4月29日

※無断転載を一切禁じます


サッカー
柏レイソル×ヴィッセル神戸

(日立柏サッカー場)
天候:晴れ、気温:18度、湿度:84%
キックオフ:19時4分、観衆:13,144人

神戸
5 前半 0 前半 0 1
後半 5 後半 1
57分:柳
71分:北嶋
72分:北嶋
79分:北嶋
89分:田ノ上
 和多田:66分

 シーズン前は優勝候補にあげられながら、ここまで勝ち点7で6位に甘んじていた柏は、休止期間をはさんで挑むゲームで、これまでの流れを変え、上位浮上にかける一戦となった。

 前半は、ボールが回るもののサイド攻撃も少なく、攻撃のチャンスを作りシュート5本を打ちながら決定力に欠く。しかし、今季ゴール数が1点と不調のFW北嶋秀朗がゴール前で振り向き様にシュートを打つなど鋭い動きを見せ、萩村滋則、明神智和のダブルボランチからも積極的にゴールを狙う姿勢が伺えた。両チーム無得点で後半に入り、57分には神戸のゴール前での反則(ハンド)からPKをもらう。これをこの試合、黄善洪に変ってFWに入った柳想鐵が落ち着いて決め1−0と先攻した。その後、64分には神戸の鈴木健仁が警告と、GK南雄太へのファールでレッドカードを受けて退場。しかし有利な状況になったはずの2分後には、神戸・和多田充寿にロングシュートを決められ同点とされる。

 しかしこの日は、そこから自ら流れを作るように、サイドも積極的に攻撃を仕掛け、バックラインも安定した守りからボールを奪って71分には、北嶋が柳からのパスに走り込みながら頭で合わせて勝ち越し点を奪う。その1分後には、GK掛川誠との接戦から、GKがボールをそらしてこぼしたボールをループ気味にコントロールして2点目。3点目は、北嶋が右サイドからペナルティエリア付近まで近づいて、右脚のボールを左に持ち替えてシュートを奪う起用さも見せた。北嶋はJリーグでは初めての「ハットトリック」で、ここまで開幕からわずか1点という不調を一気に取り返すとともに、ゴール数も4として昨年得点王の中山雅史(磐田)に続く得点を奪った意地を見せた。

 試合はそのまま柏のペースで崩れず、終了間際には、柳に入って交代した3年目の田上信也がゴールを奪い、5点目をあげた。柏が5点を奪ったのは、一昨年5月の市原戦以来2年ぶりで、勝ち点を10とし上位グループ入りに一歩前進した。

 一方神戸はシュート9本と攻撃でも着実なプレーをしたが勝ち点を伸ばせずに6のまま、下位グループに転落することになった。

西野朗監督「ここまで決して悪くはない試合をしながら結果がついてこなかったことで、チーム全体が沈むところがあったと思う。前半のような時間帯に点を取れず、プロセスには不満もある。しかし、今日は各選手とも前向きに試合をしたことを評価したい。まだまだ諦めずに行く。これでようやく(まだ対戦していない)磐田との戦いを考えることができるだろう」


「中学生時代以来」

お知らせ

増島みどり著
ゴールキーパー論
発売中
詳細はこちら

 リーグ戦3試合ぶりの先発出場となった北嶋秀朗が、自身Jリーグ初となるハットトリックを達成した。3勝2敗(6位)と波にのりきれなかったチームを救う活躍に、「3得点ももちろんうれしいが、それよりもチームを景気づけるようなプレーができてよかった」と、素直に喜んだ。
 高校選手権通算得点記録(16点)を持つストライカーにしては意外なことに、ハットトリックは公式戦では中学生の時以来だという。
「ずっと点がとれない状態が続いていたので、1点目を取って肩の力がふっと抜けて、気持ちも楽になった。忘れていたゴールの感触がよみがえった感じ。2点目は、DFの動きをよくみてイメージ通りのシュートができた。3点目は練習でいつもやっていた形です」
 今シーズンは初戦の清水戦で得点して以来、ゴールはおろかシュートさえも打てない試合が続いた。また、フランス戦の代表候補から漏れたことで精神的にもダメージを受け、遂にチームの先発メンバーからも外された。しかし、久しぶりに味わうベンチスタートで気付いたこともあった。
「ポストプレーとかセンタリングをニアであわせて味方のためにつぶれるとか、去年のいい時にやっていた自分の泥臭いプレーを忘れていた。監督に指摘されたということもあったけれど、試合を外からみることで、自分が楽をして点をとろうと考えていたことがわかった。思えば試合後、ヘトヘトにくたびれているような試合さえしていませんでした」
 快勝でチームは5位に浮上。だが、開幕6連勝の磐田にはまだ勝ち点8の差がある。
「まだまだ諦める段階じゃない。今はとにかく目の前の敵を一つ一つ倒すことが大事。それに僕は典型的なのりやすいタイプだから、気持ちがのってくるとゴールもついてくると思う」
 自分のスタイルを取り戻したストライカーにとって、5月3日、6日と続く超過密日程は、むしろ追い風になるかもしれない。(文:松山 仁)


「華を支える鼻がある」

お知らせ

増島みどり著
シドニーへ
彼女たちの
42.195km

発売中
詳細はこちら

 柏にとっては優勝戦線に浮上するためにもなんとしても落とせないこの試合、北嶋は、得点をあげてチームを波に乗せるだけではなく、「中学以来のハットトリック」で文字通りの「華」を添えた。
 しかし、別の「鼻」でチームを勝利に導く働きをした2人がいる。
 試合前、200試合出場を果たして花束を受けたDF渡辺毅と、この前のゲームで同じ200試合を達成した31歳のFW加藤望の2人である。加藤は、この試合で中盤に「サポート」という意識を常に徹底させ、渡辺は体を張ってボールを止めるプレーを続けて、いわば北嶋の華をお膳立てしていた。
「試合中からです。すみません、ちょっとはや歩きですが」
 95年以来6年をかけて200試合を達成した渡辺は、鼻の頭をつまみながらロッカーからクラブハウスへ真っ先に飛び出した。試合中に接触して鼻を強打。鼻血がずっと出ており、ユニホームの胸のあたりは真っ赤に染まってしまっていた。前半は神戸のほうが攻めの形を作っていた。そこを凌いで、さらに後半先制しながらまたも追いつかれる。ここからが、なぜ柏が上位に定着できないか、その壁を突破するためにも非常にタフな時間帯だった。渡辺は、洪明甫、薩川了洋と声をかけ合い、ゴールに入った和多田のボールを真っ先に掻き出していた。
「前半はやられていましたし、後半も決してよくはありません。ただ、あそこで流れをつかもうとチームの意識が集中したようには思います。やはり流れを自分たちでつかもうとする気持ちだけは持たないと結果にはつながらないと思うので」
 鼻からは相変わらず血が染み出ていたが、渡辺は冷静に試合を振り返った。
 加藤もまた試合中の接触で鼻血を出していたと笑った。加藤は一足早く200試合を達成した。2人がJリーグでの出場記録をスタートさせたのは同じ95年開幕戦、対清水戦である。ゼ・セルジオ監督のもとJリーグに昇格し迎えた初戦、2−0でリードしながら同点にもつれ、最後は延長で振り切られた。
「苦いデビューでしたね」
 加藤は神戸とのゲームを終えて笑った。手には、「そごう」の包装紙にくるまれた「記念品」がかかえられていた。重かったが中身をかれは見ていなかった。
 加藤はこの試合、特に中盤での「サポート意識」を徹底させることをテーマとした。ここまでの試合を見直すと、「ボールは回っていてもシュートにならない」あるいは「展開しても突破してない」(加藤)そんな状況にあることがわかった。
「結局、ボールだけが動いていて人間が動いていないんです。だからボール回しで終わる。こういう時ほど、サポートという基本を、と思ったのです。きょうは柳がFWでしたから、自分がそういう動きをすれば動きが良くなるかな、とも考えてました」
 こうした意識が、両サイドの渡辺光輝、平山智規を引っ張った。北嶋につながったボールすべてが直接、間接でもサイドからの攻撃であった。
 加藤はデビューから200試合があっという間だったという。
 ベテランと呼ぶにふさわしいプレーで快勝を演出した2人はともに血まみれで引き上げたクラブハウスの前で同じコメントをした。「気が付けば200試合です。でもこれまで、よりは、これから、を考えたい」
 Jリーグを支えるのは、北嶋のような華を持つFWであり、渡辺や加藤のような選手でもある。さて、加藤や渡辺がクラブからもらった「そごう」の包みの中身はわからない。しかし彼ら2人ともが、どんな記念品も決して及ばない輝きを、6年かけた200試合で放ったことは間違いない。



読者のみなさまへ
スポーツライブラリー建設へのご協力のお願い


BEFORE LATEST NEXT