縦ノリ、横ノリ

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僕のビートルズ論ではポールが右脳でジョンが左脳ということになるのだが、ポールとジョンは聴覚の人と視覚の人という対比もできる。ジョンは高校卒業後、Liverpool College of Artという美術学校に進んでおり、視覚の人だと考えられる。音楽は聴覚の芸術だが、視覚の人がやる音楽では聴覚と視覚を結び付ける言語が重要になり、詞の意味が重視される。一方、聴覚の人の詞は言葉の響きが重要である。

ミュージシャンや音楽スタイルには聴覚系と視覚系がある。見た目で言うと、聴覚系のミュージシャンは普段着に近い格好で演奏するのに対して、視覚系はいかにもステージ衣装という派手な格好をする。ヘビメタやパンクがその典型で、ポップでも舞台装置が派手な場合は視覚系。

視覚系であるか聴覚系であるかの違いは、もちろん音楽そのものにも表われる。それが「たてノリ」「よこノリ」と呼ばれるノリの違いである。音楽は時間軸に沿って展開するものだが、視覚系の場合は時間を切り取る方向、つまり「一瞬」の意識が強調される。時間を一瞬の積み重ねで表現しようとするので、拍のオモテにアクセントがつきがちで、全体として緊張感がある。それが「たてノリ」だ。「たてノリ」の音楽の聴衆は首を縦に振ったり、その場でジャンプしたりするから「たてノリ」という。一方、聴覚系は時間方向の流れを重視するので、拍のウラにアクセントがきたりして、なめらかなノリになる。聴く側は身体を水平方向に揺らしたくなる。それが「よこノリ」。

ビートルズの初期の曲はジョンとポールの合作が多く、パートごとにボーカルの代わる曲では歌っている方がその部分を作ったようだ。その場合、たいていジョンのパートは緊迫感があり、ポールのパートはゆったりとした感じになる。(例えば「A hard day's night」、「 We can work it out」等)。つまりジョンの「たてノリ」とポールの「よこノリ」が緩急を作り出しているところが、ビートルズの曲の魅力のヒミツなのかもしれない。

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