◆シドニー五輪特別企画◆
杉山茂樹氏現地レポート! ※無断転載を一切禁じます


●9月16日

●すぎやましげき/「Number」やサッカー専門誌などを中心に活躍中のフリーライター。CS放送などでは解説者としてもおなじみ。各種スポーツの海外取材経験が豊富で、1年の大半を海外で過ごしている。著書は『サッカーだけじゃ、つまんない。』(ビクタ−エンタテインメント)、『 ド−ハ以後―世界のサッカー革新のなかで』(文藝春秋)など。
 競技開始、初日。夜の観戦は、田村、野村を観戦しに行こうかナーと、柔道会場に向かおうとしたのだが、突如その時、天の声が囁いた。「やっぱりアナタは競泳にしなさい」。僕はそれに従い、柔道会場に背を向け、競泳会場を目指すことになった。柔道には金の確率が高い。対して競泳の田島(400m個人メドレー)には、メダルは期待できても柔道に比べると金の可能性は低い。

 にもかかわらず、なぜそこで方向転換をしたのかといえば、僕は五輪の競泳に、五輪の柔道を凌ぐ魅力を感じているからに他ならない。僕にとっての五輪は、陸上、水泳、体操まずありきなのだ。基本は陸水体。で、それに「ニッポン!」と叫べるボールゲーム。昔で言えばバレーボールがそれに値した。柔道も嫌いでは全くないし、日本の金も見たいし、特に野村のキレには、柔道にはシロウトの身の上ながら、かねがね魅力を感じてもいた。でも少なくとも僕にとっては、五輪の王道を行く競泳にはかなわなかったのだ。

ご承知の通り、田島は銀メダルで、田村、野村は金メダルだった。
でも後悔はない。地元オーストラリアのファンがスタンドのほとんどを埋める、その中で、田島が演じた快泳は、日本陣が6割以上を埋めるスタンドで、獲得した金にも等しい価値があるのではないかと思うからだ。日本人が少ない中で、日本人を応援する気分も、また思いのほか悪くない。田島は、あまのじゃくの虫も擽ってくれた。

とは言いながら、僕は明日、競泳の観戦を午前中(予選)だけにとどめ、午後はシドニーから300キロ以上も離れたキャンベラに行く。サッカーの日本VSスロバキア戦を観戦取材するためである。五輪サッカーの持つ意味に対し、納得できない面が多いにもかかわらずだ。

 バレーボールの場合は金メダルはすなわち世界一。だから、素直に感情を移入出来るのだが、サッカーの場合は何がなんだかよく分からない。意味合いは不明確この上ない。俗に「23歳以下のW杯」という表現が用いられるが、これさえも大きな間違いなのだ。それについて書いているとどんどん行数が進んでしまうので省略させていただくが、ともかく、五輪サッカーはステイタスもレベルも「W杯」にはほど遠い。

では何故行くのか。2002 年が近いから。日本の五輪チームがA代表に限りなく近いから。サッカーが好きだから。競泳の原稿を書くより儲かりそうだから。行きがかり上そうなってしまったから。言い訳はそんなところでご勘弁願いたい。後ろ髪を引かれる思いは強い。世界一を争っている競技者を、しっかり見届けなさいという、本来、僕に与えられた使命? を全うできないことについて、神様お許し下さい。

でも、サッカーは結構イケルんじゃないかと思っている。もし、スロバキア戦で良いサッカーをして完勝したならば、銀メダル以上も夢ではない。ここにそう宣言しておきたい。しかし、そこで僕の予想が仮に大当たりし、銀メダルを獲得しても、バカ喜びは謹んで欲しい。その銀メダルは、例えば田島の銀メダルより、僕は軽いと思うのだ。

五輪のメダルの重さは全て同じではない。これが僕の言いたいことなのです。

◆サッカー、水泳、冬季五輪種目などさまざまな競技を書かれている杉山茂樹さんに、この『シドニーぶらぶら節』を五輪期間中、不定期的に連載していただくことになりました。杉山さんもシドニー五輪のどこかで(残念ながらまだ一度もお目にかかっていないんですが)毎日取材されていることと思います。杉山さんのようなライターに登場していただけることは、本当にうれしいものです。またこうしてほかのライターの方にも書いていただくことで、今後のホームページの運営についてもいろいろとチャレンジすることができると思います。皆様どうか、お楽しみに。(増島)

バックナンバー: