ホントに言いたいこと

大体において、我々の言いたいことというのは正しいことである。「自分の要求は正当である、だから何とかして実現せよ」と訴えるのが「言いたいことを言う」の中身である。つまり、言いたいことを言う場合は、相手に対して「お前は間違っている」と言っていることになる。だから、「言いたいことがあったら言ってみろ」と言われたからといって、言いたいことを正直に言ったら相手の機嫌を損ねたりするのである。まして、聞かれもしないのに言いたいことを言ったら、カドが立つに決まっている。

言いたいことというのは「思ったのだけど、まだ言っていないこと」だ。あるいは「前にも言ったけど、まだちゃんと理解されていないこと」かもしれない。どちらにしても、自分が思ったことが他人に伝わっていないのが不満だから「言いたい」のである。つまり、言いたいことというのは「聞いてほしいこと」で、その内容は基本的に不平不満なのだ。だから、言いたいことなんか言わない方が人間関係は円滑に進む。でも、言いたいことを言わないでいると、不満が溜まる一方である。だから、だんだん言わずにいられなくなってくる。言わずにいられないとしたら、それは自分がホントに言いたいことではない。

他人に不平不満を言いたいというのは、他人に何かをしてもらいたいということである。自分が変わるのではなく、他人に変わってもらいたいのだともいえる。だとすると、なるべく自分が変わるということに意識を集中して暮らしていると、言いたいことというのはだんだん少なくなるはずだ。そのかわり、自発的な表現欲求が生まれる。それは他人への要求ではないから、別に他人に言わなくてもいいのだ。言わずにいられることがホントに言いたいことである。

自発的な表現が「ホントに言いたいことだが、他人には言わずにもいられる」のはなぜかというと、表現すること自体が自分にとって面白いからである。また、他人に言っても仕方がないという部分もある。「自発的表現をするのは面白い」ということを直接的に他人に伝えることはできないのだ。直接言えないから、まわりくどい言い方になる。遠回りに正解はない。だから、自分の正当性を訴えることはできない。でも、面白いのだ。