3月1日

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IOC(国際オリンピック委員会)大阪視察の記者会見
(大阪・リーガロイヤルホテル)

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 2月25日から、2008年夏季五輪の開催候補都市のひとつである(北京、イスタンブール、パリ、トロント)大阪を訪れていたIOC評価委員会が、全日程を終えたこの日、会見を開いた。
 評価委員会総勢16人の来日は、各都市がIOCに対してすでに提出した「立候補ファイル」に基づいて実地調査を行うことが目的で、16人の委員が各専門分野に分かれて、レポートと現実的な側面と双方から分析を行うもの。委員会では予定を大幅に上回る視察が行われ、既存の施設ではマウンテンバイクの会場以外、すべてを見学した。先に北京を訪問しており、この後、トロント、イスタンブール、パリと回る。
 今回のレポートは、7月13日に五輪開催都市が決定するIOC総会(モスクワ)への唯一の客観的な材料となるものでもあり、5月にはまとめられる方向だが、レポートには評価点などは一切つけられないという。
 IOCが贈収賄などで権威や責任といったものを自ら傷つけたスキャンダルから、新たな選抜方式による評価委員会を設け、「ノーギフト(贈り物厳禁)、ノービジット(開催候補地訪問の禁止)」とルールを徹底して定めた最初の夏季五輪選定だけに、候補地、評価委員会とも暗中模索といった現状の中、会見でも当り障りのない「公式コメント」が目立っていた。
 評価委員会のあとには、磯村市長をはじめ大阪招致委員会が会見。市長は自らが主張している「こころオリンピック」のスローガンが委員にも認知されたことを喜び、「かなり忙しい日程だったが、三笠宮殿下、森総理が来てくださって、国をあげての招致への姿勢は感じてもらえたと思う。ほっとした」と話していた。

IOC評価委員会・フェアブリユッゲン委員長(国際自転車連盟会長)の話(抜粋)「開催地決定のための新しい方式が導入されてから最初のこうした実地(夏季で)視察となった。これは私たちにとって大きな意味を持った任務であり、18のテーマについて非常に有意義なディスカッションをすることができた。
 まずは市民の熱意について、「こころ」という言葉を何度も聞くことができた。ハートを持った非常に暖かい歓迎をどこでも受けることができたことはうれしいものだった。
 また、インフラについては既存の施設がすでに3分の2は出来上がっていること、また夢島の建設とスタジアムの完成なども詳細を聞き、これが大阪五輪のためだけではなくレガシー(遺産)となると確信している。アクセス、またドーム、パラリンピックの施設とも非常によかった。
 三笠宮殿下と、また森首相ともお目にかかれて、日本が政府として力を入れていることもよく認識できた」

磯村・大阪市長の話(抜粋)「もっとも印象に残ったのは、非常に気持ちのよいワーキングセッション(質問と説明を行う会議)だったという点で、みなさんすでに出してあるファイルを十分に読み込んできてくださったために、こちらの説明は余分ではないか、と思うこともあった。このため、かなり詳細までのやりとりができたと思うし、見事な真剣勝負だった。語学の問題から多少のすれ違いがあったところもあるが、それでも文書でお答えするところはそういう手続きにするなり、問題はなかったはずだ。
 これからは、休むこともできないほど、東アジア大会、世界卓球と続くが、何とか7月13日まで最大限の努力をしていきたい。大阪が穴馬だと申し上げたことがある。今回パドック(実地)に来てもらって(大阪という名の)馬の調子を見てみたら、まあ本命ではないけれど、なかなかやるかもしれない穴馬だ、という感覚を持ってもらえたんじゃないかと思う」


「マイナスはなかった、さて」

 評価委員会の性格上、どれもこれもが当たり障りのない、面白味にかけたコメントである点は致し方ない。中でも唯一、重要だと思われたのは、「評価委員会のレポートは(これまでと同じに)技術的なものに終始し点数などランクもつけない」とした点と、「北京で視察した会場には、その競技の特性と技術的側面から言って開催が不可能なものが3か所存在した。しかしそれは、会場を変更しなさい、というものではなくて、ここではできないと指摘をしただけ。換えても、換えなくても、それは北京の判断だ」とした2点である。
 評価点数、ランクはつけないという前者によって、決定は結局またもIOCの曖昧なムードが大きなウエイト占めることがわかった。後者は、そういいながらも、一応厳しく、客観的に評価はしてますよ、という、IOCのダブルスタンダードを象徴しているコメントであったからだ。

 新しい選抜方式でIOCの規律を内部的に厳しくしたものの、逆に、評価委員会のメンバー16人のみが開催候補地を団体で一度しか訪れることができないのに、投票権を持った100人を超える委員たちが実際に訪れて見てもいないところを一体どう「評価」するというのか。厳しさのベクトルを間違ったために首を締めている。
 さらに唯一の判断材料となる技術レポートが、上位から評価されないのだとすれば(評価委員会はこれまでも点数つけはしていない)そもそも何を持って選ぶのかは、またも曖昧になる可能性が高い。基準が曖昧な際に有利となる戦術のひとつは、「ムード作り」であり「イメージ戦略」である。

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 磯村市長が例えた競馬ならば、大阪は下馬表でイスタンブールの次、4 位である。一方、圧倒的なトップ候補北京は、前回のシドニーとの決戦で落選したこともあり、「今度は当然」といった格好になっている。両者を比較するとき、ハード、インフラ、ソフト、すべてで大阪が「客観的に」上回っていることは明白でありながらも、なぜか存在感が欠けるのは、「ムード作り」の上手い下手によるものだ。
 北京では、評価委員会が下水処理場やダムなどを視察したことが伝えられているが、多くの五輪開催施設をまだ持っておらず、国際大会を経験していない北京がどこに「視線」を持っていけばいいのかを苦心したものでもあろう。

 大阪にも夢島のアクセスなど問題はあるが、これは多かれ少なかれどこの候補地も同じで、大阪は少なくても北京のように「ここでは開催できない」と指摘されるような会場を見せるようなマイナスはなかったと、あえて評価してもいい。
 しかし、どんなに正確なものであってもレポートが開催地を決定するのではなくて、委員が投票するのだという点は忘れてはならないし、今日までの話はあくまでも当たり障りのない話で終わり、ステージはまったく違う次元に入ったことを自覚しなくてはならないだろう。

 次は、7月13日のIOC総会をどう戦うかである。公に残るイベントはこれだけである。評価委員会が点をつけないなら、あとは、13日に行われる総会のプレゼンテーションに向けてどんな隠し球を準備し、そこへどんな根回しをするかである。
 プレゼンテーションに高橋尚子を起用する案を、JOC八木会長が早々と打ち上げている。決定はされていないが、常識的に判断して英語ができない高橋がわざわざスピーチをするリスクを冒すこともないし、本人への負担や責任は並大抵のものではない。
 誰を連れて行き、誰に話させるか、何を隠し球にするか。プレゼンテーションでのイメージ作りに向けて、招致委員会は今後、「戦術」に智恵を絞り、「戦略」を練らなくてはならないだろう。
 7月13日、5都市のプレゼンテーションで、大阪はトップバッターである。流れやムードを見て発表の差し替えができるほかの4都市よりも、ハンディを抱えている点も、考慮しながら、試合は後半に入ったのではないか。


■短信:伊東浩司選手の会見より
 男子陸上100m、10秒00日本記録保持者・伊東浩司(富士通)が、富士通を退社して出身でもある神戸を拠点としながら、甲南大学の専任講師と競技の2足のわらじを履くことを、1日、自ら会見を開いて明らかにした。
 伊東は東海大を卒業後、富士通で競技を続け、98年アジア大会では黒人選手以外で初めてとなる10 秒00をマーク。世界選手権5回、オリンピック3回など、第一人者として日本の陸上界をリードしてきた。シドニー五輪後には引退を口にしたこともあったが、会見でも「自分の18年もの競技歴を指導に生かしていきたい。また自分自身もシャカリキになるだけではなくて、一度のんびりやってみたら案外いい結果になるかもしれない」と、31歳で環境の変化をあえて選択した理由を説明した。
 また、かねて交際していた積水化学陸上部で、97 年アテネ世界陸上女子マラソン金メダリストの鈴木博美と今秋にも結婚することを明らかにした。

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