの編集感覚は個人的には好みで、このアルバムのウィルソン・ピケットの「ミッドナイト・アワー」やバーズの「霧の8マイル」のカヴァーは、オリジナルよりいいんじゃないかと思う程。特に「霧の8マイル」のバーズのオリジナルは、発表当時は最新のスペース・ロックだったんでしょうけど、今聴くと、チープさショボさしか感じさせないのに対し、ロキシーのカヴァーはディスコ的強靱なリズムを取り入れ、原曲の良さを生かしながら今聴いても古さを感じさせない、格好いいカヴァーに仕上げています。
 オリジナルの中でもキャッチーな「オーヴァー・ユー」、ディスコ・ロックな「セイム・オールド・シーン」、スローでイントロのギターが痺れる「オー・イェー」、次作(ラスト・アルバム)『アヴァロン』的に退廃の匂いがプンプンするタイトル曲など魅力的な曲がめじろ押し。

 捨て曲がなく、ポップな仕上がりになっていますが、全体的な印象はソウル+ディスコ+スパイスにニュー・ウェイヴ、とある意味、80年前後のあらゆる流行りモノを取り入れたようなサウンドは「大人のデュラン・デュラン」といったところか。
 フィル・マンザネラのギターのデリケイトなプレイ&ディレイの掛け方とか、アンディ・マッケイのホーンのプレイも必然を感じさせるもので、このサウンドの一体感は彼等のピークと思ったりもして。

<追記>
 私は中高生時代、購読していた音楽雑誌はFMレコパルFMファン。大学時代はステレオ・サウンドも読んでいました。要は音楽ファンと同時にオーデイオ・ファンでありました。総額1000万位のオーディオ・システムを夢見て、バイトして購入した実際のシステムは購入価格60万くらいですが、今にして思えばそれでもクレイジー。
 そんなシステムが家にやってきた日、最初に聴いたCDはロキシー・ミュージックの『アヴァロン』。その後、いろいろなCDを聴いたけど、ロックのアルバム聴いてハイ・ファイ的に「音がいいなあ」と思うのは、ピンク・フロイドの『狂気』以降と、カウボーイ・ジャンキーズ、そして、ロキシーの『アヴァロン』とこの『フレッシュ・アンド・ブラッド』。

 ミックスは当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあったボブ・クリアマウンテン。ストーンズの『刺青の男』とか、インエクセスの『キック』もミックスしていたりしますが、ロキシーでの繊細かつ鋭さのあるミックスは彼の仕事の中でも最高の部類に入るんじゃ無いかと思います。

Artist
DIRE STRAITS

Title
BROTHERS IN ARMS

Label/No.
VERTIGO/824499-2=CD
 リアルタイムでこれほど聴いたアルバムは今のところ他にない85年作のアルバム。ここ3、4年は聴いてすらいませんが、聴かなくても中身は分かってる、もういい、というくらい聴きまくりました。
 このアルバムに入っている「マネー・フォー・ナッシング」はMTV大賞を受賞していますが。それまではカーズ、デュラン・デュラン、マドンナ、マイケル・ジャクソンなどのクリップが目立ってましたが、この頃になると、ダイア・ストレイツみたいな、一番縁遠いと思われる人達まで含めて、プロモビデオ作りに乗り出し、総MTV化していたような気がします。
 そうした時代にそのビデオクリップを見る前に買ってしまったこのアルバムですが、その「マネー・フォー・ナッシング」では、それまで知らなかった、ギターのリフというものの格好良さを教えてもらいました(スティングもコーラスで参加)。リーダー=マーク・ノップラーのギターはここでも冴えているのですが、全体的にポップな味付け(特にアナログでA面に当たる部分)。ベースの印象的なフレーズから始める1曲目「君にさよなら」、オルガンリフがほのぼのさせる3曲目「ウォーク・オブ・ライフ」などは、80年代的「癒し系」音楽と言えるかも。
 音もソリッドでありながら、うすーいエコーがもやーっと掛かっている感じで、いかにも85年作といッた感じです。エンジニアはニール・ドーフスマン。

Artist
PAUL McCARTNEY

Title
FLOWERS IN THE DIRT

Label/No.
CAPITOL/CDP7916532=CD

 80年代のイギリスのポップス職人としてはXTCのアンディ・パートリッジ、エルヴィス・コステロ、トレヴァー・ホーン、ワム!のジョージ・マイケルなどなど。そんな中、89年に発表されたポール・マッカートニーのこのアルバムは、そのメロディー・センス、アレンジの面白さなど、「始祖」でありながらバリバリの「現役」であることを見せつけられます。

 プロデューサーをポール本人、エルヴィス・コステロ(曲つくりにも参加)、トレヴァー・ホーンミッチェル・フルームデヴィッド・フォスターニール・ドーフスマンジョージ・マーティンスティーヴ・リプソンを使い分け(1曲で複数の人物の場合も)、目くるめくポップ・ワールドを展開。曲によってプロデューサーが違う、ということで、その曲、その曲毎にサウンドは当然違うのですが、不思議と散漫な印象はありません。個性の違う人達を自分のサウンドに上手く取り入れているような感じがします。ここらへんはビートルズ時代からの、ポールの人の使い方のうまさを再認識させるものです。

 ポールらしいベースのフレーズとBメロの畳み掛けるようなメロディが痺れる「マイ・ブレーヴ・フェイス」、パワーポップ的なサウンドの「フィガー・オブ・エイト」、この人にしか作れないメロディーをそのまま出したような「プット・イット・ゼア」など、今でも結構イイというか。当時より格好イイと思えるようになってきました。XTC好きなひとなんかに特に聴いてもらいたいアルバムです。

Artist
TALKING HEADS

Title
REMAIN IN LIGHT

Label/No.
SIRE/6095-2=CD
 評論家の方々からも評価の高い、このトーキング・ヘッズのアルバム。そういう評判をきいて発表後、8年くらい経ってから初めてこのアルバムを聴いてみたときは「?」。いまも「?」だったりしますが。
 Pファンクのミュージシャンも参加してたりするのですが、個人的にはアメリカのブラック・ミュージック臭さを感じず、それを飛び越えて、インテリが、いきなりアフリカにぶつかって行ったらこうなった、みたいな音楽に聴こえます。化学反応が起こって、火花が散っているところをそのままレコードの溝に刻み込んだ、といったような。1メロで延々押し続ける曲が多いのも、そうした印象を強くさせているのかも。
 上手く説明できませんが、1度は聴いてみて損はないアルバムと思います。

Artist
THE POLICE

Title
SYNCHRONICITY

Label/No.
A&M/SP-3735=LP

 80年代のアルバムで1枚を選べ、と問われると難しいけどこれかな、と思う83年作のこのアルバム。

 私にとって、ポリスの魅力はステュワート・コープランドのとにかく突っ走るドラム・プレイとそのスネアの音、アンディー・サマーズの糸をひいたようなギター・プレイとエフェクトの掛け方の2つなのですが、こと、このアルバムになるとそれにスティングのソングライティングの魅力も加わって、80年代ロックの金字塔と言えるサウンドを展開しています。

 スピード感、緊張感みなぎる「シンクロニシティ」から、ミディアム・テンポでギターのフレーズもいぶし銀的で格好良いポップ・ナンバー「見つめていたい」、ステイングのメロディ・センスとバンドの能力の高さが見事に合わさって聴き手に襲い掛かってくる「キング・オブ・ペイン」、そしてスティング自身のソロ作に入れてもいいような(もうバンドとしてやる必要の無さそうな)美しい曲「サハラ砂漠でお茶を」まで、聴き手に緊張感を与えながらも、同時に癒し効果も感じられるアルバムです。

Artist
SYINDI LAUPER

Title
SHE'S SO UNUSUAL

Label/No.
エピック ソニー/ESCA 5477
 ここに入っている「ハイスクールはダンステリア」(しかし、再発CDでは原題をカタカナ表記しているのは何故?そんなに恥ずかしいのか?)は本当よく聴いたポップ・ナンバー。シンセを多用したタテのり的で、シンプルなアレンジのバックトラックに、ロックン・ロール魂溢れるシンディー・ローパーのヴォーカルがのかったこの曲を聴くと、当時も今もグッと汲み上げてくるものを感じます。1曲目の「マネー・チェンジ・エヴリシング」も同様な曲で、歌詞の内容もメッセージ色が強くポップな中にも切実感を感じさせるもので、聴き応えのあるナンバー。このアルバムを出した頃のシンディ・ローパーは本当に光り輝いて見えました。83年作。

Artist
VARIOUS ARTISTS

Title
NEW WAVE HITS OF THE '80s,VOL6

Label/No.
RHINO/R2 71699
 ライノによるこのコンピレーションは、文字通りの80年代のニュー・ウェイヴ系の曲を集めたもので、私が確認している範囲ではVOL.15まであります。バーゲン時にVOL.7以外はまとめ買いしましたが、聴こうと思っても、アルバムまで買う気のしないアーティストの曲、タイトルは知っていても聴いたことの無かった曲を気楽に聴けて非常に便利。しかも、メジャーどころは勿論、チャートにも出てこなかったアーティストの曲も入っていたりして、聞き所多数あり。80年代を追体験するには絶好のコンピと言えます。

 このVOL.6を例にあげると、カルチャー・クラブ「君は完璧さ」ABC「ルック・オブ・ラブ」などのお馴染みのヒット曲から、キャプテン・センシブル、X、チャーチ・チャーチ等、のややマニアックなところ、などが混在してます。THE A's「WOMAN 'S GOT THE POWER」は全く知らないアーティスト、曲ですが、スプリングスティーンばりの男臭いヴォーカルは、チョットひくものの、ループ感あるギターのフレーズが格好いいパワー・ポップで、嬉しい発見でした。

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