1月6日

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★Special Column★
「スポーツは誰のものなのか」
〜アイスホッケー・バックス応援チャリティーゲームに寄せて

お知らせ

増島みどり著
シドニーへ
彼女たちの
42.195km

1月11日発売
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 新横浜プリンスホテルスケートセンターで行なわれた、アイスホッケー日光アイスバックスの支援を目的とする「チャリティーマッチ」には、多くの観客が集まり、またボランティアを自主的に買って出るファンも繰り出すなど、存続に向けての熱い気持ちが十分に伝わるゲームとなった。
 同クラブは、一昨年、73年もの歴史を誇った名門・古河電工が廃部を決定した後、本拠地でもあった日光で市民活動によって救済され、クラブチームとして再スタートを切った。しかし昨年、その経営事情も悪化したことから、解散を決めたとされている。この日の試合は、来週に控えた全日本選手権だけではなく、今後の活動のため、また関心を広く持ってもらうことを目的として日本リーグの「コクド」が対戦相手となったものだ。

 ここ数年、実業団チーム、それもそのスポーツにおける名門と呼ばれたクラブが続々と廃部、解散に追い込まれている。昨年は、日立のバレーボール部などを筆頭に、経済的理由のために会社が運動部を放棄する流れはとどまるところを知らない。
 しかし、こうした流れが「本当に」日本経済の低迷だけが理由なのか、経営陣に対してそれほど簡単に「仕方ない」と納得してしまうことは果たして当然のことなのか、これもまた再検討しなければならない。また一方で、スポーツをする権利、見る権利、楽しむ権利をこうやって簡単に失わなくてはならない状況が、ひとつの運動部がなくなって「お気の毒」といった他人事なのか、これも再考の余地があるのではないだろうか。

 年度の変わりまであと2か月あるのでデータは昨年のものになるが、実業団連盟の登録数は95年度から少しずつ下降線を描き、99年度は全体から55チームも減少して727になった。こうした中には、東芝野球部、ダイエー陸上部、バスケットの住友金属、NKK、体操でも大和銀行、伊勢丹ラグビー部など、業界のスポーツではリーダーであった企業が撤退したことで悪循環に拍車がかかっている。
 本当に不況だけが理由かといえば、そうではない。年間2、3億円の運営費が本当に負担であれば、運動部よりも企業そのもののほうがよほど危ない計算にもなる。日本の企業スポーツにとって運動部は第一に士気高揚の役目を果たしていた。しかし高度成長期のような士気を求めた時代は終焉しており、一体感はもはやない。こういう状況下で選手をいくら獲得しても、コストなどデメリットばかりが問題となるのは当然の話である。
 以前、運動部を廃止したある企業に話を聞いた際、「従業員と運動部員の一体感は企業にとって非常にいいエネルギーだった。しかし、こうした一体感はもう目的にならなくなった」と話していたが、金銭的な理由以上に職場そのものにも関心がない事実があるという。社内でも運動部の活動に関心のない社員は増加していると、組合データでも調査されていた。
 また広告塔的な役目についても、価値が半減している。以前には、運動部の活躍によってかなりの「目に見えない広告費」が算出されたが、現在は、さまざまなメディアの発展によってこうした全国規模のPRが必ずしも重要ではなくなっている。
 スポーツは目的であって、経済や政治はその目的をいかに幸せに実現できるかの手段に過ぎないはずだ。スポーツを20世紀に置き去りにした企業が21世紀に生き残れるとは考えにくい。

 こうした中で注目されるのは、企業よりはむしろ、その活動を支え、応援して来たファンのほうへの「地域性」の芽生えだろう。簡単に地域で支えるとはいえないが、今回の日光も残留するなら(現在、八戸への移転の可能性もあるとされている)栃木県での支援も検討すると知事が発表している。もっとも、残留できないから廃部になっていることを思うと、残留のための支援が先決だが。
 アメリカンフットボールの強豪、NFLのグリーンベイパッカーズの例は、そうかけ離れたものではない。
 プロでもあり存在形態は違うものの、経営危機に瀕した同チームを救ったのはパッカーズ、つまり缶詰工場で働く、ブルーカラーたちだった。アメフトを支援することは苦しい労働に従事する自分たちの限られた楽しみでもある、と、給料のうち何パーセントを活動費にあて、当初は、缶詰工場の中にウエイトトレーニング場や事務所を置いたこともあったそうだ。こうした活動はやがて地域全体に広がって、今ではスーパーボウルを戦うチームになった。
 ユニークなのは、ホームで行なわれる芝の張替えなどメンテナンスだ。スタジアムの芝の張替えには、必ず市民が資金を出し合い、芝の一部を買った。買う際には、「何年の芝、パッカーズ何位のシーズン」などと記念品としてプレートになる場合もあり、以前の改築工事でも選手がサインをしたブロックが販売されるなどした。欧州のクラブ制は、100年以上の歴史の中で熟成されたシステムで、日本がすぐに真似できるものではないだろう。しかし米国のこうした方法はそうかけ離れたものではない。

「スポーツは誰のものか」これは21世紀最初に考えるべき重要なテーマである。昨日まで走っていた公園が、散歩していた道が、あすから公的資金難で使えないなどといったことが、いつ起きるかもしれない。スポーツという目的において、もっとも尊重されるのは「タックス・ペイヤー」(納税者)である。地域密着のスポーツを考える際には、こうした発想も持っていいはずだ。
 スポーツは固有の財産であり、することも見ることも、応援することもすべて人権なのではないか。地方の時代というのなら、行政はもっと智恵を出し合っていい。ひとつの企業がひとつのスポーツを手放すとき、2億、3億円ではすまない何かを捨てていることに早く気がづいていかなくてはならないのだ。
 企業も、社員も、ファンも、市民も、それを書くメディアも。


短信「柔道・野村忠宏が結婚を発表」
 シドニー五輪柔道60キロ級金メダリストで、アトランタ五輪と史上初の連覇を果たした野村忠宏(ミキハウス)が、6日行われたミキハウスの新年会(大阪市内)で、5月3日に大阪で挙式することを発表した。
 相手は、酒井葉子さんで野村よりもひとつ年上の27歳。寝屋川の高校生時代からモデルとして活躍していたという。2人はアトランタ五輪後から付き合いをはじめ、野村は昨年4月、体重別選手権でシドニー五輪代表を決めた際に、結婚を決心、葉子さんに気持ちを伝えた。
 野村は「彼女は柔道を知らないので、僕が一番弱い部分を見せなくてもいい。それがとても楽で支えになってくれている」と話し、結婚後はアメリカへの留学(西海岸が有力とのこと)を2年ほどして、アテネ五輪を狙いたいとも明らかにした。

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