序 章 |
第一章 銅の谷の戦士 |
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序 章
世界の中央に生まれた砂漠は、緩やかに時を掛けながらも、確実に広がりつつある。 かつて、その世界を皇帝の名のもとに一つに治めていた血統は、その出生と同様、謎めいた終わりを迎え、唐突に途絶えた。 今では、伝説と、迷信に埋もれ省みられることもない。 最後の皇帝の治世の後は、皇帝の両の腕に例えられたカーディーン大公一族とアーメルド公爵一族とが、残された地と人を二つに分けて治めた。 彼らの間には、元々些細な競争心と言ったものがあったが、皇帝空位の長い時に、それは、猜疑と憎しみへと、やがては戦へと育っていった。 人々が記録を逆上れる限り、すべてが戦いのなかに始まり終わる。 この果てし無い戦いは、人々にとって、発端も定かではなく、また、不本意ながら日常でもあった。 時は、ハンナム・カーディーン大公の治世十五年の事である。 後々、この年を振り返るとき、ある一人は、憮然とした長身痩躯の戦士を思い起こし、また、ある一人は、人の悪い微笑をたたえた痩せぎすの少女を、思い浮かべた。 |