ビートルズ論

→ 音楽とは何か

ビートルズの曲の中で誰でも知っている有名な曲というのは、イエスタデイ、ヘイ・ジュード、レット・イット・ビーなどたいてい(左利きの)ポールが作曲している。そして、これらの曲はロックの範疇にとどまらず音楽として高く評価されている。つまり、ポールは純粋な音楽的才能があり、右脳的なのである。

ジョンはイマジンなどの社会的なメッセージ、ルーシー・イン・ザ・スカイ…などのサイケデリックな世界、カム・トゥゲザーなどのナンセンス、というような詞で有名だ。ジョンは言語的な才能を発揮したのであり、左脳的だといえる。

リンゴのドラムは技術的に難しいことをしているわけではないが、真似のできないノリを持っている。音楽の基本はリズムであり、リズムとはノリだ。ノリとは楽譜(=視覚言語)に表すことのできない感覚だが、我々はそれを感じ取ることができる。ノリは暗黙的情報なのである。そういうわけでリンゴは小脳的な部分を担当しているわけである。

ジョージは目立たない存在だが、神秘性のようなものへの志向が感じられる。それは、言わば非言語的な感情への興味の追求である。感情というのは、脳の奥の方のどこかが関係しているらしい。

彼らは脳の全体性をバンドとして体現することで効果的に創造性を発揮し、多様な人々に受け入れられるのに成功した、と考えられるのである。つまり、メンバーそれぞれが左右の大脳と小脳と脳幹部を象徴するわけだが、その分担というのは個性における分担である。具体的な活動における分担は柔軟で臨機応変なものだった。

ビートルズはメンバー全員がメインヴォーカルをとるが、そういうバンドはあまりない。そして、ジョンもポールもキーボードを弾くことがあるし、ポールはギターも弾くしドラムも叩く。そもそも、楽器のプレイヤーとしてはポールのベース以外特に専門家的に上手なわけではないのだ。ビートルズの際立った特徴は「非専門性」にあると言えるだろう。非専門的(あえて言えば素人)だからこそ、あれだけ挑戦的な試行錯誤をすることができたのだ。

 → ビートルズのメッセージ