アテネ五輪期間中連載コラム

「大和撫子の忍耐強さが格闘技で弾けた」


アテネ五輪
第11日
 22日午前、発祥の地のプライドをかけて、ほぼ満員のレスリング会場、ファンを魅了し、あ然とさせたのは、地元の期待を浴びる女子選手たちではなかった。
 生粋の下町っ子・浜口京子、元・全日本王者の父に自宅のレスリングマットで英才教育を受けてきた吉田沙保里、青森・八戸でもっとも盛んな、ちびっ子レスリングで切磋琢磨してきた伊調千春、馨の姉妹が、次々とライバルをマットに倒す姿の迫力に、わかっていても「強すぎる」と呆然としていると、背中を叩かれた。振り向くと相手は米国の雑誌記者を名乗り、こう言う。
「日本の女性の間では、レスリングや柔道といった競技は人気なのか? 何故強いのか? 大変なことになりそうなので、レクチャーを」

「大変なこと」、つまり23日の女子レスリング4階級金メダル独占の前評判に、外国男性が驚くのは無理もない。女子サッカーの愛称は知らずとも、私たちはしとやかで、男性の後ろを3歩下がってついて行き、ときには着物で、世界的には古きよき女性の理想像なのだ。おっと、日本で応援する男性のみなさま、「幻想だ! 意義あり!」なんて怒らないでください、あくまで海外での評判ですから。

 古代五輪からの歴史的競技誕生の地で女子レスリングが新種目となり、女子柔道の充実振りと合わせて「格闘する大和撫子たち」と題したリポートを2か月前に書いたが、女子柔道の金メダルは予想以上、改めて敬意を払いたい。

 日本女子と格闘の関係を、ソウル五輪男子レスリング金メダリスト・小林孝至氏は、「大和撫子といえば忍耐強さ。忍耐強さといえば格闘技最高の武器。驚きはない」と分析し、柔道78キロ級3度目の挑戦で金を手にした阿武教子は「日本の女性は感情を表に出さないから、表情から心理が読めないと言われた」と教えてくれる。いずれにしても、柔道5つの金メダルに続き、同じ会場アノリオシアホールで、世界一の女性格闘技大国が誕生することは間違いない。

 会場をあとにする浜口が笑顔で言った。
「きっと柔道のおかげですね。さらに強くなれた気がしました!」
 撫子の花も、8月の今が盛りだそうです。

(東京中日スポーツ・2004.8.23より再録)

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