1月7日

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第79回全国高校サッカー選手権大会 準決勝
国見高校×富山第一高校
(国立競技場)
天候:曇り、微風、観衆:18,430人、12時10分キックオフ

取材・田中龍也

国見(長崎) 富山第一(富山)
1 前半 0 前半 0 0
後半 1 後半 0
52分:大久保嘉一

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 強豪校が次々と姿を消すという波乱ムードの中、第79回サッカー高校選手権準決勝の2試合がこの日、舞台を国立競技場に移して行われた。その第1試合は、すでにインターハイと国体の2冠を制している長崎県代表の国見と、2年連続で準決勝への進出となった富山県代表の富山第一との一戦。試合は序盤、富山第一が中盤での積極的なプレスから主導権を握る。しかし、両チームともにディフェンダーがしっかりと攻撃陣を押さえ込み、決定的な形は作れないまま前半を終えた。
 後半になると国見が果敢に両サイドを押し上げ始める。すると富山第一のディフェンスラインが徐々に下がりだし、後半12分には国見の俊足フォワード松橋章太が右サイドをドリブルで鋭くえぐり、中央に低く速いボールでセンタリング。これをU-19日本代表の大久保嘉人がボレーでたたき込み先制した。前半は組織的なディフェンスからの攻撃を見せていた富山第一だったが、国見の執拗なディフェンスに手を焼き、試合はそのまま終了。富山第一は2年連続で準決勝敗退となった。
 7年ぶりに国立競技場のピッチを踏んだ国見はこれで6度目の決勝進出。3冠奪取を狙う。また、第2試合は滋賀県代表の草津東が2−0で青森県代表の青森山田を下し、初の決勝進出を決めた。

試合後の会見より:

富山第一・長峰俊之監督「前半は国見の縦への速い攻撃に対して、よくしのいでがんばってくれた。中盤は少し押され気味だったが、なんとか最終ラインのギリギリのところで、シュートが枠に行かないように体を張ってプレーしていた。後半に入ってもっともっと前向きに積極的に行こうと話していたが、途中、失点をしたあの時間帯は、少し中盤が、特に10番(大久保)をフリーにする形が目に付いていた。そういう時間帯に右サイドからの折り返しに10番がきちんと合わせてきたということで、中盤が相手に押され気味になったところがきつかった。ただ、全体とすれば、自分たちの持っている力を十分に出し切ってがんばってくれたと思う。トップが西野1人で、なかなか相手の背後に飛びだすという形を作れなかったのが残念だった」

 以下は一問一答:

──2年連続の国立だったが
長峰 ここでまたできるという喜びのほうが大きく、特別に国見と当たるからとか、2年連続だからという意識はなかった。子供たちも平常心でゲームできたと思う。

──攻める上での指示は
長峰 中盤できちんとボールをキープして、まずサイドへ出して相手の背後で中の西野に合わせて勝負をしたいと考えていた。しかし国見の中盤が強く、支配された展開だった。

──交代出場で1年生を起用したが
長峰 この大会もそうだが、予選から1年生がよくがんばってくれた。今日、3人を交代で起用したが、彼らはこれを財産にしてこのあとがんばってくれたらと思う。

──全国大会3位という成績について
長峰 このチームは2000年の富山国体の強化選手として早くから強化指定され活動してきた選手が多いので、結果を出したいというのが子供たちの想いだったと思う。このメンバーは意地でここまで上がってきたのだろう。国立とかなんとかというより、1戦1戦を100%で戦えるようにがんばろうという気持ちが今日のゲームにもつながった。

──選手にはどんな言葉をかけるか
長峰 負けは負けとして、ナイスゲームだったと。自分たちの力は出し切ったんじゃないかと思う。このあと3年生には次のステップで今日の悔しさをバネにより向上できるようにがんばってほしい。1、2年生については、これを来年に向けて自分たちのチームでさらに上を目指せるように一緒にがんばっていこうと、伝えようと思う。


国見・小嶺忠敏総監督「内容的には自分たちのやりたいペースで、自分たちのリズムでできたんじゃないかと思う。今日はとにかくシュートを打つということを指示した。ここのグラウンド(国立競技場のこと)というのは、ミスシュートでも観客さんが非常に沸くので、選手自身がうまくなったかのように錯覚しますよね(笑)。それが自信につながるから積極的に打てと言った。そして外側から攻めて中に放り込むということを考えていたが、なかなか……。相手はフラット4で来ると思っていたが、1人を残してきたんで、後半はクロスボールで逆のスペースを使って外側から攻めるように強調した」

──得点の場面では松橋選手が右に行っていたが
小嶺 攻撃は本人たちの意識に任せている。松橋と佐藤には開いたところに自由に入れと、誰が右で誰が左などとは決めていない。

──前半は慎重に見えたが
小嶺 両サイドが消極的だった。もっと前のほうで仕事をしなければいけない。高い位置でね。それがついつい点を取られたらいけないという感じで、後ろのほうにいて、相手を振りきって上がれないという面はあった。

──相手の西野選手に対しては
小嶺 西野君には堀川を徹底的につけた。彼だったら、身長はあまりないけれど、ふだんからゴールポストから頭が出るようなジャンプ力だから、空中戦では絶対に負けないと思っていた。今日も期待通り、ほとんどヘディングでは負けていなかった。

──今日までにイエローカードをもらっていた選手が多かったが
小嶺 6人ね。試合前に「持ってるのは手を上げろ」と言ったら、6人いたから、「ああ、ようもらったな(「たくさんいる」の意)」ってね。「まあ次はもらわんようにしとけよ」と冗談で言ったけど、あまりそれを強調したらプレーが消極的になるんでね。審判を批判するつもりはないですけど、(イエローをもらったプレーでも)本当に悪質なプレーはそんなになかったと思う。試合の流れでもらったというだけだから、今日もあえて心配するほどのことはないと思っていた。選手も(イエローカードを受けているということで)消極的になるようなこともなかった。

──個人的にはチームの出来をどう評価しているか
小嶺 みんな私の思った通りぐらいじゃないでしょうか。まあ、もうちょっと松橋あたりが点を取ってくれるんじゃないか、大久保はもっと点を取れる男じゃないか、という気持ちは持っています。(点が思うほどは取れていない理由は)例えば大久保は、ちょっと持ちすぎるね。強引に相手を振り切っていこうと。もうちょっと(左右に)散らして中に飛び込んでいくようなプレーをしたらいいと思う。今日の得点みたいにね。松橋はもっと縦へとぶっちぎるプレーをするんだけど、(この大会では)少し中に持ち込んでしまうという傾向がある。持ち味をもうちょっと発揮してくれればとは思う。

──7年ぶりの国立はどんな印象だったか
小嶺 いや、別にねぇ。まだ明日もあるし。

──久々だとは思わなかったか
小嶺 だいたい私はそんなに簡単に国立で戦えるとは思っていないですよ。3990校の監督さんの中で、少なくとも100チームぐらいがそれを目指しているわけですからね。平等の精神でいっても100年に1回ぐらいしか回ってこないから(笑)。前は5年に4回ぐらいきていた? あのときは異常ですよ(笑)。みなさんはあれが当たり前だと思うのかもしれないですけど、ああいうのは特別であって、だいたい10年に1回、国立に来られれば万々歳じゃないでしょうか。

──決勝戦には「ついに来た」か、「やっと来られた」か
小嶺 う〜ん、どっちかなぁ……。久しぶりに来たかなという感じかな。

──明日の決勝に向けて
小嶺 自分たちのサッカーをするだけです。これを無理して変えたって、いい結果が出るはずはない。これを徹底して負けたら仕方がない。自分たちがやりたいことをやらずに、他のことをやらせて負けたら、生徒からの信頼も失ってしまいますからね。


「“定番”の妙味」

 組織的なゾーンディフェンスから中盤での細かいパスのつなぎ……、試合の序盤を支配していたのは明らかに富山第一だった。しかし、国見の選手たちは焦ることなく、自分たちのサッカーをやり続ける。厳しいボディコンタクトにスライディングタックル。そして素早く前線にボールをつなぐ。この伝統的な国見のサッカー、特に執拗に続くボールチェックは、富山第一の選手たちにボクシングのボディブローのごとくダメージを徐々に与えていった。後半に入ると、富山第一の運動量が落ち、つなぐ攻撃がほとんど見られなくなってしまったことにもそれは表れている。

 国見の小嶺忠敏総監督は試合後の会見で、「私は流行に追われるのが嫌いですから」と、93年大会を最後に国立の舞台から遠ざかっていた間も、自らの信念を変えることなく“国見のサッカー”にこだわり続けてきたことを明かした。
 では“国見のサッカー”とは何なのか。まずディフェンスのシステムは、現在主流となっているフラットなラインディフェンスではなく、スイーパーを1人余らせる形を取る。そして攻撃面に関しては“自由”に任せる。この日の得点は、前半はほぼ左サイドに張っていた松橋が、右サイドに動いてアシストした。松橋のような足の速い選手には、「足の速いヤツは速いなりにぶっちぎって自分を活かす、ドリブルのうまいヤツはそれをとことん活かす。持ち味を消したくない」(小嶺総監督)と、選手の個性を存分に発揮させることを第一義に考えているという。

 もちろん“流行の”フラットなラインディフェンスを否定しているわけではなく、「それをできるだけの能力がある子がいればいいんだろうが、ウチにはそれだけのことができる子はいない。だからどうしても(ディフェンダーを)1枚余らさざるを得ない」と、あくまで「選手の素材に合ったシステムを作るのが私の仕事」と自らの仕事を定義する。こうした小嶺総監督の“ポリシー”は「10年前も20年前もまったく変わっていません。その信念は通したい」と、指導者として自身のやり方に対する自負でもある。スマートさにはややかけるかもしれないが、シンプルでスピーディな国見のサッカーが3冠という勲章を、21世紀初めての選手権で達成できるか。
 決勝戦は明日、午後2時にキックオフの予定。

試合データ
国見   富山第一
22 シュート 10
7 GK 16
6 CK 0
6 直接FK 8
2 間接FK 1
0 PK 0

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