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 先ずアルフレッド・ヒッチコックから。

 この人の作った映画は、本当に3拍子揃っていて、例えば「北北西に進路とれ」などは、もうそのシナリオの巧さにはハラハラさせられっぱなしで、次から次へと業界マン役のケイリー・グラントに襲い掛かってくる災難に、「この危機を突破できるのか」と常に思わせます。映像に関しても、犯人に誘き寄せられた主人公が、畑の真ん中に通る道に一人ぽつんと立ち尽くしているのを、高い場所から写しているシーンなんて、その映像を観るだけで、客に「次に絶対何か起こる」と不安な気持ちにさせるのに十分過ぎると思います。しかも、その道に先ず車を数台通らせて、ハラハラさせ、何事もなかったと思ったのもつかの間、飛行機で襲撃してくるシーンは圧巻。また、ラシュモア山(初期のアメリカ大統領の顔が断崖に彫り込まれている山=ディープ・パープルのアルバム『イン・ロック』のジャケットはこのラシュモア山のパロディー)のクライマックスでの犯人との格闘などもその絶壁を利用したスリルある映像はもう唸るしかないと、いったもの。

 そして、ケイリー・グラントの二枚目半の魅力的な演技は本当コミカルで面白いし、敵か味方か分からない謎の女(ボンド・ガールのはしりみたいなもん?)の役のエヴァ・マリー・セイントのこの映画での美しさはまた格別で、彼女だけ観ていても金払う価値があるくらいです。

 女優を美しく撮るということでは、本当、このひとに適う監督はいないんじゃないかと、マジで思います。「裏窓」「ダイヤルMを回せ」「泥棒成金」グレース・ケリー「鳥」ティッピ・ヘドレン「めまい」キム・ノバクなど、その趣味もいいと思いますが、多分、本物の数倍綺麗に撮ってるんじゃ無いかと思います。本当、役者が魅力的に撮られているなあ、と観ていてつくづく思います。

 男優の場合でも、「裏窓」ジェームス・ステュワートなんてこの時すでに、かなり歳いってると思いますが、それはそれなりに魅力的に見せて、グレース・ケリーが恋人役でも違和感を感じませんし。「断崖」ケイリー・グラントの危なっかしい男の演技も印象深いものがあります。とにかく、ヒッチコックの映画の中では役者が光り輝いて見えてくる印象が深いです。


 続いてハワード・ホークス

 わたしが初めて観たこの監督の作品は、中学生のころ(この頃ハワード・ホークスなんて名前は知りませんでした)、ゴールデン洋画劇場での西部劇「リオ・ブラボー」だッたと思います。彼の作品の中ではもう、全盛期(40年代)とは少し離れた、59年の作品ですが、主演のジョン・ウェインの保安官役は観ていて頼もしい限りに撮られていますし、相棒のアル中役の喜劇役者=ディーン・マーティンも中々渋い演技をみせていて、筋も勧善懲悪のありがちなものでありながら、様々なプロットもフックになって飽きさせず、「西部劇も面白いなあ」と、思わせたものでした。まあ、ハワード・ホークス自身こんな映画を撮るのは朝飯前といったところだったようで、同じ頃「エル・ドラド」ともう1本、似たような、でも面白い映画を次々に撮っています。

 先程も述べたように、ハワード・ホークスの全盛は40年代で、この頃には夥しい数の映画を撮っているみたいですが、その頃を中心に「ヒズ・ガール・フライデー」「赤ちゃん教育」「3つ数えろ」「赤い河」「紳士は金髪がお好き」「教授と美女」など傑作がずらりといったところで、他にも幾らでも有る筈です。

 西部劇では「赤い河」(ジョン・ウェイン主演、牛の大移動の映像が凄まじい)、

 コメディでは「紳士は金髪がお好き」ジェーン・ラッセルマリリン・モンロー共演という、男なら監督してみたいという顔ぶれであるが、彼はそんな男達の欲望を代表して、ジェーン・ラッセルをドレスを着たままプールに落としたり、マリリン・モンローには、マドンナが「マテリアル・ガール」のビデオ・クリップでパクった事で有名な、「ダイアモンドは女のベストフレンド」を歌わせてその魅力をたっぷりと写し出しており、その欲望に見事に応えている)、

 ハードボイルドでは「3つ数えろ」(ここでのハンフリー・ボガードの台詞は非常に早口で、また話の展開が早くて色んな意味で目が離せない。ローレン・バコールもちょっと悪い女を好演。最後の「3つ数える」シーンは圧巻)

 などが好みですが、「ハタリ」のアクションとコメディーを無理矢理くッ付けたような強引さも捨てがたいし、「教授と美女」バーバラ・スタンウィックの美女振りもなかなか面白いです。

 というか、この監督の映画が面白くなかったら、映画自体が好きじゃないんじゃないかと思います。筋は色んなプロットがあって飽きませんし、映像はこれぞハリウッド、といった豪快で、役者もそれぞれの持ち味を引き出していて、光り輝いて見えますし。

 こんな日記を付けている要因のひとつに、現在東京で「ハワード・ホークス映画祭」が催されていて、久々に映画みたいなあと思ったりもしたからだったりします。



 「ハリウッドの全盛時代は30〜40年代」と書いてあったりする書物もあり、その頃の映画を観たことの極めて少ない私にとっちゃ、首を傾げるだけでしたが、エルンスト・ルビッチ監督の作品を観るに付け、さもありなん、と思ったりもします。と、言っても私が観たのは「極楽特急」「生活の設計」「生きるべきか死ぬべきか」「天国は待ってくれる」の4本だけですが。

 最初に観たのは42年作品の「生きるべきか、死ぬべきか」で、場所は下高井戸の映画館でしたが、その目くるめくストーリー展開、ルビッチのお家芸と言える「扉」を使った、演出のマジック、ジャック・ベニーキャロル・ロンバート(彼女はこの作品が遺作となってしまった)の瑞々しい演技にも時代を超える魅力があり、観終わった後、もう娯楽作品としてはこれ以上のものはないんじゃないかと思ったものでした。そして、この気持ちは今も変わりません。

で、「生きるべきか死ぬべきか」の中身ですが、初めて観た当時の日記に記してあったので、さわりを書き出すと、

 街を映すショット、店の看板を映すと〜スキー、〜スキー、と〜スキーだらけで、これで舞台はポーランド(ワルシャワ)であることを明示する。

 そして、時は39年7月(だったか?)とにかくドイツ軍のポーランド侵攻前だが、ワルシャワの町中に突然ヒトラーが現れる。結局これは偽物であるのだが、反ナチ的な演劇を行おうとして練習している時、ヒトラー役が仲間から似ていないと言われ、ムキになって、どれだけ似ているか街に出て確かめるという行動に出たことから起こったこと(大人達は驚いて、このヒトラー役の俳優を取り囲んでいるが、、子供がその俳優の名前を呼んで、サインを求めるというオチがつく)。

 結局、政治的圧力から、この反ナチ演劇は公演中止となり、ヒトラー役の男はがっかりする。そして、これにかわって「ハムレット」が公演されるが、主演女優マリア・トゥラ(キャロル・ロンバード)に3日続けて差出人不明の花が届く。しばらくして手紙が届き、若い空軍中尉であることが分かる。彼女には俳優の夫(ジャック・ベニー)がおり、同じく「ハムレット」に出演している。が、空軍中尉に会いたい彼女は、夫が有名なセリフ「生きるべきか、死ぬべきか、、、」を語り出し、自分は舞台から一度引っ込む場面で、楽屋に来るように手紙を書く。案の定「生きるべきか、死ぬべきか、、」と始まると、それまで客席から舞台を観ていた空軍中尉は席を外すが、それをみて夫の方はショックを受ける。

 逢い引きする二人は、話が弾み、彼の飛行機に乗せてもらうことを約束して別れる。次の日も「生きるべきか、、」の場面で空軍中尉は席を立ち、楽屋へ向かいマリアと会うが、この際、空軍中尉は結婚話を持ちかけ、マリアを動揺させる。この日も、客に席を立たれ失意の内に楽屋へ夫が戻ってきたところで、ワルシャワはドイツ軍の空襲を受ける。

 といった具合に、テンポ良く話しが進行していき、セリフ、シャレも洗練させていて、最後まで緩むことがなく、これぞハリウッドと言った感を私に抱かせました。



 フレッド・ジンネマン監督は、その端正な語り口が魅力で、「ここより永遠に」「真昼の決闘」「ジャッカルの日」と私が観た作品はどれも緊張感が最初から最後まで揺るぎなく持続し、映画のシーンの空気も伝わってくるような、リアルなつくりが特徴と言えます。

 「ここより永遠に」なら、太平洋戦争の真珠湾攻撃前までのアメリカ兵の葛藤を描き、「真昼の決闘」では正午の列車で帰ってくる悪党を迎え撃つ、引退するはずだった保安官(=ゲーリー・クーパー)の葛藤を描き、「ジャッカルの日」では、屋外の公式の式典に出席するド・ゴール大統領の暗殺を請け負ったスナイパーのその綿密な行動と、それを迎え撃つ仏警察の攻防を追ったもの、という具合に、どの作品も時間制限があるのですが、そういう作品が監督自身好きなのかなあ、と思ったりもします。

 同時代のハリウッドの監督と違って、登場人物に人間臭さが溢れていて、ヨーロッパの映画に近い感触。



 ジョージ・ロイ・ヒル監督はこれまでに述べてきた監督よりずっと後の世代で、所謂ニュー・シネマの時代の監督です。ニュー・シネマ自体、わたしはどちらかというと苦手で、「イージー・ライダー」なんか、ジャック・ニコルソンのアメフトのヘルメット被った格好が面白かったというぐらいで、何処が名作なのか未だに理解不能なのですが(わざわざスバル座までお金払って観に行ったのでその感は非常に強い(笑))、ジョージ・ロイ・ヒル監督は、ハリウッドの伝統を受け継ぎながら、新しい感覚も取り入れて独自の映像世界を作っているという印象を受けます。そんな訳で、ニュー・シネマの代表ながら、この監督の作品は好き。

 「明日に向かって撃て」「スティング」「素晴らしきヒコーキ野郎」といった作品の主人公たちも何処か、時代に遅れてきた感じの人達で、監督自身の境遇と似たところがあり、その切なさ感は作品の主人公達に乗り移っている印象があります。この作品群に出演している、ロバート・レッドフォードの格好良さというのも、格別で彼を観るだけで、これらの作品を観る値打ちがあるとも思います。

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