2:今年の出し物(2)
さて、高等部実行委員初会合から約3週間後。放課後の星望祭実行委員会室で、3人はアンケート回答の山を前に、黙々と集計を続けていた。
「結構みんな知っているもんだなあ」
「こんなに有名だとは知らなかったよ。とりあえず高等部生にだけアンケートをとってみたけど、回答の100%近くがYESだぜ。それに、先生方や職員の方々約70人分もだ。」
「人によっていくつ知っているかの差はあるけど、”不思議”の内容には大きなバラツキが見られないわ」
先日の終礼で実施したアンケートの質問は以下の通りである。
1) あなたは『星望学館七不思議』を知っていますか? (YES/NO) 2) 1)でYESと答えた人へ ・いくつ知っていますか? ( ) ・どんな事を知っていますか?具体的に書いて下さい。 ( ) 御協力ありがとうございました。 星望祭実行委員会・高等部発表係 |
「どお、発表係、順調?」
隣のテーブルに陣取っているプログラム係の一団が、ちょっかいを入れた。
「もー、ばっちしよ。それに今日は私、ラッキーデーなのよ」
「恵理奈〜、また星占いかよ。いい加減にしろよな」
竜一郎は始終この調子の恵理奈に呆れていた。
「残念でしたぁ〜。今日のはトランプ占いだよっ」
ずこ(←一同がコケた音)
「しょーがないわよ、恵理奈は占いマニアのオカルト大好き少女なんだから。これも運命と思って、諦めるんだね。高鳥君、明石君」
恵理奈と同じ2Hの委員、村上あずさはそう語った。
「では聞くが、村上さん、彼女を黙らせるにはどうしたらいいのかい?」
良寛は長めの髪をさらりとかき上げ、斜め45度の流し目でプログラム係のお嬢さん方に問いかけた。
「何だかなー、この色男は……」
「何か言ったか?竜一郎?」
「いや、別に」
竜一郎はあさっての方向を向いた。
「……でも高鳥君、恵理奈の占いって、外れないのよ」
「それにこの子、霊感強いし」
「今回の発表係のテーマって『星望学館七不思議』でしょ?それこそ無敵じゃない。いいなー、高鳥君達は」
きゃっきゃっ……
なぜ良寛はこうもモテるのかね、と、竜一郎は溜め息をついた。
「竜一郎、モテない男は辛いねェ」
「ば、バカ言え!恵理奈っ!……そんなことより、集計はどうなったんだよ集計は」
遊んでる場合ではない、お仕事である。3人はそれぞれの集計の最終結果を照らし合わせた。
不思議その1:『3Eの教室に出るという女子生徒の幽霊』
不思議その2:『更衣室の笑うカーテンの染み』
不思議その3:『毎年一回は流血沙汰を起こす糸ノコ』
不思議その4:『流すと鈴の音がするトイレ』
不思議その5:『ひとりでに鳴り出すピアノ』
不思議その6:『花を枯らした当番は大学進学に失敗する中庭の花壇』
不思議その7:『南館のどこかにある“龍の壺”』
「……以上がアンケートの集計から得られた結果です。そこで、委員の皆さんに協力を願いたいのですが……」
数日後、星望祭実行委員会全体委員会での、高等部発表係の中間報告である。
「分かりました。では続けて下さい」
議長である高等部委員長が促す。
「はい。このようにはっきりとした調査結果がすぐに得られたので、今度はこの『不思議』の解明に挑戦してみたいと思います。それから、これらの『不思議』は、7年前に取り壊しとなった旧校舎時代にもあったということなので、旧校舎に関する資料と、OB・OGなどからの話も集めたいので、協力をお願いします」
「……でもな〜、旧校舎なんて、俺たち現役の高等部生はよく知らないよな。十年近く前の話だし」
実行委員会本会議で立派な経過発表をしたものの、情報が集まるかどうかまだ不安な竜一郎ではある。
「詳しく知っている先生も、退職やら定年やらでだんだん減ってるみたいよ」
「前途多難、てとこか。とりあえず俺、連休には実家に帰るから、姉貴達に話聞いてみるよ」
「お、頼むぜ、りょーかん」
「実家、って?」
「ああ、こいつ寮生なんだ。実家は東北のでかい寺だぜ」
良寛はカッコいいシティーボーイだが、実は田舎の寺の跡継ぎで、大学を出たら故郷の寺で僧侶になる予定である。
「へえ、そうなんだ。お坊さんがいれば、これから妙なことがあっても、大丈夫ね」
「よせよ、俺は、まだ修行なんかしたことないんだぜ。オヤジが『若いときに俗世間を見ておくんだ』って、中学からずっと星望学館だしな」
「なんだ、つまんない〜」
「恵理奈〜、おまえこいつに何を期待してたんだよ。……それより、この件、とっとと片付けちまおうぜ。星望祭は俺、クラブの方も忙しいんだよ」
「そうだな、委員会の他の雑用で首が回らなくなる前に、早めに行動しよう」
うむ。3人はうなずき合い、委員会室をあとにした。