煙草をやめる方法

何かをやめることは、自分の意志が役に立つかどうかという勝負である。煙草をやめるには「やめるぞ〜」などと力んでもダメだということだけははっきりしている。意志というのは力むことで発揮されるものではないのだ。逆に、リラックスして煙草を吸うことができれば、クールにやめられるのである。意志とはそういうものである。

我々の意志がストレートに発揮されるのは、やりたいことをやる時である。そして、やりたいことというのは自分の意志でやっているのだから、やらずにいることもできる。やらずにいることができないとしたら、それはやりたくてやっているのではないのだ。つまり、煙草をやめられないとしたら、煙草を吸いたくて吸っているとは言えないのである。煙草をやめるには、まず、煙草を吸いたいから吸っているという状態に持っていく必要がある。

煙草を吸いたいから吸っている状態とは、煙草を吸うことに集中できるということである。煙草を吸っている時には煙草のことしか考えない。煙草のケムリを深く味わい、もっとうまい煙草はないかと探求する。火の付いた煙草を灰皿に置き去りにしたまま他のことをしたりするのは、煙草に集中していない証拠である。なんだか面倒臭いことを言うようだが、やりたいことをやっていれば面倒だなどとは思わないものなのである。

とにかく、煙草をやめるにはまず煙草を吸うことに集中しなくてはならない。煙草を吸うという行為に集中し手間ヒマをかけることによって、そこに自分の意志を入り込ませることができるようになる。そうやって「自分の意志によって、やりたいからやっている」状態になると、やめようと思えばやめられるのである。やめられないのはちゃんと煙草を吸わないからだ。

僕はそうやって10年前に煙草をやめた。やめて半年くらいは、喫茶店やレストランで落ち着くと煙草を「吸いたい」ような気がしたが、それは僕の意志ではなく、身体が煙草を吸う動作を覚えていることによる錯覚である。だから、僕は煙草を吸う代わりにやたらと水を飲んでいた。やめて2年くらいは煙草を吸ってしまう夢も時々見た。身体というのは結構しつこいのである。